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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

扶養

兄弟姉妹間の扶養義務内容程度について判断した東京高裁決定紹介

○「兄弟姉妹間の扶養義務内容程度について判断した東京家裁審判紹介」の続きで、その抗告審である平成28年10月17日東京高裁決定(判タ1446号131頁)を紹介します。

○三女(抗告人A)が、相手方(長男)に対し、抗告人(長女B)が要扶養状態にあるとして、抗告人B(長女)に対する扶養料の支払を求めるとともに、過去に負担した扶養料の求償を求める申立てをしたところ、原審が、相手方が抗告人B(長女)に対して支払うべき扶養料を月額4万円とし、抗告人A(三女)の求償請求を認めなかったことから、抗告人らが抗告した事案です。

○原審平成28年3月25日東京家裁審判では、長女Bの扶養料の額は月額8万円として、三女Aは収入より債務支払の方が多く扶養能力がないので、相手方長男と二女Fとで分担して各月額4万円ずつ支払うべきとの認定でした。それが抗告審平成28年10月17日東京高裁決定では、二女Fの扶養能力も否定して、扶養能力のある長男のみが長女Bに対し、月額8万円の扶養料支払うよう命じました。また、過去の扶養料として長女に対し84万円、過去扶養料求償分として三女Aに対し112万円の支払を命じました。

○兄弟姉妹の扶養義務に関して、扶養料の額は「生活保護基準を目安として定めるのが相当」とし、扶養料支払義務を負うのは「扶助する経済的な余力がある者」のみに限定するもので、大変参考になる判例です。

     亡D(父)_______亡E(母)
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長男(相手方)  長女B(抗告人) 二女(F)  三女A(抗告人)

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主  文
1 原審判を次のとおり変更する。
(1) 相手方は,抗告人Aに対し,112万円を支払え。
(2) 相手方は,抗告人Bに対し,84万円を支払え。
(3) 相手方は,抗告人Bに対し,平成28年○月から,月額8万円を毎月末日限り支払え。
2 手続費用は,第1,2審を通じて,各自の負担とする。

理  由
(前注)略称は,原審判の例による。
1 抗告の趣旨及び理由

 抗告状,抗告状訂正申立書,抗告理由書及び準備書面に記載のとおりである。

2 事案の概要
 抗告人Aは,相手方(長兄)に対し,抗告人B(抗告人Aの姉であり,相手方の妹)が要扶養状態にあるとして,抗告人Bに対する扶養料の支払を求めるとともに,過去に負担した扶養料の求償を求める申立てをした。原審裁判所は,相手方が抗告人Bに対し支払うべき扶養料を月額4万円とし,抗告人Aの求償請求を認めなかった。これに対し,抗告人らが抗告した。

3 当裁判所の判断
 当裁判所は,相手方が抗告人Bに対し支払うべき扶養料を月額8万円とし,抗告人Aの求償請求は112万円の限度で認めるのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原審判の理由の第3の1,2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原審判4頁25行目の「受けた。」の次に「加えて,抗告人Bは,H医師より,平成28年○月○日,うつ病のため仕事をすることが不可能であること,動物を飼育することには抗告人Bの精神状態を安定化させる効果がみられること,飼育していなかった場合,現在よりも精神症状が悪化していた可能性が高いこと等の記載のある診断書の発行を受けた。」を,26行目の「37」の次に「,75」をそれぞれ加える。

(2) 原審判5頁1行目の「○」の次に「又は○」を加え,1行目から2行目にかけての「平成24年」を「平成27年」に改め,2行目の「まで」の次に「,年金収入もなく」を,同行目の「甲」の次に「8,」をそれぞれ加え,同行目の「33」を「83」に改める。

(3) 原審判5頁5行目の「認めるところ」から6行目末尾までを「給与収入は,平成24年が600万円,平成25年及び平成26年が720万円,平成27年は840万円であった。(甲13,14,82の1ないし3)」に改める。

(4) 原審判5頁17行目の「購入した」の次に次のとおり加える。
 「。また,抗告人Aは,抗告人B名義の○預金口座の通帳を所持して,平成20年○月から平成27年○月まで,自宅,J等周辺の店舗で入金し,抗告人Bは,自宅近くの店舗でキャッシュカードを利用して出金し,生活費に充てていた(甲30の1ないし4,62)。」

