○交通事故で頭部外傷等を負い、事故後数年後に外傷性てんかんと診断された方の相談を受けています。外傷性てんかんとは、医学上「大脳ニューロンの過剰な突発的発射に由来する反復性の発作を主徴とする慢性の脳疾患」と定義されています。交通事故による外傷性てんかんと後遺障害との関係については、福岡の菅藤法律事務所HPの
「外傷性てんかんはどの程度の後遺障害に認定されるの?」簡明に分かり易く解説されており、参考になります。
○外傷性てんかんと後遺障害等級及び労働能力喪失率・逸失利益について自保ジャーナルに掲載されている裁判例では、その具体的症状によって後遺障害非該当から別表第一の1級まで区々に分かれています。以下、結論のみ14判例紹介します。
平成16年12月21日東京地裁
1級 3号 四肢麻痺 32歳・男 銀行員 114,008,000円 34-67(33年) 100% ライプ
32歳男子銀行員が外傷性てんかん、四肢麻痺等1級3号を残す事案で、症状固定時34歳の推定年収である740万5,450円を基礎に、定年60歳までの26年間を算定するも、昨今の経済情勢等に照らしベースアップは否定した。
平成10年10月 9日東京地裁
6級 併合 癲癇・醜状 11歳・女 小学生 25,974,000円 18-67(49年) 56% ライプ
11歳女子が、事故で外傷性てんかん・手術瘢痕で等の7級4号と12級14号で併合6級相当の傷害を残す事案で、12級醜状痕が労働喪失の加重にはならないとされ、18歳から67歳まで7級外傷性てんかんによる症状のみを判断し、56%の喪失率で後遺症逸失利益が算定
昭和58年 6月29日京都地裁
7級 4号 てんかん 11歳・女 小学生 4,859,000円 18-28(10年) 56% ホフマン
顔面挫創等で5日実通院しただけの11歳女児が1年経過後に意識喪失を伴なう外傷性てんかんの診断を受けた事案で、18歳以降10年間についてのみ労働能力喪失率56%で後遺症逸失利益が認められた事例
平成15年 6月27日大阪地裁
8級 併合 てんかん等 58歳・男 タクシー運転手 9,784,000円 59-70(11年) 35% ライプ
58歳男子タクシー乗務員が追突で7級外傷性てんかん、12級右足関節痛を訴え退職した事案で、数か月に1回のてんかん発作は9級該当するものと右足関節痛との併合8級を喪失率35%として、実収入基礎に逸失利益を認定した。
平成14年 3月 8日鹿児島地裁
8級 併合 てんかん他 21歳・女 大学生 30,471,000円 26-67(41年) 40% ライプ
乗用車の助手席同乗停車中乗用車に追突され前車に玉突き追突して、21歳女子大学生がPTSD(心的外傷後ストレス障害)等で100%労働能力喪失を請求したが、PTSDを否認し外傷性てんかん、仮面うつ病の併合8級で後遺症逸失利益を認定した。
昭和62年 4月27日京都地裁
8級 - てんかん・醜状 20歳・男 大学生 17,213,000円 24-67(43年) 35% ホフマン
外傷性てんかん(8級)、前額部等に醜状痕(12級)を残す男子大学生の算定につき、就職時に知的労働に就くことが極めて困難になった上、てんかんの後遺症による活動低下を考慮し、センサス大卒初任給を基礎に67歳まで35%の労働能力喪失をホフマン式で算定された事例。
平成13年 5月30日東京地裁
9級 10号 てんかん等 38歳・男 会社員 24,811,000円 38-67(29年) 35% ライプ
脳損傷に起因する外傷性てんかん症を残し、自賠責保険で9級10号認定を受ける症状固定時38歳大卒男子の事案で、就職予定会社における社員の平均賃金である468万1947円を基礎に67歳までの29年間を労働能力喪失率35%をライプニッツ式で控除して逸失利益を認めた。
平成10年 9月25日 名古屋地裁
9級 10号 てんかん 19歳・女 会社員 0円 - - -
1年以上発作がなく検査異常も認められず薬の服用も中止されている事案の外傷性てんかんは、後遺障害とは認めないとされた。
平成 2年 1月12日名古屋地裁
9級 10号 てんかん 1歳・男 幼児 9,275,000円 18-67(49年) 30% ホフマン
1歳10ヶ月男児が事故で脳挫傷の傷害を負い、将来外傷性てんかんを起こす可能性がある事案で、IQや検査等で所見は現われないが、知能の発育になんらの影響を与えることが推察できると、9級10号に相当するものとして後遺症逸失利益を認定した。
昭和62年 7月24日東京地裁
9級 10号 てんかん 6歳・女 幼児 0円 - - -
6歳女児が9級相当の外傷性てんかんを発症する事案につき、抗てんかん剤を服用するうえで日常生活に支障もなく、将来的に後遺症の制約があるとしても、それに順応した進学及び職業選択の可能性があることから逸失利益が否認された事例。
昭和55年 2月12日東京地裁
9級 10号 てんかん 2歳・男 幼児 4,856,000円 18-67(49年 30% ライプ
衝突事故で、右側頭部陥没骨折、硬膜外血腫の重傷を負った2歳男子が外傷性てんかんを発症し9級相当の後遺障害を残す事案で、センサス平均を基礎に67歳まで30%の労働能力喪失率をライプ式で控除し逸失利益を認めた。
平成 4年 9月29日東京地裁
9級 - 外傷てんかん 25歳・男 学園講師 25,741,000円 25-67(42年) 25% ライプ
現在税理士事務所に勤務している者が、外傷性てんかんで9級認定を受ける事故時25歳男子の後遺症逸失利益算定につき、センサス・サービス業全年齢平均を基礎に67歳まで25%の労働能力喪失をライプニッツ式で算定された事例
平成26年 5月15日大阪高裁
14級 9号 神経障害(MTBI等否認) 53歳・女 介護職 382,000円 55-60(5年) 5% ライプ
軽度外傷性脳損傷(MTBI)等から外傷性てんかんに罹患し、5級後遺障害を残したとする53歳女子介護職の逸失利益につき、MTBI等認められず、てんかん発症を否認、14級認定し、実収入を基礎に5年間5%の喪失率で認めた。
平成15年 5月27日京都地裁
14級 10号 頸椎捻挫 51歳・男 家電販売業者 550,000円 51-55(4年) 5% ライプ
51歳男子家電販売業が追突に遭い、外傷性てんかんを発症、7級4号で80%喪失を主張する事案で、心因性が寄与するものと、労働能力5%を4年間にわたり喪失したものとして申告額を基礎に逸失利益を認めた。