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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺言書

印章による押印をせず花押を書いた遺言書は無効とする最高裁判決紹介

○いまどき、「花押」なんて書く人は居るのかと思っていたら、居るんですね。平成15年に書かれた遺言書が、押印の代わりに花押だったものが、以下の民法968条自筆証書遺言として有効か無効か争われた事件で、平成28年6月3日最高裁判決は、「我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。」として無効としました。印を押すより花押を書く方が遙かに手間がかかり、書く人の意思は堅固と思われますが、最高裁は法文の形式を重視しました。

第968条(自筆証書遺言)
 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。


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遺言書「花押」は無効=初判断、「慣行ない」-最高裁
時事通信 6月3日(金)15時39分配信


 印章や指による印の代わりに、戦国武将らが使用していた手書きのサイン「花押」を記した遺言書が有効か争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(小貫芳信裁判長)は3日、「花押は押印の要件を満たさない」と指摘し、無効とする初判断を示した。
 民法は、自分で遺言を書く場合は押印が必要と規定している。第2小法廷は、その理由を「重要な文書は署名し、押印することで完結させる慣行がわが国にはある」と説明。その上で「花押を書く慣行はなく、印章による押印と同視することはできない」と指摘した。
 遺言書は2003年に85歳で死亡した沖縄県の男性名義で、署名の下に花押が書かれていた。遺言により男性所有の土地を受け継いだとする次男が、無効と主張する長男と三男を訴え、一、二審は有効と判断した。
 訴訟では、次男は男性との間に贈与契約を結んでいたとも主張。この点をさらに判断するため、第2小法廷は審理を福岡高裁に差し戻した。 (了)
[時事通信社]


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平成27年(受)第118号 遺言書真正確認等,求償金等請求事件
平成28年6月3日 第二小法廷判決

主  文

原判決中被上告人の請求に関する部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理  由
上告代理人大城浩ほかの上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人Y1,同Y2及び被上告人は,いずれも亡Aの子である。

(2) Aは,平成15年5月6日付けで,第1審判決別紙1の遺言書(以下「本件遺言書」という。)を作成した。本件遺言書は,Aが,「家督及び財産はXを家督相続人としてa家を継承させる。」という記載を含む全文,上記日付及び氏名を自書し,その名下にいわゆる花押を書いたものであるが,印章による押印がない。

(3) Aは,平成15年7月12日,死亡した。Aは,その死亡時に,第1審判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。本件土地につき,Aを所有者とする所有権移転登記がされている。

2 本件は,被上告人が,本件土地について,主位的に本件遺言書による遺言によってAから遺贈を受けたと主張し,予備的にAとの間で死因贈与契約を締結したと主張して,上告人らに対し,所有権に基づき,所有権移転登記手続を求めるなどしている事案である。
上記のとおり,Aは,本件遺言書に,印章による押印をせず,花押を書いていたことから,花押を書くことが民法968条1項の押印の要件を満たすか否かが争われている。

3 原審は,次のとおり判断して,本件遺言書による遺言を有効とし,同遺言により被上告人は本件土地の遺贈を受けたとして,被上告人の請求を認容すべきものとした。
 花押は,文書の作成の真正を担保する役割を担い,印章としての役割も認められており,花押を用いることによって遺言者の同一性及び真意の確保が妨げられるとはいえない。そのような花押の一般的な役割に,a家及びAによる花押の使用状況や本件遺言書におけるAの花押の形状等を合わせ考えると,Aによる花押をもって押印として足りると解したとしても,本件遺言書におけるAの真意の確保に欠けるとはいえない。したがって,本件遺言書におけるAの花押は,民法968条1項の押印の要件を満たす。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 花押を書くことは,印章による押印とは異なるから,民法968条1項の押印の要件を満たすものであると直ちにいうことはできない。

 そして,民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書のほかに,押印をも要するとした趣旨は,遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに,重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民集43巻2号45頁参照),我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。

 以上によれば,花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中被上告人の請求に関する部分は破棄を免れない。そして,被上告人の予備的主張について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小貫芳信 裁判官 千葉勝美 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸)