○「
低髄液圧症候群との因果関係を認めた平成26年12月6日さいたま地裁判決紹介4」の続きで損害論です。低髄液圧症候群による損害認定として、損害金と合わせて約3700万円の認定は、過去の裁判例と比較してトップクラスの高額と思われます。
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4 損害額について
(1) 治療費(文書料含む。) 認容額223万7760円
ア 平成23年5月分まで
(ア) 甲1ないし6(枝番含む。)によれば,原告は,山王病院の治療費とし123万3910円を要したことが認められる。
(イ) 甲7ないし11(枝番を含む。)によれば,原告は,□□皮膚科クリニックの治療費として1万0850円を要したことが認められる。
(ウ) 原告が□□□に支払った9600円(甲12)が本件事故と因果関係のある損害であると認めるに足る証拠がない。
イ 平成23年6月から平成25年7月まで
甲103の1ないし3,同5ないし22によれば,原告は,山王病院の治療費(文書料含む。)として74万5610円を要したことが認められる。
ウ 平成25年8月から平成26年3月末まで
(ア) 甲114の2ないし9・12によれば,山王病院の治療費として24万7390円を要したことが認められる。平成26年4月の治療費(甲114の10・11)は,症状固定後のものであり,本件事故による損害と認めることはできない。
(イ) □□眼科クリニック等に支払った費用(甲115の1・3・4)は,症状固定後に虹彩付ソフトコンタクトレンズ及びサングラス購入するための費用であることが窺われ,本件事故による損害と認めることはできない。
(2) 付添看護費
原告の入通院に父母の付添が必要であったことを認めるに足る証拠がない。
(3) 入院雑費 認容額16万5000円
原告は,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,□□病院に77日間及び山王病院に合計33日間入院して治療を受けたことが認められるから,1日あたり1500円として入院雑費16万5000円が本件事故による損害として認めるのが相当である。
(4) 原告本人の交通費 認容額59万2140円
ア 平成23年5月まで
甲13ないし76(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば次のとおり認められる。
(ア) 原告は,□□□クリニックの通院に往復タクシーを利用したことが認められ,合計1万2320円が本件事故による損害として認められる。
(イ) 原告は,□□□□クリニック又は□□病院に合計46回,タクシーを利用して通院したと認められ,自宅から□□□□クリニック又は□□病院までのタクシー料金を考慮して1回につき5000円を認めることが相当であるから合計23万円に平成20年11月28日の耳鼻咽喉科□□クリニックへのタクシー往復代2500円を加えた23万5000円が交通費として認められる。
(ウ) 原告は,治療のため21回,実家又は自宅から山王病院を往復したことが認められ,1回につき,原告の実家直近の□□駅から山王病院直近の青山一丁目までの電車(グリーン車利用)及び地下鉄の料金往復3180円(甲105の4)として,6万6780円を交通費として認めるのが相当である。
(エ) 原告は,バスを利用して□□鍼灸接骨院に17回通院したことが認められ,往復のバス代が400円であるから,6800円を交通費として認めるのが相当である。
イ 平成23年6月から平成25年7月まで
(ア) 甲84(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,治療のため29回,山王病院へ入通院したことが認められ,1回あたり3180円として,9万2220円を交通費として認めるのが相当である。
(イ) 甲104(枝番を含む。),106の9・10及び弁論の全趣旨によれば,原告は,治療のため□□□□クリニックに自宅から4回,実家から17回通院したことが認められ,1回あたりの自宅からのタクシー代2500円,実家からの交通費(片道JR運賃1450円及びタクシー代2060円)7020円として12万9340円を交通費として認めるのが相当である。
ウ 平成25年8月から平成26年3月まで
(ア) 甲84(枝番含む。)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,治療のため9回,実家から山王病院へ入通院したことが認められ,1回あたり3180円として,2万8620円を交通費として認めるのが相当である。なお,平成26年4月以降の山王病院への交通費は本件事故による損害とは認められない。
(イ) 弁論の全趣旨によれば,原告は,治療のため,実家から□□□□クリニックに3回通院したことが認められ,1回あたり7020円として2万1060円を交通費として認めるのが相当である。
(5) 原告本人の宿泊費
原告本人の山王病院入院前後のホテル宿泊費を本件事故による損害と認めるに足る的確な証拠がない。
(6) 付添人交通費
付添人交通費を本件事故による損害と認めるに足る的確な証拠がない。
(7) 家屋改造費
家屋改造費を本件事故による損害と認めるに足る的確な証拠がない。
(8) 器具装具費その他の費用
器具装具費その他の費用を本件事故による損害と認めるに足る的確な証拠がない。
(9) 移動交通費
移動交通費を本件事故による損害と認めるに足る的確な証拠がない。
(10) 休業損害 認容額1281万6253円
原告は,原告の平成22年度の源泉徴収票(甲77)における支払金額は496万1130円で,本件事故後就労することができず1年あたり103万0054円のMR手当を受けられなくなったのであり,上記支払金額にMR手当は含まれていないと主張する。
