○交通事故損害賠償請求事件では、先ず自賠責保険金請求手続を請求する場合があります。訴訟になると時間がかかると予想される場合で早急に損害賠償金が必要な場合等です。後遺障害がある事案では、加害者側任意保険会社が事前認定申請をして後遺障害等級が認定済みで認定後遺障害等級に争いがないこともあります。しかし、損害全体額が争いがありその解決には訴訟手続が必要なところ、早急に自賠責保険金が必要な場合は、先ず本人に自賠責保険請求をして貰います。この場合、等級認定済みであとは申請手続だけですので、本人申請で十分であり、弁護士が行う必要はありません。
○私の場合、弁護士として自賠責保険金請求手続を行うことは余りありませんが、その弁護士報酬は、「
交通事故事件弁護士費用と取扱例等」に記載しているとおり、
自賠責保険金請求の着手金は、原則3万円+消費税とし、
報酬金は、原則、取得自賠責保険金額の
500万円未満の部分は6%(500万円では30万円+消費税)
500万円以上1000万円未満部分は4%(1000万円では、500万円×0.04=20万円+消費税)
1000万円以上の部分は2%(4000万円では、3000万円×0.02=60万円+消費税)
相当額。
です。
○ですから自賠責保険金請求で死亡保険金3000万円を受領した場合、着手金3万円、報酬金は500万円未満の部分30万円、500万円以上1000万円未満の部分20万円、1000万円以上3000万円未満の2000万円の部分40万円の合計90万円で、着手金・報酬金合わせても93万円+消費税で100万円少々です。ところが、民事損害賠償着手金として100万円(刑事事件と合わせて200万円)、自賠責保険金約3000万円受領報酬として255万円も受領し、弁護士報酬は高すぎて暴利行為に該当して報酬約束全体が無効だから返せと請求されて裁判になった事案があります。
○この事案についての平成25年9月11日東京地裁判決(交民46巻5号1213頁、判時2219号73頁)の判決理由中、弁護士報酬の部分全文を紹介します。判決では、相談料5万円、民事刑事合わせた着手金200万円までは、辛うじて暴利行為とは言えないとするも、自賠責保険金3000万円受領の報酬金については100万円を超える部分を暴利行為として無効としました。前記の通り、私の場合、自賠責保険金3000万円受領しても、着手金・報酬金合計で93万円+消費税止まりで、暴利行為には該当しません(^^;)。
○おそらく20年以上前の弁護士特権階級時代であれば、この事案のような大きな金額を支払っても、お客様が泣き寝入り状態で、弁護士に返還を求めない例が多かったと思われます。弁護士業務の監視の目が報酬にも厳しく注がれる時代になっていることを自戒すべきでしょう。
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第3 当裁判所の判断
1 証拠(以下に記載するものの他,甲16,原告X1本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(中略)
2 ところで,弁護士との間の委任契約に基づく報酬の支払行為は,その報酬額が客観的にみて高額であっても,依頼者と当該弁護士との間では,契約自由の原則に照らし,暴利行為に当たらない限りは有効というべきである。そこで,被告と原告らとの間の弁護士報酬の合意が,暴利行為に該当するといえるか否かについて,弁護士報酬に関する規定(すでに廃止されているものを含む。)や本件の難易度,依頼者にもたらす経済的利益,弁護士の労力等諸般の事情を考慮して,検討する。
(1) まず,法律相談料5万円について検討するに,前提事実のとおり,原告らは,平成23年2月4日に,相談料として5万円を支払っているところ,原告らの主張によっても,同日の相談は3時間に及び,原告らは,それ以前の同年1月26日にも,被告に原告らの事務所に来訪してもらって相談を行っていること,そのような経緯があり,原告X1が上記相談料を進んで支払ったものであることから,上記相談料は,適正な金額であると認めることができる。
