交差点内出会い頭衝突物損事故過失割合に関する注目判決全文紹介
○交差点内出会い頭衝突物損事故過失割合に関する注目判決として平成16年10月15日名古屋地裁判決(交民集37巻5号1377頁)全文を紹介します。私なりの解説は別コンテンツで行います。
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主 文
一 甲事件被告は、甲事件原告に対し、77万7837円及びこれに対する平成15年7月19日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
二 乙事件被告は、乙事件原告に対し、16万2275円及びこれに対する平成14年2月22日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
三 甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、甲事件について生じた費用については、これを二分し、その一を甲事件被告の負担、その余を甲事件原告の負担とし、乙事件について生じた費用については、これを二分し、その一を乙事件被告の負担、その余を乙事件原告の負担とする。
五 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 甲事件
被告は、原告に対し、155万5675円及びこれに対する平成15年7月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
二 乙事件
被告は、原告に対し、32万4550円及びこれに対する平成14年2月22日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、乙事件被告Y1(以下「Y1」という。)の運転する自動車(以下「Y1車」という。)と甲事件被告Y2(以下「Y2」という。)の運転する自動車(以下「Y2車」という。)との間に生じた事故(以下「本件事故」という。)につき、Y1との間で自動車共済契約を締結していた海部南部農業協同組合(以下「海部南部農協」という。)が、Y1車等の損害について、同共済契約に基づきY1等に対し共済金を支払って、Y2に対する損害賠償請求権を代位取得し、甲事件原告全国共済農業協同組合連合会(以下「共済農協」という。)が、同損害賠償請求権を海部南部農協から譲渡を受けたとして、また、Y2車の所有者である有限会社イーアイピー(以下「イーアイピー」という。)との間で新・自動車総合保険契約を締結していた乙事件原告株式会社損害保険ジャパン(以下「損保ジャパン」という。)が、イーアイピーに対し、Y2車等の損害について保険金を支払って、Y1に対する損害賠償請求権を代位取得したとして、甲事件原告共済農協は、民法709条及び前記共済契約に基づき、乙事件原告損保ジャパンは、民法709条及び商法662条1項に基づき、それぞれ甲事件被告Y2及び乙事件被告Y1に対し、その損害の賠償を請求した事案である。
二 本件事故(甲一)
(1) 日時 平成13年12月8日午後6時30分ころ
(2) 場所 愛知県海部郡〈以下省略〉先道路上(以下、「本件道路」又は「本件事故現場」という。)
(3) Y2車 自家用普通乗用自動車(〈番号省略〉)
(4) 同運転者 Y2
(5) Y1車 自家用普通乗用自動車(〈番号省略〉)
(6) 同運転者 Y1
(7) 事故態様 本件事故現場の交差点(以下「本件交差点」という。)で、Y2車の前部がY1車の左側面に衝突した(但し、具体的な事故態様【特に信号の色】については、当事者間に争いがある。)。
三 争点
(1) 本件事故態様(過失相殺)
(2) 損害等
四 争点に対する共済農協及びY1(以下「共済農協ら」という。)の主張
(1) 争点(1)について
本件事故は、Y1がY1車を運転して東方から西方へ向けて青信号に従って本件交差点に進入しようとして、本件交差点手前の停止線付近で信号が黄色に変わったのを確認したが、そのまま加速して進行したところへ、Y2の運転するY2車が、赤信号を無視して南方から北方へ向かって本件交差点内に進入したため、Y1車の左側面にY2車が衝突したものであり、Y2には、赤信号無視の過失があることから、民法709条に基づきY1に生じた損害を賠償する責任がある。
