○
「別居中の婚姻費用分担義務」に、「
別居に至った原因について夫婦双方に責任がある場合は、同居中の生活程度を保持しうるに足る金額を基準として、これに双方の責任の度合いに応じて増減修正した金額が負担額になります(大阪家審昭和54.11.5家裁月報32-6-38)。この責任の度合いを決めるのは大変難しいところですが、別居に至った原因として妻にも半分責任があれば同居中の金額の半分しか請求できないことになります。」と記載していましたが、この妻に責任があった場合、東京・大阪養育費等研究会作成「
養育費・婚姻費用の算定方式と算定表」での婚姻費用が修正されるのではとのご質問受けました。
○そこで昭和54年11月5日大阪家裁審判(家裁月報32巻6号38頁)をもう少し詳しく紹介します。
この判例は、別居中の子の監護者指定、引渡要求、面接交渉等についても重要な判断をしていますが、別居中の夫婦間の婚姻費用分担義務については、夫婦双方が夫婦関係の破たんないし別居に対し多少とも責任を有する場合又は双方とも責任がない場合においては、いわゆる生活保持義務の性格を堅持しながらも、権利者が義務者との同居中になしていた生活程度を保持し得るに足る額を基準額とし、これに双方の有責性の度合に応じて増減修正した額をもつて負担額とすべきであるとしています。
○この婚姻費用分担義務についての全文は以下の通りです。
「
当裁判所は別居夫婦間の婚姻費用分担義務の内容を決定するにあたり、夫婦関係の破綻ないしは別居につき双方が負う有責性の度合に従つて、以下のように区分すべきであると考える。即ち、
(イ)夫婦関係の破綻ないし別居につき無責の配偶者から有責の配偶者に対して婚姻費用分担請求をなした場合、義務者はいわゆる生活保持義務として自己の収入に見合つた額を負担すべきである。
(ロ)逆に、有責の配偶者から無責の配偶者に対して請求をなした場合、義務者は権利者が人として必要最低限の生活を営みうる額の婚姻費用を負担すれば足りる。
(ハ)上記のいずれとも定められない場合、即ち夫婦双方が夫婦関係の破綻ないし別居に対して多少とも責任がある場合もしくは双方いずれも責任がない場合、その婚姻費用分担はいわゆる生活保持義務の性格を堅持しながらも、権利者が義務者との同居中になしていた生活程度を保持しうるに足る額を基準額とし、これに双方の有責性の度合に応じて増減修正した額をもつて負担額とすべきである。ただし、(イ)によつて定められる額を最高限と、(ロ)によつて定められる額を最下限とすることは言うまでもない。
以上の区分の理由は、夫婦の一方が他方に対して同居中と同様の婚姻費用の分担を請求しうるためには、権利者自らが夫婦関係の破綻ないし別居につき責任を有せずもしくは義務者の責任と同等以下の責任しか有していないことを要すると解すべきであり、権利者が義務者よりも有責性が高い場合は、自ら夫婦間の同居協力の義務を果たしえない状況を作り出した以上、その有責性の度合に応じて義務者の婚姻費用負担額が減額されてもやむを得ないという点にある。」
○この判例事案では、別居中の妻が夫に対し、8歳、6歳の2人の子供の養育費を含む婚姻費用として毎月27万円を請求しました。当時、「
養育費・婚姻費用の算定方式と算定表」は作成公表されておらず、裁判所は、同居時の一家4人の生活費を月額20万円、○○事務所経営自営の夫収入を月額60万円、妻のピアノ教師としての収入を月額2万4000円と認定し、妻、夫双方の生活費等を詳細に検討した上で、2人の子供を含む生活費は、月額約16万円と認定し、申立人自身の収入を控除した金額として毎月13万円を夫が妻に支払うべき婚姻費用と認定しました。
○この判例では、「
本件夫婦関係の破綻および別居の責任は当事者双方にあり、申立人(妻)は本件別居につき責任なしとは言えないので、相手方(夫)の婚姻費用負担の程度は、相手方に対する協力扶助の義務を申立人が自らの責任で履行していない分に応じて軽減されるべきであるから、上記(二)の(ハ)の基準に従つて婚姻費用を決定すべきであると思料する。」と述べていますが、前記婚姻費用月額13万円に至った結論にこの「軽減」の程度がどの程度影響したかは残念ながら読み取れませんでした。考え方としては、婚姻費用の中で子供の養育費部分を除いた妻自身の生活費を折半することになろうかと思います。しかし更に調査を続けます。