しかし,原告の本件事故前1年間の給与及び賞与は286万1091円であったというのであり(原告の平成24年4月9日付準備書面,甲78),上記支払金額にMR手当相当分が含まれていないとは認められない。原告の陳述書(甲112)には,通常の給与とは別にMR手当が月々平均8万円程度支給され,年収にして約600万円の収入があったとの記載があるが,年収が約600万円であったことを裏付ける証拠はない。
そうすると,原告が主張する本件事故から平成23年8月末まで37か月分のMR手当分317万5999円を休業損害として認めることはできない。
そして,平成23年9月から平成26年3月まで31か月分の休業損害としては,上記支払金額をもとに算定すると1281万6253円となる。
(計算式)496万1130円÷12×31=1281万6253円(円未満四捨五入,以下同様)
(11) 入通院慰謝料 認容額310万円
原告は,合計110日間入院し,事故後,平成26年3月まで通院していたこと,ブラッドパッチ後の通院状況を考慮すると入通院慰謝料は310万円が相当である。
(12) 後遺症逸失利益 認容額1953万7540円
ア 基礎収入 年収496万1130円(甲77)
イ 労働能力喪失率
A医師作成の後遺障害診断書(甲113の1)及び意見書(甲113の2)によれば,原告の傷病名は,外傷性頸部症候群,低髄液圧症候群であり,後遺障害の内容として,首,肩から後頭部,左腰の知覚異常(疼痛),頸椎椎間板ヘルニア(C5/6,C6/7のヘルニア所見+)とともに,低髄液圧症候群の症状である,頭痛,めまい,吐き気,光過敏(羞明),聴覚過敏等があるとして,平成26年3月28日のフィブリン糊パッチ治療を施行する直前の時点の臨床症状をもって,症状固定日,後遺障害としたとされている。そして,後遺障害の等級数としては,第7級の4「神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当すると診断されている。
しかし,前記認定のブラッドパッチ等の治療経過及び原告本人の供述に照らすと,原告は,同日の2回目のフィブリン糊パッチ治療により,低髄液圧症候群の症状はかなり改善したと認められ,平成26年3月末時点での症状固定時に第7級の4に該当する後遺障害があると認めることには疑問がある。原告の後遺障害としては,第9級の10「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に相当するものとして,症状固定時に35パーセントの労働能力喪失を認めることが相当である。
また,原告の低髄液圧症候群は難治性とされるが,A医師は,フィブリン糊パッチの効果によって,原告が普通の人がブラッドパッチを何回かやることによって完治に結びつけていくようなプロセスに入れることができると思う旨述べていること(A21頁)に照らすと,当面の後遺障害は改善の見込みがないとしても,長期間でみると,原告の症状は改善する見込みがあると考えられる。これらの事情を考慮すると,原告の労働能力喪失は,症状固定時から10年間は35%,その後は14%(12級相当)として逸失利益を算定することが妥当である。
ウ ライプニッツ係数(中間利息控除)
原告は,症状固定時31歳であり,67歳までの労働能力喪失期間は36年である
労働能力喪失期間10年のライプニッツ係数 7.7217
10年経過後から26年間のライプニッツ係数は,36年間の同係数16.5469から10年間の同係数7.7217を控除した8.8252である。
エ 逸失利益の算定
(ア) 496万1130円×0.35×7.7217=1340万7925円
(イ) 496万1130円×0.14×8.8252=612万9615円
(ウ) 合計1953万7540円
(13) 後遺症慰謝料 認容額550万円
原告の後遺障害に照らすと後遺症慰謝料は550万円が相当である。
(14) 素因減額
原告の低髄液圧症候群は難治性であり,A医師によれば,その原因は医学的に解明できていないが,漏れがブラッドパッチだけではふさがらないで,また破れやすくなるということが人によっては起こっており,何らかの理由で原告は脆弱というか,弱い部分があって漏れ始めると思うと述べていること(A42頁,44頁)に照らすと,原告の体質的,身体的素因が損害の拡大に寄与していると考えられるから,民法722条2項を類推して,3割の限度で訴因減額をするのが相当である。
上記(1),(3),(4),(10)ないし(13)の損害合計4394万8693円から3割を減額すると3076万4085円となる。
(15) 損害の填補
ア 乙6によれば,被告は,原告に対し,56万9113円を支払ったことが認められるが,原告は,本件訴訟で原告が請求していない平成21年2月末までの治療費の支払であると主張しており,上記支払を本件訴訟の損害額から控除すべきことを示す的確な証拠はない。
イ 乙7によれば,労災保険により,休業特別支給金を除き,合計637万7558円が支払われていることが認められ,このうち平成23年9月1日から平成26年6月25日までの休業給付480万7836円は,本件訴訟における原告の損害に填補されたと認められる。
上記3076万4085円から480万7836円を控除すると,2595万6249円となる。
(16) 弁護士費用 認容額259万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として259万円を認めるのが相当である。
(17) 損害額の結論 2854万6249円
5 以上によれば,原告の被告□□に対する請求は2854万6249円及びこれに対する本件事故の日である平成20年7月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,原告の被告会社に対する請求は,被告□□に対する判決が確定したときに同額の支払を求める限度で理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
さいたま地方裁判所第6民事部 裁判官 野村高弘