本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

親子

新生児取り違え事件ニュース報道と過去の実際裁判例紹介

○「映画”そして父になる”を観て−私ならどうする2」で、この取り違えの事実を認め、この事実を法律にあわせるため、養子縁組をして事実上の親子を法律上の親子にする方法があるが、「この場合の、戸籍訂正をどのような段取りで行うかは、結構、面倒そうでじっくり時間をかけて検討する必要があり、後日の宿題とします。」と記載していましたが、宿題は放置されたままです(^^;)。

○平成25年11月26日NHKTVで60年前の新生児取り違えについて、取り違えた産院に3800万円の賠償命令が出たとのニュース報道がありました。「そして父になる」の実例です。この例は、裕福な夫婦の子として生まれたのに、貧しい夫婦の子に取り違えられ、貧しい夫婦の子として育てられて不利益を生じたとして賠償命令が出たようです。

○逆に、貧しい夫婦の子として生まれたのに、裕福な夫婦の子に取り違えられ、裕福な生活をしてきた場合は、賠償命令は出るのだろうかと疑問を感じましたが、その場合、取り違えられた本人は事実を知っても知らないふりを通すでしょうから、世間には明らかにならずに済んでいるのでしょう。

○しかし、相続問題が発生すると、裕福な親の場合、裕福な親の実子が、相続人を少なくして、相続財産の取り分を多くするため、取り違えられて戸籍上の相続人に対し、親子不存在の訴えを提起して、相続人からの排除を試みる例はあるはずです。その実例として平成21年6月11日東京地裁判決がありましたので紹介します。この判決は、東京高裁で覆されており、その理由も興味あるところで、後日紹介します。

*********************************************

60年前の新生児取り違え、産院に3800万円賠償命令
日本経済新聞2013/11/26 21:28

 産院で60年前、出生直後に取り違えられ、実の両親とは異なる夫婦に育てられたとして、東京都内の男性(60)らが産院側に約2億5千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は26日、産院の過失を認め、慰謝料など3800万円の支払いを命じた。宮坂昌利裁判長は「取り違えによって、男性は経済的に困窮した家庭で養育され、高等教育を受けられなかった」と判断した。

 判決によると、男性は1953年、東京都墨田区の産院で生まれた。実の弟らが、取り違えられて「兄」として一緒に育てられた人物と容姿や性格が似ていないことを不審に思い、2009年、DNA鑑定で血縁関係がないことを確認。産院の記録から「兄」と同じ日に生まれた男性を捜し出した。今年1月に別の訴訟で、男性と実の両親との親子関係が確定した。

 判決理由で宮坂裁判長は、男性が2歳の時に育ての父が亡くなり、中学卒業後に就職を余儀なくされた一方で、実の両親の家庭では弟らが大学や大学院に進学しており、「取り違えによって重大な不利益が生じたことは明らか」と指摘。実の両親は既に亡くなっており「交流を永遠にたたれた無念の心情は察して余りがある」と述べた


*********************************************
平成21年6月11日東京地裁判決

主 文
1 被告と亡A(本籍東京都墨田区〈以下省略〉,平成19年10月7日死亡)及び亡B(本籍東京都墨田区〈以下省略〉,平成11年4月2日死亡)との間にいずれも親子関係が存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 主文と同旨

第2 事案の概要
 本件は,原告らが,被告と,戸籍上その父母と記載されている者らとの間に親子関係がないことの確認を求めた事案である。

第3 原告の主張
1 前提となる事実

(1) 原告X1は,亡A(本籍東京都墨田区〈以下省略〉,平成19年10月7日死亡,以下「亡A」という。)及び亡B(本籍東京都墨田区〈以下省略〉,平成11年4月2日死亡,以下「亡B」という。)の二男として,原告X2は,その三男として,原告X3は,その四男として,戸籍記載されている。(当該戸籍謄本)。

(2) 被告は,亡A及び亡Bの長男として,戸籍記載されている。(当該戸籍謄本)。

2 原告の主張
(1) 亡Bは,昭和28年○月○日,新生児を分娩したが,その際特別な産着を準備したが,看護婦が亡Bの子として連れてきた新生児には準備した産着が着せられておらず,亡Bはなにか変な気持ちを持ったものの,当時,詰問して事情を解明できる状態ではなかった。

(2) 亡Bは,その後何度も機会あるごとに,原告らに自身の疑問を伝えていた。

(3) 亡Aは平成16年10月に脳梗塞で倒れ,要介護の状態であったが,被告の亡Aに対する態度は非情なものであり,到底父子関係にある者が介護・看護・世話等をする場合の態度・言動ではなかった。

(4) 原告らは,亡Aが息を引き取った後,被告が捨てたたばこの吸い殻と亡Aの毛髪について,DNA鑑定を専門の会社に依頼したところ,被告と亡Aとが親子である可能性が0パーセントであるとの鑑定結果を得た。

(5) したがって,被告と亡A及び亡Bとの間に親子関係がないことは明らかである。

3 被告の主張
 原告らの主張はすべて争う。鑑定を実施すべきである。

第4 当裁判所の判断
1 鑑定の結果及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。DNA鑑定の結果は以下のとおりである。
@ STR法の結果,原告らと被告との間には,両親を同じくする全同胞関係は存在せず,いずれかの親を同じくする半同胞関係については総合肯定確率が11.2パーセントである。
A Y−STR法により,原告らと被告との間には父を共通とする兄弟関係が存在しない。
B mtDNA解析法により,原告らと被告との間には母を共通とする兄弟関係が存在しない。

 以上を総合すると,STR法の結果によっては原告と被告の間にいずれかの親を同じくする半同胞関係が存在することを否定することはできないが,Y−STR法及びmtDNA解析法により,原告らと被告との間に生物学的な父及び母を共通とする兄弟関係は存在しないという結果に照らし,原告らと被告との間に生物学的な父及び母を共通とする兄弟関係は存在しない。

2 以上の事実に基づいて検討する。原告らと被告との間に生物学的な父及び母を共通とする兄弟関係は存在しないと認められることから,直ちに被告と亡A及び亡Bとの間に親子関係が存在しないことが推認されるわけではないが,原告3名の父母が亡A及び亡Bではない蓋然性は極めて低いと認められることを併せ考えれば,被告と亡A及び亡Bとの間にいずれも親子関係が存在しないと認めるのが相当である。したがって,原告らの請求は理由がある。

3 よって,主文のとおり判決する。
 (裁判官 松原正明)