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「遺留分減殺請求のポイント整理」で、「
遺留分算定基礎財産の評価の基準時は相続開始時で、その方法は、不動産は時価、債権は回収可能性を考慮した金額、金銭については贈与時の金額を相続開始時に貨幣価値に換算した価額となります。」と記載しましたが、今回は贈与が金銭の場合についての判例を紹介します。
○昭和51年3月18日最高裁判決(民集30巻2号111頁、判タ335号211頁、判時811号50頁)は、相続人が被相続人から贈与された金銭を特別受益として遺留分算定の基礎となる財産の価額に加える場合の受益額算定の方法として、
贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきであると明言しています。
○特別受益の対象が金銭である場合、これを相続財産に加算して遺留分算定の基礎財産を確定するにあたりいかに評価すべきかについては次の3つの考えがありました。
A説;物は相続開始時で評価し、金銭は贈与時の金額そのままとする
これは、上記最高裁判決が出るまでの通説的見解でしたが、この考え方によると、貨幣価値の変動により、物の贈与を受けた者と金銭の贈与を受けた者との間に著しい不均衡を生じます。例えば昭和51年当時500万円の贈与を受けてこの金銭で購入した不動産が相続開始時の平成20年現在5000万円に高騰していた場合などです。
B説;物は相続開始時で評価し、金銭は贈与時の金額を物価指数に従つて相続開始時の貨幣価値に換算する
A説では、共同相続人間の衡平を確保することを目的とする特別受益持戻の制度の趣旨に反するとして、金銭は物価指数で相続開始時貨幣価値に換算すべしとする(新潟家審昭42・8・3月報20巻3号81頁、宇都宮家審昭49・9・17月報27巻9号105頁)。
C説;金銭、物を問わず、贈与時の価額を物価指数に従つて相続開始時の価額に評価換えする
金銭の贈与についてはB説と同旨ですが、生前贈与の対象が物か金銭か判然としない場合に認定に困難をきたすことなどを理由に、金銭及び物について同じ取扱をすべきであるとします。
○上記最高裁判決は、相続人が被相続人から贈与された金銭を特別受益として遺留分算定の基礎となる財産の価額に加える場合には、贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきであると明言し、遺産分割における具体的相続分算定の場合、遺留分減殺請求の基礎財産算定の場合いずれも実務はこの判決に従って運営されています。