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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

寄与分

介護専従相続人に対し750万円の寄与分を認めた大阪家裁審判紹介

○現在、寄与分が熾烈な争いになっている遺産分割事件を扱っており、関連判例を探しています。「認知症の被相続人身上監護寄与分一日8000円を認めた審判例紹介」に引き続き、被相続人に対する介護を理由とする寄与分の申立てに対し、申立人の介護の専従性を認めた上で、申立人が被相続人から金銭を受領しているものの他の相続人らも同様に金銭を受領していた事実があるから、その介護の無償性は否定されず、寄与分を評価する上で評価すべき事情としてその他の事情と併せ考慮し、申立人の寄与分を遺産総額の3.2%強である750万円と認めた平成19年2月26日大阪家裁審判(家庭裁判月報59巻8号47頁)の該当部分全文を紹介します。


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(4)申立人Bの寄与分の有無及び評価
 寄与分を認めるためには,当該行為がいわゆる専従性,無償性を満たし,一般的な親族間の扶養ないし協力義務を超える特別な寄与行為に当たると評価できることが必要である。以下,(3)の認定事実に基づき,検討する。

ア 平成8年ころまでの家事労働などについて
 申立人Bの結婚当初から平成8年ころまでについて,被相続人宅の家事労働を申立人Bのみが全面的に行った事実は認められない。また仮に,申立人Bが被相続人の居住範囲の掃除,被相続人の食事の支度その他の家事を担当したのであっても,同居の親族の協力義務の範囲を超える特別の寄与には当たらない。

 申立人Bは,Fの母Gを引き取って介護したり,介護に訪れたFの弟らの食事の世話をしたことなどの負担を主張する。これらは被相続人宅の家事の延長ではあるが,むしろFとの関連の出来事であり,必ずしも被相続人に関する寄与というのは相応しくない。また,その期間や負担の程度に照らして,同居の親族の協力義務の範囲を超えるものではない上,申立人Bのこの点に関する主張が,財産的寄与というよりは精神的負担を述べる点でも,寄与分にはなじみにくい。

 また,被相続人は,若いころから血圧が高く,□□体型で,後には○○病をも患うなど,申立人らとの同居当初から健康状態が不安定であった。申立人Bは,通院に付き添ったり,○○治療の手伝いをしたり,被相続人の視力が悪化した後はその安全面にも配慮するなどした。義歯を入れてからは調理法にも配慮していたが,これらの事実も,いまだ同居の親族の協力義務の範囲を超える寄与に該当するとまではいえない。

イ 平成8年以降の入浴介助,排泄介助,家事労働について
 この間の家事労働については,同居の親族の協力義務の範囲を超えるものでなく,これによる寄与分は認められない。
 他方,平成8年ころから,申立人Bが被相続人の洗髪や排泄を介助したり,失禁の後始末をするなど,身体介助の側面が認められるようになる。特に,排泄介助は,この時点で被相続人が一応独りで歩行できたことに照らすと申立人Bがこれに専従したとまで評価するかは微妙だが,作業の性質や作業量にかんがみ,相当の負担になったことは推認できる。平成12年8月以降の介護と併せて,寄与分の評価の一要素にはなりうる。

ウ 平成12年8月から平成13年12月の入院までの在宅介護について
a 介護の専従性

 平成11年ころ以降,被相続人が転倒して自力で起きあがれないことが幾度も起きるなど,被相続人の下肢が弱っていた。特に平成12年8月に風呂場で転倒した後は,歩行や移動に常に介助を要する状態となった。加えて,排泄介助(深夜も含む。)や失禁の後始末,入浴介助,転倒時の助け起こしなどの介護の大半を申立人Bが担っており,申立人Bが家事労働をこなしながらこれらの介護を行ったことからすると,その作業量,肉体的負担,所要時間を考慮して,申立人Bの生活の中心を被相続人の介護作業が占めたといっても過言ではないと推認できる。したがって,この間の申立人Bの被相続人の在宅介護について,専従性が認められる。

 相手方らは,被相続人の介護は申立人Bのみが行ったのではなく,相手方らやその家族も協力して行った旨主張する。たしかに,相手方ら及びその家族も,被相続人の介護に協力した事実が認められる。特に,相手方Cの子であるI,Jはしばしば被相続人宅を訪れ,入浴,排泄などの介護に相当貢献したと認められる。しかしながら,申立人Bは深夜も含めて24時間被相続人を介護する状態であったことによれば,他の親族の協力を得たからといって,申立人Bの介護の専従性が全面的に減殺されるわけではない。

b 介護の無償性
 相手方Dは,申立人Bが昭和48年以来,毎月10万円を被相続人から受け取っていたと主張し,また相手方Cも同趣旨の主張をし,申立人Bの介護は有償であり寄与分の要件としての無償性を欠くと主張する。以下,この主張を踏まえて,申立人Bの介護の無償性を検討する。

