本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺言書

ある遺言無効確認請求事件地裁判決3

「ある遺言無効確認請求事件地裁判決2」の続きで地裁判決の最終回です。裁判所鑑定を「その判断は不合理というべきであって採用することはできない。」と明確に排斥しています。

○裁判所鑑定は、当事者とのしがらみは全くありませんので、最も自由な立場で公平に行われたはずです。しかし鑑定人といえども人間ですから、思い込みを排除することが出来ず、微妙な筆跡鑑定となると時に誤りを犯すことがあります。それでも裁判所鑑定と言う鑑定の重みを感じ、しかし、その結論は何としても納得できず、最終準備書面で、これでもか、これでもかとその不合理性を追求した結果が報われ、驚喜しました。

********************************************

f 「渡」の文字が二水で記載されているという点以外にも,本件A遺言の筆跡とAが日常生活の中で平常心の下で筆記した文書(甲15,16,乙7の3・5,18,19,20(ただし,「ご住所」と「ご芳名一 部分に限る。))の筆跡との間には,多くの類似点,共通点が認められる(原告鑑定,乙16,23及び24(以下「被告鑑定」という。))。裁判所鑑定は,これらの類似点,共通点を考慮に入れず,本件A遺言の筆跡とAが日常生活の中で筆記した上記文書の筆跡は,異なる人の筆跡と思量されるとしたものであり,その判断は不合理というべきであって採用することはできない。

(イ)本件A遺言は,その記載内容に照らし,預貯金及び動産を含めたその全財産を遺言の対象としたと解することができるから,何ら特定性を欠くものとは言えない。

(ウ) 以上のとおり,本件A遺言については,遺言者であるAの自書の要件を充たすことが認められ,遺言内容が不特定とも言えないから,本件A遺言は有効というべきである。

イ 本件B遺言について
(ア)当裁判所は,証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件B遺言は,遺言者であるBがその全文,日付及び氏名を自書したものとは認め難いと判断する。その理由は,以下のとおりである。

a Bの生前の筆跡を示すものと認められる文書(甲5,乙9ないし11,13(ただし,1行目のみ),21,証人F)は,そのほとんどがひらがなとカタカナで記載されていて,漢字を書くことが苦手であることが窺われる(証人F)。また,そのひらがなとカタカナについても,誤字が含まれているほか,字体が崩れていて判読困難なものが多い。特に,「お」「め」「と」「し」「の」「ほ」「よ」などの曲線を含むひらがなは,その曲線部分が角張って記載される特徴が見られ,なめらかな曲線を書くことが苦手であることが推認される。
 これに対し,本件B遺言の記載には,画数の多い難しい漢字が数多く使用されている上,「あ」「き」「の」「を」などの曲線を含むひらがなについても,その曲線部分がなめらかに記載されており,上記のBの筆跡の特徴と明らかに相違している。

b 裁判所鑑定,原告鑑定及び被告鑑定によれば,いずれの鑑定も,本件A遺言の筆跡と本件B遺言の筆跡が同一人の筆跡と認められるとする判断において一致している。この判断を前提とすると 上記(ア)のとおり,本件A遺言はA本人の自筆文書であると認められるのであるから,本件B遺言はAがB名義で作成した遺言であって,Bがその全文,日付及び氏名を自書したものではないということになる。この結論は,本件A遺言と本件B遺言の作成日付が同一日となっていることや上記aの認定判断とも符合し,合理的である。

c 他に,Bが,本件B遺言の全文,日付及び氏名を自書したことを認めるに足りる証拠はない。
(イ)以上のとおり,本件B遺言については,遺言者であるBの自書の要件を充たすことを認めるに足りないから,その余の点を判断するまでもなく,本件B遺言は無効というべきである。

(3)  したがって,原告らの本訴請求は,被告らに対し,本件B遺言の無効確認を求める限度で理由があるから,これを認容すべきであるが,その余の請求は理由がないから,これを棄却すべきである。

2 よって,主文のとおり判決する。

仙台地方裁判所民事部
裁判官 ○○○○