○「
離婚の際の財産分与−清算割合は原則2分の1」で、夫が事業家で大変な遣り手で20年間の婚姻期間中に10億円もの財産を取得した場合でも専業主婦の妻には2分の1の5億円の財産分与請求権があるのかとの疑問について、財産を生み出すという意味で価値ある夫への家事労働による内助の功の価値も高くなると考えるべきで、2分の1が原則と答えていました。
○この高額所得者夫への財産分与請求での妻の寄与割合を2分の1と定める裁判例を探していますが、なかなか見つかりません。判例秘書で、「平成7年度以降から平成13年度まで,7000万円から9000万円の課税所得があり,課税所得から所得税・住民税を引いた実所得額は2500万円前後」との高額所得者夫への財産分与請求での妻の寄与割合が問題になった平成15年2月25日東京地裁判決が見つかりましたので紹介します。
○妻は、夫が「複数の会社を経営しており,年収7000万円を超える高額所得者である」、「財産分与の対象資産は,合計約6億8282万4000円であるので,被告は,原告に対し,その2分の1に相当する3億4141万円の財産分与請求権を有する。」と主張しています。
○裁判所判断は、妻は夫の「財産分与の対象財産の形成に少なくとも3割程度は寄与している」と認め、現金1億円と不動産の一部の財産分与を認めました。2分の1まで認めなかったのは、実質婚姻期間に争いがあることも考慮したと思われます。
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第3 当裁判所の判断
1(中略)
2(中略)
3 財産分与について
前記認定事実のほか,後記認定に供した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告と被告の婚姻期間中に形成され,財産分与の対象となる財産は,次のとおりである。評価額は,いずれも平成13年度の固定資産評価額による(但し,1万円以下は切り捨て)。
ア 不動産
@ 本件不動産1 このうち土地は5820万円,建物は185万円,計6005万円である。現在原告の所有名義であるが,原告持分を除く持分についてEとの間で別件訴訟があり,原告持分に限ると,その評価は,3189万円となる。また,建物については被告において,平成6年秋ころ約3200万円の改築費を支出して全面的に改築が行われており,被告,A,Bが居住している。(甲9,乙2,乙9の1から10まで,乙14,乙16,乙66の1,2,乙70の1,2)
A 本件不動産2 このうち地番○○○番○の土地は1942万円,地番○○○番○の土地は572万円,建物は220万円で,合計2734万円である。(乙3から5まで,乙67の1から3まで,乙71の1から3まで)
B 本件不動産3 土地は5612万円,建物は967万円で,合計6579万円で,現在,原告がDと同居している。(乙6,乙7,乙39,乙68の1,2,乙72の1,2,原告本人第1回)
C 本件不動産4 マンションの3階部分で,その評価額は1918万円である。(乙8,乙69,乙73の1,2)
D 以上の合計は,本件不動産1を原告持分に限って評価すると1億4420万円で,本件不動産1を全部として評価すると,1億7236万円となる。
イ その他の資産について
@ 原告は,昭和36年4月,ビルの清掃,管理を業とするI株式会社を設立した。同社は,親会社であるJ株式会社との取引の関係で,昭和40年,Fに名称を変更した。Fは,平成13年の時点において,資本金3000万円,従業員数2000名(正社員900名),年間売上約80億円,経常利益約7億円である。なお,原告はFの株式6万株全部を有している。(前記2(1)で認定。原告本人第1回)
A 原告は,本件不動産1を購入した昭和49年当時は,年収420万円であったが,事業の拡大に伴い,収入を増やし,課税所得は,昭和57年度には,1991万5000円となり,平成7年度は7374万円,同8年度は6722万7000円,同9年度は7717万4000円,平成11年度は9210万円,平成12年度は9294万円となった。(甲10の1,2,乙11,乙63の1から5まで,乙64,乙65,乙74,弁論の全趣旨)
B 原告の収入の内訳は,平成13年度において代表取締役を務めるFから月額600万円,G株式会社から月額150万円,H株式会社から月額50万円及び決算時100万円などの役員報酬である。(原告本人第1回)
C 原告は,平成7年度以降から平成13年度まで,7000万円から9000万円の課税所得があり,課税所得から所得税・住民税を引いた実所得額は2500万円前後であると認められる。(乙64)
D 上記各収入により,原告には相当額の預貯金があるものと見込まれるが,原告がその明細を明らかにしないため,詳細は不明である。また原告はFの株式全部を所有しているほか,G株式会社等の株式を有しているが,その株式評価も決算書等が提出されていないため,不明である。他方,原告はFから未払い利息を入れて約3億円の借入をしている。なお,被告は,推定預貯金可能額の主張をするが,昭和57年度の課税所得1億9122万円を前提とするなどしており,採用できない。(甲8,乙65,原告本人第1回)
ウ 財産分与の対象となる資産について
以上によれば,財産分与の対象としては,主として本件不動産1から4までのほか,相当額の預貯金(A及びB名義の預貯金だけでも平成13年6月時点で合計1200万円余となる。甲17,甲18),これに加えて被告の将来の扶養的要素も考慮して,原告がF外から得る毎月の報酬を基礎とする。
(2)被告の寄与割合等について
前記2の認定事実によれば,原告と被告の婚姻期間は,34年間に及んでいること,その間,原告は,A,Bの監護養育を被告に全て委ねて,C,Dと世帯を持ちながら,仕事に専念した結果F等の会社を順調に発展させたものと認められ,これらの事情に照らせば,被告は財産分与の対象財産の形成に少なくとも3割程度は寄与しているものと認められる。
さらに,被告は本件不動産1においてA,Bとともに居住していること,被告には固有の財産や将来の安定した収入も見込まれないのみならず,引き続き社会的自立の難しいBの監護をせざるを得ない状況にあることを考慮すると,原告は,被告に対し,離婚に伴う財産分与として,被告に本件不動産1を分与することに加え,1億円(この額を定めるについては,本件不動産1について別件で係争中であることも考慮した。)の金員を給付するのが相当であると認められる。
なお,本件不動産1については,原被告とも現に居住している被告に対して分与することでは一致しており,原告が,原告持分のみか,それとも本件不動産1全部の所有権を有するのかが別件訴訟で争われているにすぎない。そうすると,仮に別件訴訟で原告が勝訴したときは,財産分与として被告に対し原告持分のみを移転させることは当事者双方の意に沿うものではないから,本件不動産1の登記に従い,原告が本件不動産1の所有権を有することを前提とした上で,この財産分与を命じることにした。
もっとも,別件訴訟において原告持分しかなかったとされたときは,原告においては,原告持分を除いてはこれを履行することは不能となるけれども,その場合には,もともと本件で財産分与の対象とはできなかった上原告持分以外は被告の実母Eの持分所有であったことになるから,被告が本件不動産1を管理処分するに際し支障となることは考えられず,原告は原告持分のみを移転すれば足りよう(ちなみに,被告は,反訴請求の趣旨中,本件不動産1について原告持分のみを移転することを求めており,このような便宜的な処理自体については異論はないものと考えられる。)。
また,財産分与の対象財産については,処分権主義の制限を受けないから,本件不動産1について原告持分を超える移転を命じることも許される(被告は,平成15年2月12日付けの上申書において,登記の現状を前提として,本件不動産1の所有権を財産分与として求める趣旨であることを明らかにしている。)。