本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

扶養

突然の老父扶養の問い合わせがあった場合

○Aさん(55歳)の実父Bさん(80歳)は、30年近く前に妻Cさんを捨てて愛人Dさんの元に走り、その後Cさんとは正式に離婚し、既に25年以上音信不通になっており、Aさんは実母Cさんを捨てて逃げた実父Bさんを恨みに思っていました。

○ところがある日突然、Aさんの居住地から遠く離れたE市の福祉事務所から手紙が舞い込みました。その手紙にはBさんがDさんとも別れて身寄りがないとのことでE市の福祉事務所で生活保護を受給中であるが、Bさんには長男Aさんがいることから先ずAさんがBさんを扶養する義務があると記載していました。

○生活保護法第4条(保護の補足性)の2項には「民法(明治29年法律第89号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」と定められ、生活保護に当たっては先ず民法に定める扶養義務者の扶養(援助)を優先的に受けることが前提となっています。

○そこで戸籍謄本等を調べて扶養義務者Aさんの存在を知ったE市福祉事務所はAさんに「扶養義務の履行について」の照会をする手紙を送付してきたわけですが、Aさんとしては30年前に母を捨て愛人の元に走り、更に母とは離婚し25年も音信不通になっていた父のBさんを何で扶養しなければならないのかと腹が立って仕方がありません。

○Aさんは現在は事業も成功して裕福な生活をしており、Bさんにある程度の扶養料を支払う能力は十分にありますが、身勝手な行いをして且つ25年も音信不通だった父Bさんには一切援助したくないと思っています。

○しかしBさんは30年前に妻を捨てたとしても、Bさんが長男Aさんを普通に大学卒業まで養育してきた場合には、AさんのBさんに対する扶養義務を免れることは出来ません。BさんはAさんを相手に家庭裁判所に扶養料支払申立が出来ますし、E市社会福祉事務所の社会福祉主事がBさんの委任を受けて申立ての代行を行なう場合もあり得ます。

○例外的にBさんが幼いAさんを残して愛人の元に走りAさんへの養育義務を果たさなかった場合、AさんのBさんに対する扶養義務も減額乃至消滅が認められる場合もありますが、生活保護法第77条(費用の徴収)には「被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは、その義務の範囲内において、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。」と言う規定もあります。扶養義務消滅の理由がない限り、Aさんは自分の能力に応じたBさんへの扶養の義務を履行した方がよいでしょう。