(2) 次に,着手金について検討するに,被告は,平成23年2月4日付け書面で,原告らに対し,その段階で原告らから聴取した内容から,今後問題となると考える事項を指摘したうえで,原告らの方針を尋ねたところ(乙9),原告らは,訴外Bや警察の責任追及を徹底的に行うことを望んでいたものである。そこで被告は,同日,損害賠償の請求のみならず,捜査機関への働きかけや刑事告訴等刑事事件に関しても,依頼を受けることとして,着手金及び預かり金の額を告げ,原告らは,同月7日,これを被告の事務所に持参し支払ったものである。
ア ところで,旧報酬会規は,同30条において,刑事事件の着手金につき,起訴前及び起訴後の事案簡明な事件(特段の事件の複雑さ,困難さ又は繁雑さが予想されず,委任事務処理に特段の労力又は時間を要しないと見込まれる事件であって,起訴前については事実関係に争いがない情状事件,起訴後については公判終結までの公判開廷数が2ないし3開廷程度と見込まれる情状事件等をいう。)は30万円以上50万円以下,それ以外は50万円以上と定め,同31条において,刑事事件の報酬金につき,「不起訴」,「求略式命令」,「刑の執行猶予」,「求刑された刑が減軽された場合」等一定の成果が出た場合に受領する旨定め,同35条において,告訴,告発,検察審査の申立等の手続の着手金は,1件につき10万円以上とし,報酬金は,依頼者との協議により受けることができる旨定めている。
本件は,本件事故により死亡した亡Aの遺族である原告らが,本件事故発生の連絡を受けたときから,警察や検察による捜査の在り方に強い不満を持ち,亡Aが差別的に扱われたのではないかとして,被告に対し,警察や検察の捜査に関し,疑問等を照会し,要望をし,訴外Bに対する告訴手続を行うことを依頼したものであり,これを受けて,被告は,訴外Bへの処分がなされるまでの2か月程の間に,前記認定の事実のとおり,自らも広島まで出向き,捜査機関に照会書や告訴状を提出し,警察署等に赴く原告らに助言を行うなどしたものであるから,本件事故に関する刑事事件を,起訴前でいえば事実関係に争いがない情状事件という事案簡明な事件と同視することはできず,弁護士報酬として100万円という金額は高額であるものの,旧報酬会規に照らしても,高額に過ぎるとまでいうことはできない。
この点について,原告らは,通常の起訴前,起訴後の刑事弁護活動における報酬の基準を前提にしつつ,本件では,被告が受領した刑事事件に関する着手金は高額に過ぎ,高くても50万円が適正妥当な金額である旨主張する。確かに,本件で,訴外Bに対する刑事事件において,訴外Bは罰金刑に処せられているのであるから,原告らにとって成果があったとはいえないが,事案簡明な事件とはいえないことは前記のとおりであり,原告らの主張は採用できない。
イ 次に,民事事件について検討するに,乙3号証の1によれば,原告らは,本件事故に基づく損害として3億円近い金額を計上したが,被告は,損害額としては5000万円ほどであろうとの見込みを持ち,着手金を刑事事件と合計して200万円とし,これを刑事事件と民事事件に割り振ったものであり,旧日本弁護士連合会報酬等基準や旧報酬会規に照らしても,亡Aの損害に関する原告らの主張及び被告の見立てた金額を念頭に置いて定めた着手金に関する合意額が,不相当な金額で,高額に過ぎるということはできない。
これに対し,原告らは,被告が本件事故の民事事件に着手したのは平成23年7月7日付け通知書の作成時点であり(甲2),その時点で被告は予想される損害賠償額を2682万6432円としていた旨主張する(平成24年12月4日付け第1準備書面3頁)。しかし,平成23年2月の段階で,原告らは,被告に対し,警察に対する告訴や警察の捜査に対する責任追及とともに,訴外Bらへの損害賠償請求も依頼していたものであり,刑事事件記録の取り寄せや内容の検討は,当然,損害賠償請求のためのものといいうるものであるから,民事事件への着手が平成23年7月段階であるということはできず,原告らの上記主張は採用できない。
