○「
加害者請求権消滅時効理由での保険会社への直接請求否認判例まとめ4」を続けます。
今回は、平成21年5月に訴えを提起後3年7ヶ月経過した平成24年12月の弁論準備期日で初めて裁判官から指摘されて浮上した加害者本人に対する消滅時効と直接請求権の問題について説明します。
三井住友海上M弁護士の正に信念に基づく真摯な直接請求阻止の論陣について担当裁判官も真摯に取り組み約款を入念に精査し、それまでM弁護士も全く主張してこなかった以下の約款を担当裁判官から指摘されました。
「第5章(一般条項)
第25条(損害賠償請求権の行使期限)
賠償責任条項第6条(損害賠償請求権者の直接請求権−対人賠償)および同条項第8条(損害賠償請求権者の直接請求権−対物賠償)の規定による請求権は,次の各号のいずれかに該当する場合には,これを行使することはできません。
(1)被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について,被保険者と損害賠償請求権者との間で,判決が確定し,または裁判上の和解,調停もしくは書面による合意が成立した時の翌日から起算して2年を経過した場合
(2)損害賠償請求権者の披保険者に対する損害賠償請求権が時効によって消滅した場合」
○問題は、直接請求権は、「
(2)損害賠償請求権者の披保険者に対する損害賠償請求権が時効によって消滅した場合」には、「
これを行使することはできません」と言う点です。正直に告白すると、直接請求するに当たり、この加害者本人に対する消滅時効の条項は全く検討しておらず、裁判官から突如この点を指摘されたときは、全く、よけいなことをしてと思いながら、一瞬、焦りました(^^;)。
○しかし、その2ヶ月前の平成24年10月には自賠責保険会社としての三井住友から自賠責保険金75万円の支払があり、また、何より、消滅時効制度趣旨の「
永続した事実状態の尊重」、「
権利の上に眠る者は保護せず」、「
証拠の散逸」のいずれにも該当せず、保険会社に対する直接請求は加害者本人に対する請求と同視できるはずで、「
(2)損害賠償請求権者の披保険者に対する損害賠償請求権が時効によって消滅した場合」とは、加害者本人対する直接請求権が既に時効消滅している場合であると考え、これらの点を詳細に主張する準備書面を平成25年1月に提出しました。
○これに対し三井住友では訴え提起後4年近く経過した平成25年4月に至り初めて「
(2)損害賠償請求権者の披保険者に対する損害賠償請求権が時効によって消滅した場合」に該当するとして直接請求は認められないと主張してきました。何が何でも保険会社に対する直接請求は阻止するとの三井住友海上M弁護士の固い決意の表れでした。すると、それまで直接請求について、全く異議を唱えていなかった加害者Bの任意保険会社日新まで追随して時効消滅を主張してきました。
○そこで私は、保険会社に対する直接請求は加害者に対する請求と同視できること、更に被告任意保険会社はいずれも、示談代行において損害の金額はともかく損害の発生については認めていたのであり、請求だけでなく承認によっても時効は中断されていること、更に訴え提起後4年近くなって時効を援用することは信義則に反すること等について、更に詳細に論陣を張る主張を展開して、消滅時効完成存否論争が展開されました。私は、消滅時効制度趣旨からは、これだけ真摯に長期間に渡って損害賠償額について審理を展開してきた実質からよもや消滅時効が認められることはないであろうと高をくくっていました。
○ところが、判決は、加害者の示談代行保険会社として承認した損害賠償金額は既に自賠責保険金等で支払い済みであり、この承認を超える金額については時効中断がないこと、また、保険会社に対する直接請求による訴訟遂行は加害者の代理人として行っているものではなく加害者に対する請求とは同視できないこと、自賠責保険会社としての責任と任意保険会社としての責任は別個独立の責任であること、また、時効の援用が信義に反する事情はないとして、消滅時効の完成を認めました。そして、三井住友海上M弁護士が固い信念で主張してきたそもそも約款第6条(3)号に基づく直接請求は出来ないとの主張に対する判断は避けられました。
○お客様の主治医から脳脊髄液減少症と診断された症状での苦しみを目の当たりにして何とかこの苦しみについて適正な損害賠償を認めて貰うべく膨大な時間と労力をかけて審理してきた訴訟は、脳脊髄液減少症発症が全く認められず、更に、直接請求まで時効中断で否認されたもので私にとっては正に踏んだり蹴ったりの判決でした。唯一の救いは損害について第14級を前提として、14級損害としては極めて妥当な損害をキチンと特定して認定してくれたことです。
○この事件は、仙台高裁で更に驚愕の結論が出され、現在最高裁上告中ですが、最高裁でも消滅時効が完成していることが認められ或いは直接請求自体が認められない場合は、潔く私の判断ミスを認めて弁護士賠償保険適用申請をする予定です(^^;)。驚愕の仙台高裁判決は後日紹介します。