(2) 争点(2)について
ア(ア) Y1の損害は、Y1車の修理費用として151万円、レッカー代4万5675円の合計155万5675円である。
(イ) Y1との間でY1車を被保険自動車とする自動車共済契約を締結していた海部南部農協は、同共済契約の約款に基づき、平成14年2月25日、Y1に対し、前記損害の自動車共済金155万5675円を支払い、これにより、前記共済契約の約款第24条一項によってY1のY2に対する同額の損害賠償請求権を取得した。
(ウ) 海部南部農協は、平成14年2月25日、共済農協に対して、前記の155万5675円の損害賠償請求権を譲渡し、Y2に対し、平成15年6月22日到達の内容証明郵便でその旨の通知をした。
イ Y2車の損害等について
(ア) Y2車の修理費用及び交通信号機損傷修理代金は不知。
(イ) イーアイピーと損保ジャパンとの間の自動車保険契約の締結、損保ジャパンのイーアイピー及び信号機修理業者への保険金の支払の事実並びに求償権の発生の事実はいずれも不知。
五 争点に対する損保ジャパン及びY2(以下「損保ジャパンら」という。)の主張
(1) 争点(1)について
本件事故は、Y2がY2車を運転して南方から北方に向かって直進し、本件交差点手前で信号が赤であったが、青に変わったことから本件交差点内に進入したところ、Y2車の右方(東方)から前方の赤信号を無視して本件交差点内に進入してきたY1車と衝突したものであり、Y1には、赤信号無視の過失があることから、民法709条に基づきY2車に生じた損害を賠償する責任がある。
(2) 争点(2)について
ア(ア) イーアイピーの所有であるY2車は本件事故により経済的全損となり、本件事故当時の経済的価値は25万円であった。また、イーアイピーは、交通信号制御装置の復旧工事費用7万4550円を負担したことから合計32万4550円の損害を被った。
(イ) イーアイピーとの間でY2車を被保険者とする新・自動車総合保険契約を締結していた損保ジャパンは、同保険契約に基づき、平成14年1月30日、イーアイピーに対し、Y2車の損害25万円、同年2月21日、信号制御装置の修理業者である名古屋電気工業株式会社に対し、信号制御装置の修理費用7万4550円の合計32万4550円を支払った。
(ウ) 損保ジャパンは、前記保険金を支払ったことにより、商法662条一項に基づき、イーアイピーのY1に対する損害賠償請求権を代位取得した。
イ Y1車の損害等について
(ア) Y1車の修理費用及びレッカー代は不知。
(イ) Y1と海部南部農協の自動車共済契約締結の事実、海部南部農協のY1に対する共済金支払の事実及び求償権発生の事実は、いずれも不知。
(ウ) 海部南部農協の共済農協への前記損害賠償請求権の譲渡の事実は不知、海部南部農協からY2に対し、上記譲渡の通知があったことは認める。
第三 争点に対する判断
一 本件事故態様(過失操作)について(争点(1))
(1) 甲3、11、12号証、乙2、5、7号証、証人A、Y1本人及びY2本人の各供述並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる(但し、以下の認定に反する部分は採用することができない。)。
ア 本件交差点(通称「中央公民館北交差点」)は、東西に通じ、車道の南側に水路(以下「本件水路」という。)が走る、車道の幅員が約5・5メートルで、片側一車線の道路(以下「東西道路」という。)と、南北に通じ、車道の幅員が約5・5メートルで、片側一車線の道路(以下「南北道路」という。)が直角に交差する交差点である。南北道路の本件交差点の南側は、桜大橋から本件交差点に向けて緩やかに左にカーブして本件交差点に至る。東西道路の南側に本件水路が走っていること、本件水路は、金網で囲われていることから、東西道路の西行き車線から本件交差点の左方(南方)、南北道路の北行き車線から本件交差点の右方(東方)の見通しは悪い。
イ(ア) Y1は、本件事故当日の昼過ぎ頃から、自宅で同級生のAと過ごし、夕食を食べるために、午後6時20分頃、Y1車にAを同乗させて海部郡弥富町にある飲食店に向かい、東西道路を西に向けて走行し本件交差点に至った。
