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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

相続人

40年ぶり改正相続法-配偶者居住権部分の条文紹介

○以下の日経新聞報道によると40年ぶりの相続法改正案が平成30年6月19日に衆議院で可決されて参議院に送付されたとのことです。法務省HPの「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」「法律案要綱」「法律案」「理由」「新旧対照条文」がPDFファイルで掲載されています。

○以下、日経新聞報道です。

住まいや生活資金、配偶者保護手厚く、相続の民法改正案が衆院可決。
2018/06/20 日本経済新聞 朝刊
 
 相続分野の規定を約40年ぶりに見直す民法改正案など関連法案が19日、衆院本会議で可決、参院に送付された。高齢化が進むなか、残された配偶者が住まいと生活資金に困らないよう、保護を手厚くする。配偶者が自身が亡くなるまで今の住居に住める「配偶者居住権」の創設が柱だ。今国会での成立をめざす。ただ、対象を法律婚の夫婦に限定したことに異論も出ている。
 衆院を通過したのは民法と家事事件手続法の一部を改正する法案だ。残された配偶者が今の家の所有権を持たずに住み続けられる権利や、遺産分割とは別に住居の贈与を受ける制度で預貯金など他の遺産の取り分を増やし、老後の生活資金を得やすくする。
 現行制度でも配偶者は住居の所有権を得ればそのまま住み続けられる。ただ、住まいを確保するために所有権を得ると、預貯金などの取り分が少なくなり、生活資金に困窮する可能性があった。
 遺言がなく配偶者と子1人で遺産を分ける場合、配偶者と子の取り分は各2分の1だ。遺産が評価額2000万円の住居と預貯金3000万円のケースで考えると2500万円ずつになる。残された配偶者が今の住居に住み続けるために住居の所有権を得ると、預貯金は500万円しか得られない。
 一方、新設する配偶者居住権は売却の権利がなく、評価額も所有権より低くなる。居住権の評価額が1000万円だったと仮定すると、居住権を得た配偶者の預貯金の取り分は1500万円に増える。婚姻期間20年以上の夫婦で、住居を生前贈与するか遺産で贈与の意思を示せば住居を遺産分割の対象から外せる優遇措置を設ける。実質的に配偶者の取り分は増える。
 介護や看護に報いるため、息子の妻など相続人以外が義父母などを介護していた場合、相続人に金銭を請求できるようにする制度も設ける。
 検討課題は残る。配偶者の生活を保障する新たな制度が、法律婚の夫婦に限定されたためだ。衆院法務委員会で採択された付帯決議は「多様に変化する家族のあり方を尊重し、保護のあり方を検討する」と明記した。
 生前に書く自筆証書遺言を全国の法務局で保管する制度を創設する法案も19日の衆院本会議で可決された。従来は自宅で保管するか、弁護士や金融機関に預けていたが、自宅での保管では改ざんや紛失の恐れもあり、被相続人の死後に遺言の所在がわからなくなる可能性もあった。
 家庭裁判所で相続人が立ち会って中身を確認する「検認」を不要にし、財産目録をパソコンで作成可能にするなど利便性を高める。


○以下、法務省HPで紹介された理由と、法律案の内、配偶者居住権部分を紹介します。PDFファイルは漢数字による縦書きで見にくいので、算数字横書きに修正しました。どこかに修正ミスが残っているかも知れませんのでご注意下さい。

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理由
高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続が開始した場合における配偶者の居住の権利及び遺産分割前における預貯金債権の行使に関する規定の新設、自筆証書遺言の方式の緩和、遺留分の減殺請求権の金銭債権化等を行う必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

第2条民法の一部を次のように改正する。
目次中「第1041条」を「第1027条」に、「第八章遺留分(第1042条―第1049条) 第九章特別の寄与(第1050条) 」
「第八章配偶者の居住の権利 第一節配偶者居住権(第1028条―第1036条)
を第二節配偶者短期居住権(第1037条―第1041条)第九章遺留分(第1042条―第1049条) 第十章特別の寄与(第1050条) 」 に改める。
第1028条から第1041条までを削り、第五編中第九章を第十章とし、第八章を第九章とし、第七章の次に次の一章を加える。

第八章配偶者の居住の権利
第一節配偶者居住権


第1028条(配偶者居住権)
 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第903条第4項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

第1029条(審判による配偶者居住権の取得)
 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。

第1030条(配偶者居住権の存続期間)
 配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

第1031条(配偶者居住権の登記等)
 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
2 第605条の規定は配偶者居住権について、第605条の4の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

第1032条(配偶者による使用及び収益)
 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
2 配偶者居住権は、譲渡することができない。
3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
4 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。

第1033条(居住建物の修繕等)
 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
2 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。
3 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

第1034条(居住建物の費用の負担)
 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
2 第583条第2項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

第1035条(居住建物の返還等)
 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2 第599条第1項及び第2項並びに第621条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相者居住権を取得したとき、又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合第3項の申入れの日から6箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第1項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。

第1036条(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)
 第597条第1項及び第3項、第600条、第613条並びに第616条の2の規定は、配偶者居住権について準用する。

第二節配偶者短期居住権

第1037条(配偶者短期居住権)

 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合第3項の申入れの日から6箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第1項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。

第1038条(配偶者による使用)
 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。
2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。
3 配偶者が前2項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。

第1039条(配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅)
 配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する。

第1040条(居住建物の返還等)
 配偶者は、前条に規定する場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2 第599条第1項及び第2項並びに第621条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

第1041条(使用貸借等の規定の準用)
 第597条第3項、第600条、第616条の2、第1032条第2項、第1033条及び第1034条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。