(3)の認定事実によると,申立人Bが平成8年から12年9月にかけて総額1000万円以上の小遣いを貰っていること,平成8年以降,月額10万円の生活費を受け取ってきたことが認められる。相手方Dの主張する,平成8年以前も毎月10万円を受け取っていた事実は,一件記録中これを認めるに足りる資料がない。

 この事実を前提にすると,たしかに,申立人Bが受け取った小遣いが高額である上,平成8年以降,被相続人が自らの最低限の生活費を分担していたとの評価が可能であり,被相続人が何らの費用分担をしていない事案とは別途の考慮が必要である。

 しかし他方,被相続人から小遣いを貰ったのは申立人Bのみならず,相手方Cも500万円以上,相手方Dは800万円弱,被相続人の孫Jも320万円程度,その他の孫らも数十万円以上を貰っている。各自の小遣いの金額を比較すると,申立人Bが小遣いを貰った事実から,その介護の無償性を全面的に否定することは相当でない。相手方らや一部の孫らが被相続人の介護に協力した事実を考慮しても,小遣いの金額が必ずしも協力の程度に比例するとは認められないからである。また,被相続人が分担した毎月10万円の生活費は,その金額に照らし,食費その他の一般的な家計費に主として充てられたことに疑問はなく,介護に対する報酬としての側面は必ずしも大きくないといえる。

 したがって,申立人Bの介護の無償性は否定されない。もっとも,申立人Bが相続人中で最も多額の小遣いを貰っていた事実は,申立人Bの寄与分の評価をする上で,考慮を要する事実には当たる。

c その他の相手方らの反論について
 相手方らは,〔1〕ヘルパーへの依頼や入院に消極的であるなど,申立人Bの介護方針には不適切な点があった,特に入院いかん,時期の判断は妥当でなかった,〔2〕申立人Bの介護は,食事療法が徹底されず,清潔さも不十分で,日中被相続人を寝かせておくなどの不適切な点があったなど主張する。

〔1〕の点については,被相続人自身が親族以外の者の世話になることや,入院することを嫌っていたことを考慮すると,申立人Bの介護の瑕疵として申立人Bの寄与を大きく減殺する事情とはいえない。〔2〕の点については,少人数で在宅介護を担った場合一般に起こりうる事柄であり,仮に申立人Bの介護が完璧なものでなかったとしても,それによって全面的に寄与分を否定する事情とまではいえない。
 したがって,結論として,申立人Bの介助及び介護について,寄与分を認めることが可能である。

エ 申立人Bの寄与分の評価
(3)の認定事実を前提に,以下,申立人Bの寄与分の評価につき検討する。
a 申立人Bが被相続人の介護にほぼ専従したのは,平成12年8月24日の風呂場での転倒時から平成13年12月末ころまでの約16か月間(486日間)である。

b 看護師家政婦紹介所が看護師等を派遣する際の標準賃金表(ただし平成17年当時の基準)によれば,看護師の場合,〔1〕泊込勤務が1万8000円,〔2〕午前9時から午後5時までの通勤勤務が1万3000円である。ケアワーカーの場合は,泊込勤務が1万2100円,〔2〕午前9時から午後5時までの日勤が7800円である。いずれも泊込勤務の際,午後10時から午前6時まで特に介護を要した場合,泊り料金の1割から2割増しとなり,徹夜勤務の場合は5割増しとなっている。

c 上記の標準賃金を参考にしつつ,申立人Bの介護が〔1〕勤務としてではなく,あくまで親族介護であること,〔2〕少人数による在宅介護のため,完璧な介護状態を保つことは困難だったと窺われること,〔3〕申立人Bが他の親族より多額の小遣いを取得していたこと,〔4〕昼間は,他の親族も交代で被相続人の介護を手伝っていたこと,〔5〕被相続人の生活が次第に昼夜逆転し,深夜の排泄介助もしばしばあったことは負担感を増したといえること,〔6〕被相続人が□□体型であり,介護の肉体的負担が極めて大きかったといえることなどを考慮して,一日当たりの介護費用を1万2000~1万3000円程度として算定することとする。とすれば,申立人Bの当該期間の介護労働を金銭的に換算すると,600万円程度との評価が可能である。

d 上記の数字は,専ら当該期間中の介護面のみを抽出して金銭換算したものであるが,最終的な寄与分評価としては,上記の数字を踏まえ,相続財産の額その他一切の事情を考慮(民法904条の2)し,相続人間の実質的衡平に資するべく評価を決定することとなる。

 本件において,申立人Bは,〔1〕平成8年4月以来,被相続人の洗髪を介助するなど,軽度の身体介助は相当早期から始まっていたこと,〔2〕失禁の後始末など排泄にまつわる介助も平成8年ころから既に行っていたこと,〔3〕平成11年ころから,被相続人が幾度も転倒しており,その行動に注意を要する状態は既に始まっていたことなどを併せて考慮すれば,最終的な寄与分の評価としては,遺産総額中の3.2%強である750万円と認めることとする。