○警視庁管内だけで「オレオレ詐欺」の被害額が年間百数十億円にも達しているとのことですが、この被害者は高齢者です。詐欺のターゲットは、財産管理能力が低下した高齢者が多く、高齢者の人口比率が益々高くなってきた日本社会においては、その防止策が重要になり、その防止策の一つが民法に規定された成年後見・保佐・補助等の行為能力制限制度です。
第8条(成年被後見人及び成年後見人)
後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。
第11条(保佐開始の審判)
精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、第7条に規定する原因がある者については、この限りでない。
第15条(補助開始の審判)
精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第7条又は第11条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。
○最近は成年後見人に選任された弁護士の財産横領・杜撰管理等が次々に発覚して弁護士の信用が揺らいできていることは、「
弁護士って?”成年後見、弁護士の標的に−預かり金着服相次ぐ”」に記載したとおりです。弁護士による成年後見制度悪用例は、
「弁護士と闘う」の「
成年後見人制度−成年後見人制度を悪用した弁護士に関する懲戒処分や報道をまとめました」とのサイトに山のように記載されています。
○この成年後見等申立制度ですが、申立人自身を成年後見人等候補者として申し立てる例が多くあります。裁判所は、被成年後見人等の親族の意向を聴取して争いがない場合、申立人自身を成年後見人等に選任しますが、少しでも争いがあり、或いは、被成年後見人等と申立人の関係に疑義がある場合、弁護士・司法書士等第三者を成年後見人等に選任します。私自身は弁護士として成年後見人等の職務経験はなく、また、今後も経験しようとは思いませんが、その報酬は、被成年後見人等の所有する財産如何によるところが大きいようです。
○被成年後見人等に潤沢な財産がある場合、申立人自身が成年後見人等候補者になっても他の親族があいつではダメだと異議を出すと、家裁は親族は成年後見人等に選任せず、公平な立場の第三者として弁護士・司法書士等を選任します。自分が成年後見人になろうと思って申立をしても目論み通りにならないと判った時点で、申立を取り下げできるかどうかが、かつて、問題になり、裁判例は、肯否両説あったようです。
○しかし、平成23年に成立した家事事件手続法で成年後見開始の審判がされる前であっても、家庭裁判所の許可を得なければ、申立は取り下げることができないと明確に規定されました。条文は以下の通りです。
家事事件手続法(平成23年法律第52号)
第121条(申立ての取下げの制限)
次に掲げる申立ては、審判がされる前であっても、家庭裁判所の許可を得なければ、取り下げることができない。
一 後見開始の申立て
二 民法第843条第2項の規定による成年後見人の選任の申立て
三 民法第845条の規定により選任の請求をしなければならない者による同法第843条第3項の規定による成年後見人の選任の申立て
第133条(成年後見に関する審判事件の規定の準用)
第119条の規定は被保佐人となるべき者及び被保佐人の精神の状況に関する鑑定及び意見の聴取について、第121条の規定は保佐開始の申立ての取下げ及び保佐人の選任の申立ての取下げについて、第124条の規定は保佐の事務の監督について準用する。
第142条(成年後見に関する審判事件の規定の準用)
第121条の規定は補助開始の申立ての取下げ及び補助人の選任の申立ての取下げについて、第124条の規定は補助の事務の監督について準用する。
○家事事件は、一般的に公益性があり、裁判所が公権的見地から合目的的な裁量を行使してあるべき法律関係を形成する面があり、成年被後見人になるべき者等の利益を考えると後見開始すべきであるにもかかわらず、申立人の一存で後見開始等の審判事件が終了してしまうことが相当でない場合があること等を想定して、家庭裁判所の許可がない限り、取下は出来ないと規定されました。