○「
養子縁組意思を認めた平成27年9月16日東京家裁(第一審)判決全文紹介」の続きです。
一審平成27年9月16日東京家裁では、養子縁組意思を認めたのに対し、亡Aの長女及び二女である原告ら(控訴人)が、世田谷区長に対する届出によってされたAと被告(被控訴人)との養子縁組は、Aの縁組意思及び届出意思に基づかないものであると主張して、その無効であることの確認を求めたところ、請求が棄却されたため、原告らが控訴した事案において、本件養子縁組は、専ら、税理士が勧めたA死亡の場合の相続税対策を中心としたAの相続人の利益のためにされたものにすぎず、Aや代諾権者であるB夫婦において、Aの生前にAと被告との間の親子関係を真実創設する意思を有していなかったことは、明らかというべきであり、本件養子縁組は、無効といわざるを得ないとし、原判決を取り消し、原告らの請求を認容した平成28年2月3日東京高裁判決(金融・商事判例1515号12頁)全文を紹介します。
亡A____D
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B(長男) 控訴人X1(長女) 控訴人X2(二女)
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被控訴人Y
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主 文
1 原判決を取り消す。
2 平成24年5月■日東京都世田谷区長に対する届出によってされたA(本籍福島県a市b■番地■,昭和6年■月■日生,平成25年■月■日死亡)と被控訴人との間の養子縁組は無効であることを確認する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要(略語は,原判決の例による。以下,本判決において同じ。)
1 控訴人らは,A(本籍福島県a市b■番地■,昭和6年■月■日生,平成25年■月■日死亡(A))の長女及び二女であり,被控訴人は,Aの長男で控訴人らの弟に当たるB(B)の長男である(甲1,2)。
本件は,控訴人らが,平成24年5月■日東京都世田谷区長に対する届出によってされたAと被控訴人との養子縁組(本件養子縁組)は,Aの縁組意思及び届出意思に基づかないものであると主張して,その無効であることの確認を求めた事案である。
2 原審は,控訴人らの請求を棄却し,これを不服とする控訴人らが,本件控訴を提起した。
3 前提事実及び当事者の主張の骨子は,次のとおり改めるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1及び2(原判決2頁5行目から5頁21行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決2頁11行目の「福島県c町」を「福島県f郡c町」と改める。
(2)原判決4頁4行目の「事実もない」を「事実もなく,自分の年齢から考えて被控訴人を養育できる時間はない」と改め,5行目の「甲7」の次に「,甲32」を加える。
(3)原判決5頁13行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「税理士がAに養子縁組の説明をしていたとしても,それだけではAに縁組意思があったとは認められず,また,当時,Aは,Dの死後,Bに対する考え方を変え,Bに財産を残す必要はないと考えていたのであるから,Bの子である被控訴人を跡取りにするという考えはなかったのである。
したがって,Aとしては,縁組届であることを認識して本件縁組に係る届出書に署名したものではないし,仮にそれを認識していたとしても,縁組意思及び届出意思まではなかったというべきである。」
(4)原判決5頁14行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「Aは,被控訴人をI家の跡取りとするとともに,相続税対策を行うために,被控訴人を養子とすることを決意したものである。本件養子縁組当時,財産に関する争いはなく,Aの縁組意思及び届出意思は明確にあった。」
第3 当裁判所の判断
当裁判所は,原審とは異なり,Aには縁組意思がなく,本件養子縁組は無効であると判断した。その理由は,以下のとおりである。
1 前記前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)被控訴人の父であるBは,クリニックの院長を務める医師であり(乙31の1),39歳であった平成22年6月■日に婚姻し,平成23年■月■日,その妻との間に,第一子であり長男である被控訴人をもうけた(甲2)。
(2)Bは,被控訴人の出生後,税理士から,被控訴人をAの養子とした場合に,相続税の基礎控除額及び死亡保険金等の非課税枠が増えるなどの節税メリットがある旨の説明を聞いた(乙42)。