(イ) Y1は、本件事故状況等について、「本件交差点に向かって時速30から40キロメートル位で走行していた。本件交差点付近では、自車の前後に車両はいなかった。最初に対面信号を見たのは、交差点の30から40メートル手前で、そのときは青であった。本件交差点東側の横断歩道手前の停止線を通過する頃に対面信号が青から黄に変わるのを見たことから、あわてて加速した。Y2車には衝突して初めて気づいた。Y2車がY1車の左側面にぶつかってきた。衝突後、Y1車の右後部が本件交差点北西角に設置されている信号制御装置にぶつかり、反動で、反対車線に出て前部が南側を向いた状態で停止した。」旨(Y1本人)の、Aも「本件交差点に進入したときの対面信号は黄であった。」旨(証人A)の供述をする。
(ウ) しかし、Y1車に同乗していたAは、「Y1車の本件交差点に至るまでの速度は50から60キロメートルであった。Y1がスピードを出し始めたことから怖くなり、座席の左側前部の背もたれにしがみつくような、背もたれを抱え込むような状態で座っており、怖くて話もしていない。」と供述すること、「Y1車は、Y2車と衝突した後、ジャンプしてガードレールにぶつかって跳ね返ったような感じで信号制御装置にぶつかり、さらに反対車線に出て停止した。」(Y1本人)ことからすれば、Y1車は、本件交差点に進入する際、時速約60キロメートルに近い速度で走行していたと考えられ、これに反するY1車の速度についてのY1の供述は採用することができない。
(エ) さらに、Y1車が本件交差点に進入する際のY1の対面信号の色については、Y1及びY1車に同乗していた友人のAの供述以外にこれを証明するものがなく、両者の供述のみに
よっては、Y1の対面信号の色が黄であったと認めるのは困難である。なお、共済農協らは、本件事故を目撃したとするBという人物が、共済農協ら代理人に対し、本件事故時の東西道路の信号が黄であったことを証言した旨記載した共済農協ら代理人の報告書(甲13)を提出するが、同報告書によっては、Y1の対面信号が黄であったことまで認定することも困難である。
ウ(ア) Y2は、有限会社知聖で機械部品のプレス加工の作業員として勤務していたが、本件事故当日は、午前7時頃から、Y2車に乗って、イーアイピーの従業員の送迎の仕事をしていたが、午後6時頃、イーアイピーの従業員三名を乗せて、イーアイピーの従業員寮に向けて桑名郡木曽岬町の現場を出発し、南北道路を北に向けて走行し、本件交差点に至った。
(イ) Y2は、本件事故状況等について、「本件交差点手前にある桜大橋に至るまでY2車の速度は時速25から30キロメートルであった。桜大橋付近の道路の制限速度は30キロメートルであるが、道が狭くなるのとカーブが多いことから、桜大橋付近では時速15から20キロメートルで走行していた。対面信号が見えるようになるのは桜大橋を渡りきって少し左に曲がったところである。本件交差点の対面信号を初めて確認したのは、桜大橋を渡って左にカーブした本件交差点から約50メートル手前付近である。そのとき、対面信号は赤であったことから、速度を緩めるためにブレーキを柔らかく一回踏んだ状態にし、速度は約15キロメートルになった。本件交差点手前で赤信号のために停止している車はいなかった。本件交差点の約30メートル手前付近で対面信号が青に変わったのを確認した。青色信号を見た後ブレーキペダルから足を離し、アクセルを少し踏んだことから、速度は15から20キロメートルになった。本件交差点に進入するときの速度は10から15キロメートルであった。本件交差点の右方向は、金網があるために右側の見通しは良くないことから、Y1車には、衝突するまで気づかなかった。」旨の供述をする(Y2本人)。
(ウ) しかし、Y2車が本件交差点に進入する際のY2の対面信号の色については、Y2の供述以外にこれを証明するものがなく、同人の供述のみによっては、同人の対面信号の色が青であったと認めるのは困難である。また、Y2は、桜大橋付近から本件交差点までの間を時速15から20キロメートルで走行していたとするが、同人は、南北道路を毎日四回から八回往復しており、事故現場付近の道路の状況は、非常によく把握しているとしながら(乙七の三項、Y2本人六項)桜大橋付近から本件交差点までの間を時速15から20キロメートルで走行していたとするのは不自然である。
