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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

民法第709条責任を否認するも自賠法3条責任を認めた判例紹介2

○「民法第709条責任を否認するも自賠法3条責任を認めた判例紹介1」の続きです。民法第709条一般不法行為責任と自賠法責任を峻別しています。
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(3) 原告本人の供述の信用性について
ア まず、原告本人の供述内容は、信号待ち停止車両の後ろで停止していたが、東西道路の歩行者用信号が青点滅したのを見て間もなく北行き信号が青になると予測して発進して3台の車両を追い越し、停止線を越えたところで再度停止して、軽く左右を確認して対面青信号を確認して発進して本件交差点に進入したというものである。

 しかし、本件交差点内で原告バイクと被告車が衝突している以上、原告バイクが本件交差点内に進入する前から、被告車も本件交差点に迫って来ていたものと推認できることや、証拠(略)によれば、原告本人が再度停止したという場所からの東西道路左右の見通しは良く西方100m以上先まで見通せると認められることに照らせば、原告バイクが真に停止線を越えたところで再度停止して、たとえ軽くでも左右を確認したのであれば、被告車に気付いて然るべきではないかとの疑念がある。

 また、本件交差点の信号周期からすれば、東西道路の歩行車両信号が青点滅を開始してから6秒で東西道路の車両用信号が黄に変わり、9秒で全赤となり、12秒で北行き信号が青に変わることになるところ、原告本人が説明する上記行動は、全体として、歩行者用信号の変化を見て対面信号の変化を予測して動き出したもので、いわゆる見切り発進をするのと類似の状況があるといえるのであり、もうすぐ信号が変わるであろう状況において、3台の車両を追い越した後、東西道路を走行する車両が途切れたことで、もう東西道路を走行してくる車両はないものと軽信して、再度停止することなくそのまま本件交差点に進入したのではないか、あるいは、再度停止はしたものの対面信号が青信号に変わる前に本件交差点に進入したのではないかとの疑念を抱かざるを得ない。

イ また、証拠(略)によれば、南北道路及び本件交差点は、原告が日頃から通勤で通る道であることが認められるところ、原告立会の実況見分が行われたのは、本件事故から18日経過後であること、その際の説明でも、本件交差点に進入した後のことは覚えていないというものであったこと、原告の説明のとおりであれば、原告バイクに続いて少なくとも3台の四輪車が本件交差点に進入したはずであるが、本件証拠上、原告本人の供述の他にはそのような車両があった様子は窺われないことに照らせば、そもそも原告本人の本件事故現場に至る経緯の説明は、真に本件事故当日のものであるのか(別の日の出来事と混同・勘違いしているのではないか)との疑念も払拭できない。

ウ そして、本件証拠上、原告本人の上記供述内容を裏付ける客観的証拠があるわけでもない。

エ 以上のとおり、原告本人の供述内容にも疑念を抱かざるを得ず、信用性に乏しいといわざるを得ない。
 
(4) 証人甲野四郎の供述について
 原告の父である証人甲野四郎は、平成21年12月3日の本件事故当日に原告が救急搬送されたB病院に駆け付け、同日午後7時頃に被告乙山に会った際に、同人が、信号は黄から赤に変わったところだったと言って謝罪した旨を供述している。

ア 確かに、上記検討からすれば、被告車の対面信号は、被告乙山本人が述べるように本件交差点の直前(停止線の手前5~6m)で青から黄になったのではなく、黄から赤になったという可能性(その反面として、原告バイクが本件交差点に進入した際の北行き信号は赤だったという可能性)も相当程度あるといえる。

 すなわち、上記のとおり、本件交差点の直前で青から黄に変わった旨の被告乙山本人の供述が信用性に乏しいことからすれば、被告車の信号は、青から黄に変わったところであった可能性(前記のとおり、本件交差点とb交差点の信号周期は連動しておらず、被告車がb交差点で赤停止していたとしても、本件交差点では青から黄に変わったところであったという可能性もなお残る。)のほか、黄であった可能性や、黄から赤に変わったところであった可能性、赤であった可能性もあるといえるし、他方、青信号を確認して本件交差点に入った旨の原告本人の供述も信用性に乏しいことからすれば、原告バイクの信号は、青であった可能性のほか、赤(全赤)であった可能性や、赤(被告車側は黄から赤に変わったところ)とか赤(被告車側は黄)とか赤(被告車側は青から黄に変わったところ)であった可能性もあるといえ、それらの間である被告車の信号は黄から赤に変わったところで、原告バイクの信号は赤であったという可能性も相当程度あるとはいえる。

 この場合、被告乙山としては、本件交差点の直前で対面信号が黄から赤になったものの、本件事故直後に行われた実況見分の際に、少しでも責任を軽くしたい気持ちから青から黄になったと説明し、本件事故現場に至る経緯もとっさに整合させようと思って、b交差点も青通過したと説明したが、原告の親族に会った際には、正直に黄から赤になったと話したというような想像もできなくはない。そして、信号表示が、被告車側は本件交差点直前(停止線の手前5~6m)で黄から赤に変わった、すなわち交差点進入時は赤であり、原告バイク側も赤であったことを前提に、被告車には若干の速度違反があったことや、被告車よりも原告バイクが低速であったことや両車の衝突場所からして原告バイクの方が若干先に交差点に進入していたといえることを考慮して、本件事故の過失割合を原告バイク:被告車=3:7程度とみることもできなくはない。
  
