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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

養育費・認知

養育料債権ついての間接強制−1日5000円の間接強制金認定例

○「養育料債権ついての間接強制−H16民事執行法改正の目玉政策一例」を続けます。
約束の養育費を全く支払わなくなった父親に対し、家裁での調停調書や公証人作成公正証書があった場合、勤務先が判れば給料差押をしますが、勤務先が判らずそれが出来ない場合に間接強制金の支払を命じることで養育費の支払を促すのが、民事執行法第167条の15で認められた扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制です。

○私の感覚では、失業・多重債務等で支払能力がなくなっている場合は、いくら間接強制金を課すぞと脅しても、ないものない、無い袖は振れぬであまり効果はなく、実務ではそれ程利用されていないのではと感じました。そこで実際裁判例を調べてみると、養育費87万円の遅滞に対し、その全額を支払わないと1日につき5000円の割合による間接強制金を支払えと言う判例が見つかりました。平成19年9月3日横浜家裁決定(家庭裁判月報60巻4号90頁)です。

○間接強制金を課す決定をする場合、民事執行法第172条3項で「執行裁判所は、前2項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。」とされており、この審尋で相手方は、「養育費の支払いをなすことは債権者の親権を認めることになるので一切の支払いを拒絶すると述べ,支払能力がない又は債務を弁済することによってその生活が著しく窮迫すると認められる事情については何ら主張しない。」とのことです。このような場合、間接強制は効果があるかも知れません。

以下、平成19年9月3日横浜家裁決定(家庭裁判月報60巻4号90頁)全文紹介します。

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主 文
1 債務者は,債権者に対し,当庁平成17年(家)第××号,同第×××号事件の執行力ある審判正本に基づいて,この決定の送達を受けた日の翌日から7日以内に,87万円(ただし,平成17年4月分から同年11月分までの合計24万円及び同年12月分から平成19年8月分までの合計63万円)を支払え。
2 債務者が前項の期間内に前項の金員の全額を支払わないときは,債務者は,債権者に対し,その翌日から支払済みまで(ただし,175日間を限度とする。),1日につき5000円の割合による金員を支払え。

理 由
1 本件間接強制申立ての趣旨及び理由は別紙の通りである。

2 一件記録(当庁平成17年(家)第××号,同第×××号,同第××○号,同第××△号事件記録を含む。)によれば,次の事実が認められる。
 債権者は,債務者との間の2人の子の養育費の支払を求め,子の監護に関する処分(養育費請求)の申立て(当庁平成17年(家)第××号,同第×××号)を,債務者は,上記2人の子の各親権者を債権者から債務者に変更することを求め,親権者変更の申立て(当庁平成17年(家)第××○号,同第××△号)を,それぞれなし,同年12月×日,当庁平成17年(家)第××号,同第×××号事件について「1 債務者は債権者に対し24万円を支払え。2 債務者は債権者に対し平成17年12月から未成年者らがそれぞれ成年に達する月まで1人につき毎月各1万5000円を毎月末日限り支払え。」,当庁平成17年(家)第××○号,同第××△号事件について,「本件申立てを却下する。」との審判(以下「本件審判」という。)がなされ,これに対する即時抗告は棄却され,抗告棄却決定に対する抗告は許可されず,本件審判は,平成18年3月×日,確定した。

3 債務者は,本件審判を不服として,本件審判で命じられた養育費の支払いを一切していない。不払いの養育費は合計87万円(平成17年4月分から同年11月分までの合計24万円及び同年12月分から平成19年8月分までの合計63万円)である。

4 債権者は,平成18年7月×日,当庁に履行勧告を申し立てたが,債務者が任意の履行を拒絶したので,同年8月×日,履行勧告は終了した。債務者が支払いをしない理由は本件審判の結果に納得できないということであった。

5 債務者は,審尋書において養育費の支払いをなすことは債権者の親権を認めることになるので一切の支払いを拒絶すると述べ,支払能力がない又は債務を弁済することによってその生活が著しく窮迫すると認められる事情については何ら主張しない。

  以上によれば,本件申立てを認めるのが相当である。間接強制金の額について未払債務の額その他諸般の事情を考慮し,1日当たり5000円と定めるが,間接強制金の累積により債務者に過酷な状況が生じるおそれのあることを考え,175日間を限度とすべきである。
  よって,主文のとおり決定する。(裁判官 押切 瞳)
〔編注〕 別紙は省略した。