相続財産管理人実務−共有者の一人が相続人なくして死亡したとき
○共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その持分は、民法958条の3に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、この財産分与がされないときに、同法255条により他の共有者に帰属するとした平成元年11月24日最高裁判決(判タ714号77頁、判時1332号30頁)全文を紹介します。
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主 文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理 由
上告代理○○○○らの上告理由について
一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
第一審判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、もとAの所有であったが、同人の死亡により、同人の妻であるBとAの兄弟姉妹(代襲相続人を含む。)28名、合計29名の共有となった(Bの持分は登記簿上22680分の15120、すなわち3分の2と登記されている。)。Bは昭和57年7月28日死亡し、相続人がいなかったため、上告人らは、Bの特別縁故者として大阪家庭裁判所岸和田支部へ相続財産分与の申立てをし、同支部は、昭和61年4月28日、本件土地のBの持分の各2分の1を上告人らに分与する旨の審判をした。そこで、上告人らは、同年7月22日、被上告人に対し、右審判を原因とする本件土地のBの持分の全部移転登記手続(上告人ら各2分の1あて)を申請したところ、被上告人は、同年8月5日、不動産登記法49条二号に基づき事件が登記すべきものでないとの理由でこれを却下する旨の決定をした(以下「本件却下処分」という。)。
二 原審は、右事実関係の下において、共有者の一人が相続人なくして死亡したときは、その持分は、民法(以下「法」という。)255条により当然他の共有者に帰属するのであり、法958条の3に基づく特別縁故者への財産分与の対象にはなりえないと解すべきであるから、Bの持分も右財産分与の対象にはならず、上告人らの登記申請は不動産登記法49条2号により却下すべきであり、したがって、本件却下処分は適法であるとして、本件却下処分を取り消した第一審判決を取り消して、上告人らの請求を棄却した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
昭和37年法律第40号による改正前の法は、相続人不存在の場合の相続財産の国庫帰属に至る手続として、951条から958条において、相続財産法人の成立、相続財産管理人の選任、相続債権者及び受遺者に対する債権申出の公告、相続人捜索の公告の手続を規定し、959条1項において「前条の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、相続財産は、国庫に帰属する。」と規定していた。右一連の手続関係からみれば、右959条1項の規定は、相続人が存在しないこと、並びに、相続債権者及び受遺者との関係において一切の清算手続を終了した上、なお相続財産がこれを承継すべき者のないまま残存することが確定した場合に、右財産が国庫に帰属することを定めたものと解すべきである。
他方、法255条は、「共有者ノ一人カ……相続人ナクシテ死亡シタルトキハ其持分ハ他ノ共有者ニ帰属ス」と規定しているが、この規定は、相続財産が共有持分の場合にも相続人不存在の場合の前記取扱いを貫くと、国と他の共有者との間に共有関係が生じ、国としても財産管理上の手数がかかるなど不便であり、また、そうすべき実益もないので、むしろ、そのような場合にはその持分を他の共有者に帰属させた方がよいという考慮から、相続財産の国庫帰属に対する例外として設けられたものであり、法255条は法959条1項の特別規定であったと解すべきである。したがって、法255条により共有持分である相続財産が他の共有者に帰属する時期は、相続財産が国庫に帰属する時期と時点を同じくするものであり、前記清算後なお当該相続財産が承継すべき者のないまま残存することが確定したときということになり、法255条にいう「相続人ナクシテ死亡シタルトキ」とは、相続人が存在しないこと、並びに、当該共有持分が前記清算後なお承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときと解するのが相当である。
ところで、昭和37年法律第40号による法の一部改正により、特別縁故者に対する財産分与に関する法958条の3の規定が、相続財産の国庫帰属に至る一連の手続の中に新たに設けられたのであるが、同規定は、本来国庫に帰属すべき相続財産の全部又は一部を被相続人と特別の縁故があった者に分与する途を開き、右特別縁故者を保護するとともに、特別縁故者の存否にかかわらず相続財産を国庫に帰属させることの不条理を避けようとするものであり、そこには、被相続人の合理的意思を推測探究し、いわば遺贈ないし死因贈与制度を補充する趣旨も含まれているものと解される。
そして、右958条の3の規定の新設に伴い、従前の法959条1項の規定が法959条として「前条の規定によって処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。」と改められ、その結果、相続人なくして死亡した者の相続財産の国庫帰属の時期が特別縁故者に対する財産分与手続の終了後とされ、従前の法959条一項の特別規定である法255条による共有持分の他の共有者への帰属時期も右財産分与手続の終了後とされることとなったのである。
この場合、右共有持分は法255条により当然に他の共有者に帰属し、法958条の3に基づく特別縁故者への財産分与の対象にはなりえないと解するとすれば、共有持分以外の相続財産は右財産分与の対象となるのに、共有持分である相続財産は右財産分与の対象にならないことになり、同じ相続財産でありながら何故に区別して取り扱うのか合理的な理由がないのみならず、共有持分である相続財産であっても、相続債権者や受遺者に対する弁済のため必要があるときは、相続財産管理人は、これを換価することができるところ、これを換価して弁済したのちに残った現金については特別縁故者への財産分与の対象となるのに、換価しなかった共有持分である相続財産は右財産分与の対象にならないということになり、不合理である。
さらに、被相続人の療養看護に努めた内縁の妻や事実上の養子など被相続人と特別の縁故があった者が、たまたま遺言等がされていなかったため相続財産から何らの分与をも受けえない場合にそなえて、家庭裁判所の審判による特別縁故者への財産分与の制度が設けられているにもかかわらず、相続財産が共有持分であるというだけでその分与を受けることができないというのも、いかにも不合理である。
これに対し、右のような場合には、共有持分も特別縁故者への財産分与の対象となり、右分与がされなかった場合にはじめて他の共有者に帰属すると解する場合には、特別縁故者を保護することが可能となり、被相続人の意思にも合致すると思われる場合があるとともに、家庭裁判所における相当性の判断を通して特別縁故者と他の共有者のいずれに共有持分を与えるのが妥当であるかを考慮することが可能となり、具体的妥当性を図ることができるのである。
したがって、共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その共有持分は、他の相続財産とともに、法958条の3の規定に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされず、当該共有持分が承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときにはじめて、法255条により他の共有者に帰属することになると解すべきである。
四 以上によれば、大阪家庭裁判所岸和田支部の財産分与の審判を原因とする上告人らの登記申請を事件が登記すべきものでないとしてした本件却下処分は違法であるところ、これを適法であるとした原判決には、法255条及び法958条の3の各規定の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件却下処分の取消しを求める上告人らの本訴請求は正当として認容すべきものであるから、これと同旨の第一審判決は正当であり、被上告人の控訴は理由がないものとして、これを棄却すべきである。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法408条、396条、384条、96条、89条に従い、裁判官香川保一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。