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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

相続人

限定承認の基礎の基礎−限定承認のメリットがある場合概観

○「限定承認の基礎の基礎−財産分離制度同様殆ど利用されず」を続けます。
相続の限定承認制度は,殆ど利用例がないと記載しておりましたが、その理由は、あくまで個人的推測に過ぎませんが、相続相談を受ける弁護士が余りこの制度を勉強しておらず、この制度についての積極的説明が出来ないからではないかと思っております。これは私自身を振り返っての反省です。
どのような場合に限定承認がメリットがあるか検討します。

・遺産として、預貯金数十万円あり、サラ金クレジット等の債務はないことが明らかだが、2000万円の住宅ローン抵当権付不動産がある場合で、住宅ローンに質権付き生命保険が付されておらず、不動産価値が明らかでないか、あっても住宅ローン残額とさほど変わらない場合
 この場合、不動産が例えば1500万円位にしか売れない場合は、不動産を売却しても500万円の債務が残り、明らかに債務超過になりますので、相続は放棄するのが賢明です。

 しかし、不動産市場が変動しており、2000万円前後で売れる可能性がある場合、或いは通常2500万円で売れる可能性が高いところ、例えば東日本大震災で被災して不動産時価が、今後の復興計画と見ないと予想できないなど不動産売却によって住宅ローンを消滅させることが出来るかどうか予想が付かなくなった場合などは、限定承認して様子を見るのも宜しいでしょう。

 限定承認後は、財産処分は原則として競売になりますが、競売だと処分価格が大幅に下がるのが普通ですから、抵当権債権者は任意売買で出来るだけ高く売却して抵当権債権全額に近い金額の回収を希望しますので、限定承認後、抵当権者の承諾の元、任意売却を試みることも出来ます。限定承認しても不動産は任意売却が可能だからです。但し、不当に安い価格で売却した場合、債権者から損害賠償請求される場合はありますので、債権者の承諾する価格で売却する必要があります。

そのため民法は次の規定で、相続財産の売却は競売が原則だが、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価による実質的任意売却を認めています。
第932(弁済のための相続財産の換価)
 前3条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる


・遺産として300万円程度の預貯金、2000万円程度の不動産があるが、1000万円程度のサラ金クレジット債務に1800万円程度の住宅ローン抵当権債務があり、不動産売却による200万円程度の余剰金と数百万円の預貯金でサラ金クレジット債務を完済できるかどうか不明な場合
 サラ金クレジット債務の名目残額が1000万円としても利息制限法を適用した場合の実質残額がいくらになるか不明であり、また、1800万円の抵当権債務はついても2000万円程度の価値があり、且つ、この不動産を自ら取得したい場合は、先買権を行使して裁判所の選んだ鑑定人の評価に従って、不動産を優先的に買い受けることが出来ますので、限定承認が有利な場合もあります。
 これは、例えば被相続人が掛けていた生命保険金2000万円程度受け取り不動産購入資金を確保しているケースの場合に適用になります。

・会社代表者が、会社倒産後、死去して多額の保証債務を抱えているが、抵当権付の不動産が多数あり、この不動産の処分を相続人である子供の1人の名義で行いたい場合
 相続人が全員放棄するには、先ず配偶者・子供が放棄し、次に親(直系尊属)が放棄し,更に次に兄弟姉妹が放棄するとの手順が必要ですが、配偶者と他の子供全員が放棄し、子供のうちの誰か一人が限定承認すると、次の親(直系尊属)、兄弟姉妹が相続人になる可能性はなくなりますので、放棄の手続が不要になります。
 限定承認した子供一人が、所定の手続で、必要に応じて先買権を行使して必要な不動産を手元に残すことも可能になります。また、事実上会社保証債務整理手続を継続することも出来ます。