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「別居期間9年8ヶ月での有責配偶者離婚請求認容例」の話を続けます。
この事案は妻が有責配偶者という珍しいもので、更に有責配偶者の妻の精算的財産分与請求権を当然出来ると認めた至極妥当な判決です。
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別居期間だけで判断できず
本件もは昭和62年9月2日大法廷判決での3要件−@長期の別居期間、A未成熟子の不存在、B苛酷状況の不存在に従って判断して離婚請求を認容したもので、その結論は極めて妥当なものです。この三要件の内別居期間の長さについて、8年程度あれば、右要件を満たすと認めるのが実務の傾向との見解もありますが、
「有責配偶者の離婚認容要件−裁判例概観」記載の通り、別居6年で認めるものもあれば,13年で棄却するものもあり、他の要件との関連も検討する必要性があります。
○有責配偶者でなければ5年程度の別居で婚姻破綻と認定され離婚がを認められるところ、有責配偶者からの離婚請求の場合には、さらに一定期間の別居を要求される理由は、有責配偶者からの離婚請求を他の一般の離婚請求と同じ基準で認めることに対する国民の反感であり、一定期間の追加の別居期間を要求することは有責配偶者に対する社会的制裁とされています。ですから離婚に対する国民感情の変化で要求される別居期間は短縮化されると思われます。
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有責配偶者の不貞に至る経緯も考慮すべき
この事案では妻が夫以外の男性と男女関係になったのは昭和55年9月から昭和57年ころまで,それ以前の昭和53年から夫が無為徒食となり更に妻に暴力をふるい昭和54年4月には夫婦間の性関係も途絶え相当程度夫婦関係は悪化しており、妻の不貞行為が一方的に責められるものではありません。
○更に昭和56年別居後夫は子供の教育費の一部を負担したのみで妻や子供たちの生活費を負担せずまたAとの婚姻関係復活の努力も全くせず、自分の実母と一緒に生活しおそらくこの夫の食事等身の回りの世話はその実母がしていたものと思われます。
○昭和62年の提訴でその3年後の平成2年に一審浦和地裁熊谷支部で妻の離婚請求が有責配偶者を理由に棄却されていますが、前記3要件の内別居期間が短すぎるとして棄却されたとすれば余りに形式的判断です。有責配偶者と言ってもその不貞に至る経緯に他方配偶者にも責任がある場合は要件が緩和されて然るべきであり、更にその後の離婚を拒絶する他方配偶者の婚姻復活の意欲も考慮すべきであり、高裁判決結論は極めて妥当です。