イ しかし、被告乙山本人は、証人甲野四郎の上記供述(黄から赤になったと話したこと)を否定しているし、被告乙山が警察官には青から黄になったと説明しておきながら、原告の父には黄から赤になったと話すというのは、通常では考えにくい。上記の原告の父に会った際には正直に話したというのも想像(可能性の中の1つ)にすぎず、確たる証拠があるわけではない。他方の原告本人も、原告バイクが赤信号で本件交差点に進入したことを否定しているし、証人甲野四郎の上記供述内容を裏付ける的確な証拠があるわけでもない。このような曖昧な証拠関係の中で、無理をしてわずかの可能性の差を見出して上記認定をすること(被告乙山が黄から赤になったと話したと認定した上、それが真の事故態様であると認定し、過失割合を3:7と認定すること)は、却って原告に不利な認定をすることになりかねない。

 自賠法3条が立証責任の転換を図っている中で、立証責任のある被告車側の被告乙山本人が黄から赤になったと話したことを否定しているにもかかわらず、また、上記のとおり証拠上判然としないにもかかわらず、そのような認定をすることが相当であるとは思われない。

 したがって、証人甲野四郎の上記供述をたやすく信用することはできず、本件証拠上は、被告車側の信号が本件交差点の直前で黄から赤に変わったと認めるには足りないというのが相当である。

(5) 小括
 本件交差点進入時の信号表示が、被告車側が青から黄に変わったところ(原告バイク側は赤)であれば基本的には原告バイク側の100%責任となり、原告バイク側が青(被告車側は赤)であれば基本的には被告車側の100%責任となるところ、上記のとおり、被告乙山本人の供述内容も、原告本人の供述内容も信用性に乏しく、その他の証拠関係に照らしても、本件証拠上は、本件交差点進入時の信号表示がどうであったかは不明であるといわざるを得ない。

(6) その他
 原告は、被告車が速度規制を大きく超える時速60㎞程で走行していた旨主張し、その根拠としてスリップ痕が19.1mであることを指摘した上、摩擦係数が0.7~0.8であれば時速58.3~62.3㎞と推定されると主張するが、前記認定のとおり、本件事故当日の昼間は雨で、本件事故当時も路面は濡れていたと推認されるのであるから、証拠(略)によれば、摩擦係数は0.4~0.5を用いるべきこととなり、被告車の速度は時速44.1~49.3㎞と推定されることになる。原告の上記主張は採用できない。

2 被告らの責任原因について
(1) 被告乙山について

 原告は、被告乙山が、信号遵守義務違反及び速度超過の故意又は過失により、本件事故を発生させたから、民法709条に基づく損害賠償責任を負う旨主張するが、本件証拠上、被告車の本件交差点進入時の信号表示は不明であり、被告車に信号遵守義務違反があったとは認められない。また、被告車には若干の速度超過があったことは認められるが、被告車において原告バイクが本件交差点に進入してくるのを発見し得た段階で、その速度違反がなければ本件事故を回避し得たことを認めるに足りる証拠はなく、上記速度違反と本件事故との因果関係があるとは認められないから、本件事故についての過失とはいえない。したがって、被告乙山は、民法709条に基づく損害賠償責任を負わない。

(2) 被告会社について
 上記のとおり、被告乙山は民法709条に基づく損害賠償責任を負わないから、被告会社も民法715条に基づく損害賠償責任は負わない。
 他方、被告会社は、被告車の運行供用者であり、かつ、本件証拠上、被告車の本件交差点進入時の信号表示は不明であって、被告車が注意義務を尽くしたとは認められないから、本件事故により原告が被った人的損害について自賠法3条に基づく損害賠償責任を負う。


3 原告の損害(人損)について
 本件事故による原告の人的損害は、次のとおりであると認められる。
(1) 治療費関係費について
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により受傷し、治療費として133万6034円、入院雑費として2万8500円を要したことが認められる。

(2) 休業損害について
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、運転手として勤務し、月平均16万1467円の給与を得ていたこと、本件事故による受傷のため、平成21年12月4日から平成22年6月30日まで休業を要したことが認められることに照らせば、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、111万4122円と認めるのが相当である。
 月16万1467円×(6ヶ月+27/30日)
 この点につき、原告は、勤務先の都合による極端な賃下げが耐え難く現実に転職を考えていたのであるから、休業損害の基礎収入は事故前年の平均月収24万5258円とすべきである旨主張するが、本件証拠上、本件事故当時に実際に転職先のあてがあった様子はなく、本件事故がなければ数ヶ月内に転職して月24万円程度の収入を得ていた蓋然性が高かったとはいえないから、原告の上記主張は採用できない。
 
(3) 入通院慰謝料について
 本件事故による受傷内容(本件事故による骨折等の他覚所見ないし画像所見はないことを含む。)や入通院期間などに照らせば、入通院慰謝料は120万円とするのが相当である。
 
(4) 文書取得費等について
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故による文書取得費等として1万8010円を要したことが認められる。なお、その余の原告主張の文書取得費等は、内科や脳神経外科の受診に関するものや症状固定後のものであるところ、本件証拠上、これらが本件事故と相当因果関係のあるものであることを認めるに足りる証拠はない。

(5) 損害の填補について
 以上によれば、本件事故による原告の人的損害は、合計369万6666円となるところ、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、労災療養給付133万6034円、労災休業給付86万7672円、自賠責保険金44万8641円を受領済みであることが認められるので、これらを控除すると、残額は、104万4319円となる。

(6) 弁護士費用について
 本件訴訟の内容や認容額などに照らせば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、10万円とするのが相当である。
 
(7) 小括
 以上によれば、本件事故による原告の損害(人損)は、114万4319円となる。

4 結語
 よって、原告の本件請求は、被告会社に対して、自賠法3条に基づく人的損害の損害賠償請求として、114万4319円及びこれに対する平成21年12月3日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被告乙山に対する請求及び被告会社に対するその余の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成25年5月28日)
 大阪地方裁判所第15民事部 裁判官 田中俊行