(5) 原審判5頁22行目の「,誰からの」から24行目の「62〕」までを削除する。

(6) 原審判10頁22行目末尾の次に「相手方は,株式会社Kから報酬を得ているほか,Dから相続した賃貸マンションを所有している。(甲9)」を加える。

(7) 原審判11頁11行目の「平成24年」を「平成27年」に改める。

(8) 原審判11頁16行目冒頭から12頁19行目末尾までを次のとおり改め,20行目の「そして」を「そこで」に改める。
 「 イ 上記1(1)ア,(2)キ(カ),(キ)によれば,抗告人B(昭和24年○月○日生)は,平成25年○月○日,○病院において,自律神経失調症との診断を受けたこと,また,抗告人Bは,H医師により,平成26年○月○日にうつ病の診断を,同年○月○日及び平成28年○月○日にうつ病により仕事をすることが不可能であるとの診断を,それぞれ受けていることが認められるところ,これらの事実及び抗告人Bが平成20年以降無職無収入の状態にあるとの事実(上記ア)に照らせば,抗告人Bは,遅くとも平成25年○月の時点(後記(3)アのとおり,相手方が抗告人Aから扶養の精算を求められた時点)では,要扶養状態にあったと認めるのが相当である。

(2) 次に,扶養の程度についてみるに,生活扶助義務に基づく扶養料の額については,扶養権利者の生存権を確保するとともに,扶養義務者の扶養義務の範囲を明確にするという観点から,生活保護基準を目安として定めるのが相当である。

(9) 原審判13頁8行目冒頭から14頁17行目末尾までを次のとおり改める。
 「以上によれば,平成25年○月以降の抗告人Bの扶養料の額は,月額8万円と認めるのが相当である。

(3) 次に,抗告人Aの相手方に対する過去の扶養料の求償請求について検討する。
ア 抗告人Bは,平成20年○月○日,E死亡に伴う遺産分割により4000万円を取得しており,この時点において,相手方は,抗告人Bが扶養を要する状態にあるとの認識は全く抱いていなかったこと(上記1(2)カ,乙5,審問の結果),相手方は,抗告人Aから,平成25年○月○日付けの書面で,抗告人Aが抗告人Bに対して支払った扶養料の精算を求められたが,それまで,相手方が抗告人Aから,抗告人Bの扶養に関する相談や連絡を受けたことはなかったこと(乙1,審問の結果),平成25年○月以降の抗告人Bの扶養料は月額8万円が相当であること(上記(2))に照らすと,抗告人Aが相手方に対して求償できる過去の扶養料は,平成25年○月から基準日(平成27年○月○日)までに抗告人Aが抗告人Bに対して支払った扶養料に基づき算定するのが相当であり,その額は月額8万円を上限として,これを扶養能力のある扶養義務者の人数で除した額に限られると解するのが相当である。

イ 抗告人Aは,相手方が,平成20年○月○日の時点で抗告人Bが要扶養状態であったことを認識していた旨主張するが,その根拠とする同日付け書面(甲17)には,「Aには母依頼に基づく借金負担としての貢献を認め,代償財産として1千万円,融資として1千万円,計2千万円をCが支払う。」と記載されていて,抗告人Bの扶養に関する書面であるとは認められないから,同主張は採用できない。

 また,抗告人らは,生活保護においては,固定資産税,保険料,上下水道の基本料金等が免除されており,抗告人Bが支払っているこれらの費用の合計は月額2万5000円であるから,扶養料の月額は少なくとも10万5480円(8万0480円+2万5000円)となる旨主張する。しかし,生活扶助義務に基づく扶養料の額については,上記(2)のとおり,生活保護基準を目安として定めるのが相当であるところ,抗告人らが主張する抗告人Bの支出は,これを上記生活保護基準で算定された金額に上乗せしなければ,抗告人Bの生存権が確保されないとまでは認め難いから,抗告人らの上記主張は採用できない。