(2)
ア 以上によれば、共済農協らは、Y1の対面信号が黄であったこと(Y2の対面信号が赤であったこと)を、損保ジャパンらは、Y2の対面信号が青であったこと(Y1の対面信号が赤であったこと)を、それぞれ立証できたと認めることはできないと言わざるを得ない。そうすれば、本件事故は、Y1及びY2双方の前方不注視を原因として発生したものと認めざるを得ない。
イ(ア) そして、本件事故現場の東西道路及び南北道路は、それぞれ車道の幅員が約5・5メートルの片側一車線の道路であること、本件交差点に、Y1車がY2車の右側(Y2車がY1車の左側)から進入したことからすれば、本件事故の基本的な過失割合は、Y1が4割、Y2が6割とするのが相当である。
(イ) 本件事故現場付近の東西道路の制限速度は時速30キロメートルであると認められるところ(乙五の写真)、Y1は、本件事故当時、制限速度をオーバーする時速約60キロメートルに近い速度を出していたと認められることから、Y1に前記基本的な過失割合から1割の加算修正をすることとする。これに対し、Y2については、前記基本的な過失割合を修正する事情は認められない。
(ウ) 以上によれば、本件事故の過失割合は、Y1が5割、Y2が5割と認めるのが相当である。
二 損害等について(争点(2))
(1) Y1車の損害等について
ア 本件事故によりY1車は損傷を受け、Y1は、修理費用として151万円(甲四)及びレッカー代4万5675円(甲五)の合計155万5675円の損害を被った。
イ 過失相殺後の損害 77万7837円
前記のとおり、本件事故について、Y1には、5割の過失があることから、前記損害155万5675円について過失相殺をすると残額は77万7837円となる(1,555,675×【1-0.5】)。
ウ Y1との間でY1車を被保険者とする自動車共済保険契約(甲七)を締結していた海部南部農協は、同保険契約の約款に基づき、平成14年2月25日、Y1に対し、過失相殺後の損害額(77万7837円)を含む自動車共済金155万5675円を支払った(甲六)ことから、前記自動車共済約款普通約款第24条一項に
よってY1のY2に対する過失相殺後の77万7837円の損害賠償請求権を代位取得した。
エ 海部南部農協は、平成14年2月25日、共済農協に対して、前記損害賠償請求権を譲渡し(甲八)、Y2に対し、平成15年6月22日到達の内容証明郵便でその旨の通知をした(甲9、10)。これによれば、共済農協は、Y2に対し、77万7837円の損害賠償請求権を有すると認められる。
(2) Y2車の損害について
ア Y2車の所有者はイーアイピーの所有であったが(乙二の五枚目、Y2本人67項)、本件事故によりY2車は損傷を受け、さらに、衝突の弾みで本件交差点の交通信号制御装置に衝突した。Y2車の修理費用は37万1249円とされたが、Y2車の時価額は25万円と評価されたことから、経済的全損となり(乙二)、また、Y2車の所有者であるイーアイピーは、前記交通信号制御装置の復旧工事費用7万4550円を負担したことから(乙三)、合計32万4550円の損害を被った。
イ 過失相殺後の損害 16万2275円
前記のとおり、本件事故について、Y2には、5割の過失があることから、前記損害32万4550円について過失相殺をすると残額は16万2275円となる(324,550×【1-0.5】)。
ウ イーアイピーとの間で自動車総合保険契約を締結していた損保ジャパンは、同保険契約に基づき、平成14年2月21日までに、イーアイピー及び信号制御装置の修理業者に対し、過失相殺後の損害額(16万2275円)を含む27万5000円を支払った(弁論の全趣旨)ことから、商法662条一項に基づき、イーアイピーのY1に対する損害賠償請求権16万2275円を代位取得した(甲2、3)。これによれば、損保ジャパンは、Y1に対し、16万2275円の損害賠償請求権を有すると認められる。
三 結論
以上によれば、甲事件原告の請求は、77万7837円の限度で、乙事件原告の請求は、16万2275円の限度で理由があることから、いずれもその限度でこれを認容し、その余は理由がないことから、いずれもこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 城内和昭)