○Cさんから、その祖父X名義の甲土地について相談を受けました。甲土地には、戦後まもなくX名義の店舗建物が建てられ、Xが昭和50年頃まで食料品店を経営していました。昭和50年にXが亡くなり、二男がその経営を引き継ぎましたが、近所にスーパーができるなどして経営不振となり、二男はノイローゼとなり、平成元年店舗に放火して、自らはしばらく家族を残して行方不明となりました。店舗建物は焼失して更地となった甲地は相続登記もなされないまま、その後、誰も使うことなく放置されて荒れ放題となっています。地元では店舗放火の事情が知れ渡り、曰く付きの土地として誰も甲地に手を出す人がない状況が継続しています。
○Xの相続人は長男、二男、三男でしたが、いずれも死去して、平成26年9月現在の相続人は、長男の子A、二男の子B、三男の子Cさんです。祖父Xの財産としては、この甲土地しかありませんが、平成元年二男失踪後、甲土地の固定資産税は、誰も支払わず、平成26年9月現在消滅時効にかかっていない分だけで約50万円に達しています。Cさんだけが甲土地のある同一県内に住んでおり、相続人の一人であるCさんに未納固定資産税約50万円の請求書が届き、驚いて弁護士に相談に来ました。
○そこでXの現在のCさん以外の相続人の戸籍調査をしたら長男の子Aさんは、平成15年に独身のまま死去し、子も親も兄弟もなく、相続人が居ないことが判明しました。Bさんは生存しており連絡も取ることができました。甲土地は、理屈上は、相続人A、B、Cの各3分の1ずつの共有であったところ、Aさんが相続人なくして死亡したので、
民法第255条(持分の放棄及び共有者の死亡)「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」との規定で、B、C各2分の1の共有になります。
○しかし、ことはそうは簡単ではありません。「
相続財産管理人実務−共有者の一人が相続人なくして死亡したとき2」に記載したとおり、「
不動産共有持分権者の一人が死亡して相続人がいないとき、民法第255条によればその持分権は他の共有者に帰属するはずですが、民法第958条の3によれば特別縁故者の請求によって全部又は一部を特別縁故者に与えることもできます。特別縁故者から請求があった場合、255条と985条の3のいずれを優先すべきかという問題が発生」するのです。
○この問題については、平成元年11月24日最高裁判決(判タ714号77頁、判時1332号30頁)で、958条の3優先説を明言したため登記実務では、相続人なくした死亡したAさんについて、相続財産管理人を選任し、相続債権者や受遺者に対する清算手続及び特別縁故者に対する財産分与手続も終了して初めて、甲土地についてのAさんの共有持分権が、他の共有持分権者であるB、Cさんに帰属することになるとしてその証明がないと持分権移転登記ができません。
○ですから、50万円も未納固定資産税が溜まっている甲土地を処分するためにはAさんについて管轄家庭裁判所に相続財産管理人選任申立をして所定手続を経る必要があります。相続財産管理人に通常弁護士が選任され報酬が支払われます。その報酬は相続財産があればその中から支払うのが原則です。
裁判所の相続財産管理人の選任での説明では、「
Q4. 財産管理人の報酬は,どのように支払われるのですか。
A. 相続財産から支払われます。ただし,相続財産が少なくて報酬が支払えないと見込まれるときは,申立人から報酬相当額を家庭裁判所に納めてもらい,それを財産管理人の報酬にすることがあります。」となっています。しかし、実務では、申立には、管理人報酬等の費用予納が原則となっています。地方の家庭裁判所の場合、相続財産管理人報酬は、申立人と管理人の間で取り決めることとし、費用の予納は不要とするところもあります。しかし、東京家庭裁判所は、なんと一律最低100万円です。
○相続財産管理人選任申立の管轄裁判所は相続開始地ですから、Aさんが都内で亡くなっていると管轄裁判所は東京家庭裁判所になり、申立には100万円の予納金を準備しなければなりません。Cさんの相談例では、運悪くAさんの死亡地は都内でした。甲地は固定資産税評価額は500万円ですが、曰く付きの土地で実際いくらで売れるかは見当もつかない土地で、且つ、既に50万円以上の未納固定資産税が発生しています。100万円も予納金を準備して、Aさんについて相続財産管理人選任申立をすべきか悩ましいところです。