○「
直接請求に関する昭和54年10月30日東京高裁判決全文紹介2」を続けます。
この判決は、平成26年からは35年も前の私の司法修習生時代の判決ですが、既に被害者の加害者保険会社に対する直接請求について私が考えてきたことと同じ内容の結論を出していました。当時出来て間もない任意保険約款をシッカリと総合的に吟味したもので、保険金請求と被害者損害賠償直接請求の違いもキッチリ認識した上での判決であり、約款不勉強のまま安易な結論に走った平成26年3月28日仙台高裁判決より遙かに優れた判決です(^^)。別コンテンツで、私なりの解説を試みます。
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四 被控訴人保険会社に対する請求について
1 被控訴人保険会社が、保険者として、被控訴人Aとの間に、本件加害自動車につき、同被控訴人を被保険者とし、本件交通事故発生日を保険期間内とする保険金3000万円の昭和51年約款に基づく自家用自動車保険契約を締結したことは、当事者間に争いがない。
2 控訴人らは、被控訴人保険会社に対し、本件保険金の直接請求ができる旨主張するが、未だその論拠は見出し難い。即ち、本件保険契約は、いわゆる任意保険としての責任保険であつて、私人間の契約に外ならないところ、被害者にまで保険金請求権を直接認める趣旨は、契約当事者の意思に包含されているとはいえず、また包含されているとみるべきであるとすることはできない。昭和51年約款にも、その旨の規定はなく、同約款第1章第6条第1項は、損害賠償額の支払いの直接請求を認めたもので、その法的性質は、保険者が、被保険者即ち加害者に対し、同人が被害者に支払うべき損害賠償金債務の引受けを約したものと解すべきであり、このことは却って、保険金の直接請求を否定したことを含意するといえる。
被害者にも保険金の直接請求を認めた商法667条は、賃借人その他他人の物の保管者が、その支払うことあるべき損害賠償のため、その物を火災保険に付した場合、その物の所有者について認めた規定であつて、本件の如き自動車保険の被害者にまで妥当する一般通則とはなり得ないと解すべきである。また、この種保険金の支払いをめぐる現実の過程において、被害者と保険会社とが、被保険者をこえて直接折衝することが、今や一般的な態様であるとしても、そのことを以て、被害者の保険金直接請求権を認めるべき裏づけとすることも、もとよりできない。
その他控訴人らの主張を首肯しうる論拠を発見しえないので、結局、控訴人らの前記保険金直接請求の主張は、採るを得ない。
3 次に、控訴人らは、被控訴人保険会社に対し、被保険者である被控訴人Aに対する本件損害賠償債権を保全するため、同被控訴人に代位して、本件保険金の請求をする旨主張する。しかし、交通事故による損害賠償債権も金銭債権にほかならないから、債権者代位権を行使するためには、債務者の資力が債権を弁済するについて十分でないことを要すると解すべきところ(最高裁昭和47年(オ)第1279号、同49年11月29日第三小法廷判決参照)、本件についてこれをみれば、控訴人らの被控訴人Aに対する損害賠償債権は、前認定によつて明らかなように、各自482万円であつて、遅延損害金を含めても計約1100万円であるのに対し、〈証拠〉によれば、被控訴人Aは、山形県○○市に本店を有し、資本金6950万円、従業員130人を擁する木工関係の会社であつて、年間売上は14ないし15億円で、収支のバランスもとれており、経営も順調であることが認められ、これに反する証拠はないから、同被控訴人の資力が前記損害賠償金を弁済するに十分でないとはいえない。
してみると、爾余の点を判断するまでもなく、控訴人らの保険金代位請求もまた理由がない。
4 しかし、控訴人らは、被控訴人保険会社に対する本訴請求の根拠の一つとして、昭和51年約款第1章第6条第1項を主張するところ、右条項に基づく金員の支払いは、保険者の債務引受による損害賠償金の支払いであつて、保険金の支払でないことは前記のとおりであるが、控訴人らの右請求は、保険金としての金員でなければ請求しない趣旨とまでは解されず、損害賠償金の支払いを請求するものとみることもできる。
そうとすれば、右請求を認めるに障碍はない。蓋し、これまでに検討してきたところによつて、被保険者である被控訴人Aが、控訴人らに対して前記のとおりの損害賠償責任を負担すること、保険者である被控訴人保険会社が、本件保険契約により被控訴人Aに対して同被控訴人が右損害賠償責任を負担することによつて被る損害の填補責任を負うこと、及び右損害賠償額が保険金額の範囲内であることが明らかであるからである。ただ、昭和51年約款第1章第6条第2項第1号によれば、被控訴人保険会社にとつてのその履行期は、控訴人らと被控訴人Aとの間で、本件損害賠償債権についての判決が確定したときと解すべきであるから、右請求は、将来の給付を求める訴として、あらかじめこれを請求する必要がなければならない。
しかし、被控訴人保険会社に対する右損害賠償請求権が、被控訴人Aに対する本判決確定と同時に履行期が到来することは右にみたとおりであるところ、被控訴人らにおいて、いずれもそれぞれの損害賠償義務を争つているから、右請求はあらかじめする必要がある場合にあたると解して妨げない。なお、被控訴人ら主張の昭和51年約款第1章第6条第2項所定の他の2条件なるものは、右判決の確定があるときは、不要であることが同項の文言上明白であるといわなければならない。
よつて、被控訴人保険会社は、控訴人らの被控訴人Aに対する本判決が確定したときは、控訴人ら各自に対し、各482万円及びこれに対する右確定の日の翌日から右完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
五 結論
叙上の次第であるから、控訴人らの本訴請求は、被控訴人Aに対し、各自482万円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和51年6月1日から右完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金を求めるにつき理由があり、また、被控訴人保険会社に対し、被控訴人Aに対する本判決が確定したときは、各自482万円及び右確定の日の翌日から右完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから、それぞれこれを認容し、被控訴人保険会社に対するその余の請求は失当として棄却すべく、右と結論を異にする原判決は、本件控訴及び被控訴人保険会社の附帯控訴に基づいてこれを変更することとし、被控訴人Aの附帯控訴を失当として棄却し、訴訟費用(控訴費用及び附帯控訴費用を含む。)の負担につき民事訴訟法第96条、第95条、第93条、第92条を、仮執行の宣言につき同法第196条を各適用して、主文のとおり判決する。
(林信一 高野耕一 石井健吾)