(3)Aは,平成23年12月末,控訴人X1に対し,Bの税理士から養子縁組を持ちかけられて困っている,ずっと断っているのに何度も電話があると話した(控訴人X1本人)。
(4)Aは,平成24年2月7日,自宅(dの不動産)を訪れた税理士の職員から,効果的な相続税対策として,被控訴人と養子縁組をすることの節税メリットの説明を受けた(乙3)。
(5)Aは,Dが平成24年3月■日に死亡した(甲1)後の同年4月24日,B,その妻及び被控訴人と共に自宅を訪れた税理士及びその職員から,被控訴人と養子縁組をすることの節税メリットと養子縁組の手続の説明を受けた(乙3)。
(6)Aは,平成24年4月24日に税理士らの面前で(B本人)又はDの四十九日法要のあった同年5月3日に(乙42),本件縁組届に署名押印した(前記前提事実(6),弁論の全趣旨)。
(7)AとBの関係は,平成24年6月頃,BがAに対して同人の女性問題を追及するなどしたことなどをきっかけに悪化し,Bは,Aからの連絡を拒むようになった(前記前提事実(5))。ただし,Bは,本件養子縁組前から,Aには女性問題があると考えていた(乙42)。
(8)Aは,平成24年10月7日付け書面で,Bに対し,本件養子縁組はBの勝手な判断によるものであり,自分は本件養子縁組について詳しい説明を受けたことも,本件縁組届に署名押印した事実もなく,自分の年齢から考えて被控訴人を養育できる時間はないと述べ,同月12日,被控訴人との養子離縁届(ただしB夫婦が作成に関与していないもの)を世田谷区長に提出した(前記前提事実(8))。
(9)後に被控訴人から提起された離縁無効確認請求訴訟に対し,本件養子縁組の無効確認を求めた反訴状において,Aは,本件養子縁組について,「実体的意思,すなわち真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有していなかった」,「養親による養子の監護養育が不可能であり,現にその実態が存在しない」,「現に,平成24年5月■日以降も,反訴被告(本訴原告)と反訴原告(本訴被告)は同居すらせず,面会すらすることもなく,現在に至っているものである。反訴被告(本訴原告)は,実父母であるB及びCによって当時もまた現在も養育されているのみならず,Bは医師として職務を行い,資産も保有しており,経済的にもまた養育環境においてもこれを養育できないとされる状況には全くないものであり,養子に出すことを考えることはあり得ないのである。」などと主張した(前記前提事実(10),甲19)。
なお,上記反訴は,訴訟係属中にAが死亡したことから,当然終了となった(前記前提事実(10))。
2 Bの陳述書(乙42)には,Aは,晩婚のBが40歳になって子に恵まれ,内孫の被控訴人が男の子であったことを大層喜び,その出生後間もなく,被控訴人を養子にする旨をBに話したとの記載がある。また,Bは,当事者尋問に際し,妻が被控訴人を懐胎した当時,生まれてくる子を養子にすることによって,家を守るという話が持ち上がった,Bに何かがあったときには両親の親友である大工が建ててくれた家を守れなくなる可能性もあるが,生まれてくる子が男子であれば,その家を継がせることによって,今後60年、70年と家を守ることができるという話が持ち上がったなどと供述する。
しかし,Aが被控訴人の誕生を喜んだというのはそうであるとしても,Bの供述する本件養子縁組の動機は,要するに,昔ながらの「家を継ぐ」というものではなく,A所有のdの不動産を相続し,その管理を継続するということにほかならない。
そしてさらに,前記1に認定した諸事実を併せて考えれば,本件養子縁組は,専ら,税理士が勧めたA死亡の場合の相続税対策を中心としたAの相続人の利益のためになされたものにすぎず,Aや代諾権者であるB夫婦において,Aの生前にAと被控訴人との間の親子関係を真実創設する意思を有していなかったことは,明らかというべきである。
3 そうすると,Aが,養子縁組届であることを認識せずに本件縁組に署名したとする控訴人らの主張を採用することはできないものの(その理由は,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の1(原判決5頁23行目から6頁15行目までに)に記載のとおりであるから引用する。),本件養子縁組は,Aや代諾権者であるB夫婦に真に養親子関係を創設する縁組意思がなかったことから無効といわざるを得ない。
以上の認定,判断に反する被控訴人の主張は採用することができない。
第4 結論
よって,控訴人らの請求には理由があり,これを棄却した原判決は相当でないから,これを取消した上,控訴人らの請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 石井忠雄 裁判官 石橋俊一 裁判官 鈴木和典