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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

その他交通事故

交通事故件数はこの10年で40%減少するも訴訟は5倍増-簡裁事件のみ

○「交通事故訴訟急増とのニュースに違和感」の続きです。
平成26年10月25日読売新聞記事「交通事故訴訟、10年で5倍に…弁護士保険利用」に私なりの感想を記述していましたが、平成27年5月23日付け読売新聞に同じ現象について、以下の日経新聞記事が掲載されました。内容は同じですがいくらか詳しくなっています。

○全国の簡易裁判所に提起された交通事故損害賠償請求事件数は、平成15年3252件が、平成25年には1万5428件となったとのことです。「弁護士が扱う“紛争”が減っている理由-裁判所統計で確認-民事行政事件」で、最高裁判所HP司法統計のページに掲載されている「民事・行政 平成25年度 1-1  民事・行政事件の新受,既済,未済件数  全裁判所及び最高,全高等・地方・簡易裁判所 」を紹介していました。

○この統計で、簡裁訴訟事件の新受け件数を確認すると平成2年9万7355件、平成12年31万2434件、平成22年61万8925件、平成25年35万5776件となっています。簡裁新受け民事事件数ピークは平成21年68万5777件で、その後は下降線です。平成21年ピーク時の事件はおそらく過払い金返還請求事件が大きな割合を占めていたと思われます。平成25年簡裁民事訴訟事件全体件数35万5776件で、ピーク時から僅か4年の経過で半分近くに減っています。交通事故訴訟新受け事件数は、半減した約35万件の内1万5428件で、全体から見ると大した数値ではありません。

○簡裁民事訴訟事件件数変遷を見ると弁護士業務で平成21年ピークの過払い金返還請求事件の大きさが実感できます。おそらくTV等で派手な宣伝を繰り広げた特定の弁護士や司法書士事務所が大量事件数を扱ったものと思われますが、過払い事件で相当の稼ぎを上げたこともうかがえます。当事務所も過払い金返還請求を扱いましたが、大量取扱事務所に比べたら微々たるもので大した稼ぎは上げられませんでした(^^;)。

○交通事故の発生は、この10年で40%減少とのことです。自動車性能は、年々上がる一方であり、今後交通事故発生件数は減り続けることは間違いありません。当然、交通事故民事紛争も減り続けるはずです。従って弁護士業務としての交通事故事件の将来性は余りありません。社会の動きから、今後の弁護士需要について、シッカリ見据えていく必要があります。

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「弁護士保険」普及の功罪 10年で交通事故4割減、損賠訴訟は5倍 泣き寝入り減るが弊害も
2015/5/23付日本経済新聞 朝刊


 交通事故の賠償金をめぐる裁判が増え続けている。2000年以降、損害保険各社が自動車保険などの特約で扱うようになった「弁護士保険」の影響のようだ。被害者の泣き寝入りは減った一方、「弁護士の報酬目的にみえる裁判もある」との批判もあり、制度の見直しが始まった。

 全国の交通事故件数は04年の95万2709件から10年連続で減少し、14年は57万3842件と4割減った。一方、全国の簡易裁判所に起こされた交通事故の損害賠償訴訟は03年の3252件から、13年は1万5428件と4.7倍になった。

 裁判が増えた背景には弁護士保険の普及があるとみられる。交通事故被害者の権利保護のため、日本弁護士連合会と損保会社が協力し、00年に開発した。被害者が加害者側との交渉を弁護士に依頼した場合、保険金から弁護士費用が支払われる仕組みだ。

 会社ごとに補償内容は異なるが、保険料は年間千円から2千円前後、弁護士費用として支払われる保険金の上限は300万円程度が大半。日弁連と提携していない東京海上日動火災保険も00年に販売し始めるなど、各社が扱うようになった。

 日弁連と提携する損保13社だけで契約数は計2千万件以上。大手損保会社の担当者は「自動車保険加入者の4~6割が弁護士保険に入るほど定着した」と話す。

 裁判の増加について、日弁連リーガル・アクセス・センター(LAC)の伊藤明彦弁護士は「加害者側の対応に不満がある被害者の泣き寝入りが減った」と評価する。

 日弁連による弁護士報酬に関する調査(08年)では、交通事故の損賠訴訟の着手金は「20万円」「30万円」との回答が計68%。伊藤弁護士は「賠償額が数万~数十万円の交通事故で、加害者側が支払いに応じない場合、弁護士費用が高くつくとして被害者が法的解決をあきらめることも多かった」と指摘する。

 東京都内の30代の弁護士は「少額の賠償金の案件は弁護士報酬が少なく割に合わなかった。保険で費用に見合う報酬が補償されるので受任が可能になった」と話す。裁判の結果、加害者側の保険会社が提示した金額を上回る賠償金が認められる事例もみられる。

 被害者救済に役立っている一方、弊害を指摘する法曹関係者もいる。交通事故訴訟を40年近く手掛けてきた加茂隆康弁護士は「示談で済むような事故でも、弁護士が主導して裁判に持ち込むことが増えた」と指摘。「報酬をつり上げる目的ではないかと疑いたくなる例もある」と批判する。

 あるベテラン裁判官も「勝てる見込みがないのに、いたずらに裁判を長引かせる弁護士が山ほどいる」と打ち明ける。交通事故の損賠訴訟の平均審理期間は03年の4.1カ月から13年には5.5カ月に延び、一審判決を不服として控訴する率も5.6ポイント上がって24.2%になった。

トラブル目立つ
 損保に請求される弁護士費用をめぐるトラブルも目立ってきた。複数の大手損保会社の担当者は「弁護士から請求された報酬額が高すぎ、支払いを拒否する事案も少なくない」と認める。損保側に請求された報酬額をめぐり民事訴訟に発展する例もある。

 損保側は保険金支払い基準の引き締めに動く。三井住友海上火災保険は昨年10月、加入者が弁護士を選任する前に損保側と相談するように約款を改定。過剰な報酬を請求する弁護士を避ける仕組みを整えた。

 東京海上も「弁護士依頼前に保険加入者(被害者)が受け取っていた賠償金は、弁護士報酬の算定根拠に含めない」との規定を設け、報酬算定方法を厳格化した。損害保険ジャパン日本興亜も今年10月、保険金支払い条件を見直す約款改定をする。

 弁護士保険を推進した日弁連は、弁護士と損保間で報酬のトラブルが増えていることを受け、第三者的立場で仲裁する機関を今年度中に立ち上げることを検討中だ。

 大阪大法科大学院の山下典孝教授(保険法)は「報酬での争いが増えると弁護士保険への信頼が揺らぎ、『誰でもが安心して弁護士を頼める』という本来の意義を損ないかねない」と懸念する。「日弁連と損保会社が協力し、弁護士報酬の争いを防ぐ仕組みをつくるべきだ」と指摘する。

(植松正史、山田薫)