○「
養育料債権ついての間接強制−1日5000円の間接強制金認定例」を続けます。
今回は、1日につき1000円の間接強制金支払を命じた平成19年11月22日広島家庭裁判所決定(家庭裁判月報60巻4号92頁)です。
養育費請求事件の執行力ある審判正本に基づき,養育費の未払分(50万円)及び弁済期の到来していない6か月分の各養育費並びに執行費用の支払を命じるとともに,一定の期間内に各金員の全額を支払わないときは,支払済みまで未払い分については180日,弁済期の到来していない養育費については各30日を限度として,1日につき各1000円の間接強制金の支払を命じています。
○このケースは、債務者たる父が、平成16年3月時点で年額724万7360円の給与収入を得ていると認定し、月額5万円の養育費を支払えとの審判が出て、当初審判に従った支払をしていたところ、平成19年1月から支払を停止し、家裁の履行勧告にも応じないものです。支払停止の理由は不明ですが、年額724万円も給与収入がまだあるなら給料差押の直接強制をすると思われますが、敢えて間接強制の申立をした理由が明らかではありません。
○「
『債務者が支払能力を欠くためにその金銭債権に係る債務を弁済することができないとき,又はその債務を弁済することによってその生活が著しく窮迫するとき』はできないものとされ(民事執行法167条の15第1項ただし書),それらの事実は債務者が主張立証すべきであるが,債務者は,当庁の審尋に対して何らの主張立証をしない。」との審判理由を見ると、債務者たる夫は失業したようには見えません。
○給料差押が出来るのに敢えて間接強制の申立をした理由を推測すると、支払をしない場合、最長6ヶ月間1ヶ月につき金3万円の間接強制金支払義務が生じ、月額5万円の養育費と合わせると月額8万円の請求が可能になり、後にある程度まとまった時点で給料差押の強制執行をする予定だったのかも知れません。この間接強制金支払を命じた審判の後、父が直ぐに養育費を支払ったのかどうか興味あるところですが、そのデータは全くないのが残念です。
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主 文
1 債務者は,広島家庭裁判所平成16年(家)第××号子の養育費申立事件の執行力ある審判正本に基づいて,この決定の送達を受けた日から10日以内に(但し,下記(2)の金員のうちこの期間内に弁済期が到来しないものについては,それぞれ弁済期が経過するまでに),債権者に対し,下記(1)ないし(3)の金員を支払え。
(1) 50万円(但し,平成19年1月分から同年10月分の合計)
(2) 平成19年11月から平成20年4月まで毎月末日限り5万円
(3) 執行費用 6020円
2 債務者が前項の期間内に前項(1)の金員の全額を支払わないときは,債務者は債権者に対し,その翌日から支払済みまで(但し,180日間を限度とする。),1日につき1000円を支払え。
3 債務者が,第1項の期間内に第1項(2)の各月ごとの金員の全額を支払わないときは,債務者は債権者に対し,各月分全額の支払がなされないごとに,第1項の期限の翌日から支払済みまで(但し,30日間を限度とする。),1日につき1000円を支払え。
理 由
第1 申立ての要旨
債務者は,債権者に対し,広島家庭裁判所平成16年(家)第××号子の養育費申立事件の執行力ある審判正本に基づいて,未成年者の養育費として,平成15年8月から未成年者が満20歳に達する日の属する月まで,毎月末日限り5万円を支払うべき債務を有しているが,債務者は平成19年1月以降,同債務を履行しない。
よって,債務者は,債権者に対し,本件申立てを認容する決定の送達を受けた日から10日以内に下記(1)ないし(3)(但し,下記(2)の金員のうち,この期間内に弁済期が到来しない部分については,それぞれ弁済期が経過するまでに)の金員を支払わないときは,各支払期限の翌日から支払済みまで相当な金員を支払う旨の決定を求める。
(1) 平成19年1月分から同年10月分の合計50万円
(2) 同年11月分から平成20年4月まで毎月末日限り5万円
(3) 執行費用
第2 当裁判所の判断
1 一件記録(当庁平成16年(家)第××号子の養育費申立事件の記録を含む。)によれば,次の事実が認められる。
(1)債権者と債務者は婚姻し,平成11年×月×日未成年者をもうけたが,同年×月×日,未成年者の親権者を債権者と定めて協議離婚した。
債権者は,平成15年8月×日,債務者に対して,養育費の支払を求める調停を申し立てたが(当庁同年(家イ)第×××号子の養育費調停申立事件),平成16年2月×日,同調停事件は不成立となって審判に移行した。当庁は,債務者が株式会社○○に勤務し平成15年分の給与収入として724万7360円を得ていること等を認定して,同年3月×日,平成15年8月から平成16年2月までの未払分35万円を直ちに,同年3月から未成年者が満20歳に達する日の属する月まで,毎月末日限り5万円の支払を命じる旨の審判をし(当庁平成16年(家)第××号,以下「本件審判」という。),同審判は同年3月×日債務者に対して送達がなされ,同年4月×日確定した。
(2)その後,債権者は,債務者が平成19年1月以降の養育費の支払をしないと主張して,同年3月×日,当庁に対して履行勧告の申立てをしたが,債務者は全く回答しなかった。そこで,債権者は,同年9月×日,本件を申し立てたが,債務者は,当庁からの審尋に対して何らの主張立証をしない。
2 ところで,養育費の間接強制について,「債務者が支払能力を欠くためにその金銭債権に係る債務を弁済することができないとき,又はその債務を弁済することによってその生活が著しく窮迫するとき」はできないものとされ(民事執行法167条の15第1項ただし書),それらの事実は債務者が主張立証すべきであるが,債務者は,当庁の審尋に対して何らの主張立証をしない。
3 そして,間接強制金の金額については,債務の性質,不履行によって債権者が受けるべき不利益,債務者の資力,従前の債務の履行の態様を特に考慮して定めるべきところ(同法167条の15第2項),債務の性質が養育費であること,債務者は,本件審判時,年額724万7360円の給与収入を得ていたこと,債務者は,平成18年12月までは支払をしていたが,その後,10か月間にわたって不履行を続けていること等を考慮し,1日当たり1000円と定めることとする。
但し,間接強制金の累積によって債務者に過酷な状況が生じるおそれがあることから,間接強制金の支払を命じる限度を,平成19年1月から同年10月までの養育費については180日間,同年11月以降の養育費については各月ごとに30日間と限定することとする。
よって,主文のとおり決定する。(裁判官 佐藤道恵)