ウ 抗告人Aは,平成25年○月○日から平成27年○月○日までの間,上記1(3)ウの表のとおり,抗告人Bを配送先と指定して物品を購入しているが,購入に係る物品は,ペット用品,服飾品,電化製品,健康食品及び美容品であるところ,そのいずれについても,趣味ないし嗜好の範疇に属するものと考えられるから,これらの購入が扶養の趣旨でされたものと認めることはできない。

 なお,H医師は,平成26年○月○日の診断書においては動物を飼育することは抗告人Bの症状を回復するために必要と判断する旨を記載し,平成28年○月○日の診断書においては動物を飼育していなかった場合には現在よりも精神症状が悪化していた可能性が高い旨記載している(上記1(2)キ(キ))。しかし,抗告人Bは,遅くとも平成20年○月頃から猫を飼育していると認められるところ(上記1(3)ウの表),平成21年に医療機関を受診した際には問題となる所見は得られなかったのが,平成25年には自律神経失調症と診断され,平成26年にはうつ病と診断されるに至ったというのであるから(上記1(2)キ(ウ)ないし(キ)),猫の飼育が抗告人Bの症状の回復に資するものとなっていたとは直ちに認め難いし,H医師が抗告人Bの診察を開始した時期は,平成26年○月であること(甲75)に照らすと,平成28年○月○日の診断書における上記記載のみから,猫の飼育をしなければ現在よりも精神症状が悪化していたとの事実を認定することもできない。

エ これに対し,上記1(3)ウの抗告人Aによる抗告人Bの預金口座への入金のうち,平成25年○月(上記アのとおり,求償可能な過去の扶養料の始期となる時点)以降の分については,抗告人Bがその頃無職無収入であったことに照らすと,扶養の趣旨でされたものと認めることができる。そして,証拠(甲30の4,62)によれば,抗告人Aは,同月から平成27年○月までの28か月間,毎月15万円程度を入金していることが認められる(なお,平成27年○月には入金はない。)。そうすると,抗告人Aは,上記の28か月間,毎月8万円を超える扶養料を支払ったこととなるから,求償できる過去の扶養料を算出する前提となる扶養料の支出額は,合計224万円(80,000×28)となる。したがって,抗告人Aは,相手方に対し,その2分の1に相当する112万円(なお,Fに扶養能力が認められないことは後記のとおりであるから,扶養義務者は抗告人Aと相手方の2名である。)について求償できると解するのが相当である。

(4) 次に,基準日後に,相手方が抗告人Bに対して支払うべき扶養料について検討する。
ア 上記(2)のとおり,基準時後における抗告人Bの扶養料は月額8万円と認めるのが相当である。

(10) 原審判15頁3行目冒頭から16行目末尾までを次のとおり改める。
 「また,課税証明書によれば,Fの平成20年から平成24年までの所得金額はいずれも0円であり,平成25年は約1万7000円の年金収入,平成26年は給与収入と年金収入の合計約200万円,平成27年は合計約182万円であり(甲33の1ないし5,84の1ないし3),抗告人Bを扶助する経済的な余力があるとは認められない。相手方は,Fが相続により得た約7000万円を保管している旨主張するが,Fは,両親の遺産分割により7000万円を取得したことは認められるものの(甲9,10),平成10年に離婚し,二人の子を養育するためなどに費消した旨陳述しており(甲80,81),7000万円を現に保有していることを認めるに足りる証拠はない。他方,相手方は,扶養能力があることについて認めており,収入に関する資料は提出しない旨主張している。以上によれば,月額8万円の抗告人Bの扶養料は相手方が全額負担するのが相当である。
 したがって,相手方は,抗告人Bに対し,扶養料として,平成27年○月の半月分4万円と同年○月から平成28年○月までの分80万円(8万円×10月)の合計84万円及び同年○月から毎月末日限り月額8万円を支払うべきである。」

4 結論
 よって,相手方は,抗告人Aに対し112万円を,抗告人Bに対し84万円及び平成28年○月から毎月末日限り8万円をそれぞれ支払うべきであり,これと異なる原審判の主文を本決定主文第1項のとおり変更することとして,主文のとおり決定する。
 平成28年10月17日
 東京高等裁判所第20民事部 (裁判長裁判官 山田俊雄 裁判官 齋藤清文 裁判官 鈴木順子)