また,前記認定のとおり,被告は,本件契約書に,委任事項や着手金の金額を記載していたものとは認めることができないが,原告らは,弁護士委任契約書を読み,委任事項が記載された委任状(乙7の1,2)に署名押印し,金額を明記した領収書(乙6)を受領しており(原告X1・16,20頁),原告らは,委任事項及び自己が支払う金員の趣旨について理解していたものと認められ,本件報酬合意時における事情を加味しても,着手金の合意が暴利行為に該当するということはできない。
(3) 報酬金について
原告らは,平成23年5月11日,本件事故に基づく損害に関し,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)に基づく損害賠償金の請求・受領を被告に委任し(乙7の4),被告は,損害賠償金の請求を行って,同年6月16日には3000万円余りを受領し,同月27日,これを原告らに引渡し,その報酬として255万円を受領した。
被告は,本件事故による損害賠償請求を受任し,3000万円余りを受領したのであるから,この経済的利益をもとに,弁護士委任契約書記載の報酬規定に照らし,原告らと協議のうえで報酬額を定めたものであり,高額に過ぎるとはいえない,被告は,刑事事件記録等を検討した結果,亡Aの過失が大きくなると考え,訴外Bへの請求に先立ち,自賠責保険に対する被害者請求を行う方が良いとの認識に立ち,被害者請求を行い,上記支払を受けた等主張する。
そして,被害者請求とは,自賠法3条による保有者の損害賠償責任が発生したときに,被害者が自賠責保険会社に対し,保険金額の範囲内で損害賠償額の支払を直接請求することをいい(自賠法16条),被害者請求により受領しうる損害賠償額は,保険金額の範囲内であり,その支払基準は通常の損害賠償をする場合の基準に比して低額であるが,自賠責保険においては,被害者に過失がある場合に,これによる減額が一般の過失相殺に比して被害者に有利に取り扱われることとされているから,被害者の過失が大きいと考えられる場合においては,訴訟提起等による解決よりも結果的に多額の損害賠償金を受領することができる場合があり(甲21参照),本件で,訴外Bが罰金50万円の略式命令を受けた後,刑事事件記録を取り寄せ検討したところ,亡Aの過失が大きいと考えた被告が,まず自賠責保険に対する被害者請求を行うことにしたのは妥当な処理であると考えられる。
ところで,旧報酬会規38条では,簡易な自賠責請求(自動車損害賠償責任保険に基づく被害者による簡易な損害賠償請求)について,給付金額が150万円を超える場合は,給付金額の2%とし,損害賠償請求権の存否又はその額に争いがある場合には,弁護士は,依頼者との協議により適正妥当な範囲内で増減額することができると定めているところ,被告の主張や供述を前提としても,自賠責保険の請求に関する限り,本件が,通常の事案と比べて困難を伴ったとは認められず,旧報酬会規が,民事事件や示談交渉事件の弁護士報酬とは別に,簡易な自賠責請求について報酬の基準を定めていること,自賠責請求に関する委任状の作成を受けた段階で,報酬金に関し説明がなされた形跡は認められないこと,着手金額を決めるに際し,訴外Bらに対する訴訟提起に関する金額も含んでいたが,これは被告において,刑事事件記録を検討した段階で,訴訟提起をしない方がよいとの見解を持ち,実際に被告は訴訟提起に関与していないこと等の事情に照らせば,被告は,原告らから,損害賠償請求を一括して受任し,また,原告らと被告との紛争が生じたのは,被告が,訴外Bらへの訴訟提起に消極的な姿勢を明確にした段階であり,報酬金を支払う段階では特に争いは生じていないことを考慮しても,通常の民事事件の基準に照らして報酬を定めるのは相当とはいえない。
そうすると,報酬金に関する合意は,高額に過ぎるため,暴利行為に該当し無効といわざるを得ず,弁護士の報酬額につき当事者間に別段の定めがなかった場合において,裁判所がその額を認定するには,事件の難易,訴額及び労力の程度等により当事者の意思を推定して相当報酬額を定めるべきであることに照らせば,本件においては前記認定の事実を総合考慮し,100万円の範囲でこれを認めるのが相当である。
したがって,原告らの不当利得返還請求権は,各77万5000円(合計155万円)の範囲で理由がある。