○「
加害者請求権消滅時効理由での保険会社への直接請求否認判例まとめ2」を続けます。
この事件で私には消滅時効完成に驚愕しましたが、お客様はそんなことより、「あれほど自分を苦しめ、また、現在も苦しんでいる脳脊髄液減少症を否認されたこと」に納得できないと怒り心頭でした。私は平成19年1月以降50数件の保険会社への直接請求訴訟を提起していますが、交通事故事件全てが訴訟になるわけではありません。後遺障害の有無・等級評価・過失割合等に争いのない事件は示談交渉で解決し、訴訟になる事件は、先ずは後遺障害の有無・等級評価に争いがあり医学論争が必要な難しい事件が殆どです。数名の弁護士に断られ或いは仕事に不満を持って最後に私の事務所に来たお客様も相当居ます。
○訴訟になった事件で脳脊髄液減少症の有無が問題になった事案が7件ありますが、他の6件は医師の診断書はあるものの、画像所見等が中途半端で、先ず認定は無理であろうと思われる事案でした。唯一このお客様の事案は私としては五分五分の期待を持った事件でした。脳MRI画像所見があったからです。問題は3回ブラッドパッチ療法を受け一時的に症状が軽快するも数ヶ月もすると症状が元に戻ること、また、初期の起立性頭痛症状が医療記録に残されていないことでした。私が調べた範囲では、ブラッドパッチ療法でスッキリ治癒した事案しか交通事故障害としての脳脊髄液減少症を認めた判決は見当たりません。
○「
平成20年1月10日横浜地方裁判所低髄液圧症候群認定判決4」での感想として、「
実務ではブラッドパッチ療法を受け、多少は改善するも完全治癒せず各種神経症状が残存している場合、ブラッドパッチ療法が効果を上げないので脳脊髄液減少症とは断定できないとの論理で否定される例も多く、治癒すれば認定され,治癒しないで苦しい状態が継続していると認定されないとの皮肉な結果となっているのが辛いところです。」と記載していますが、本件も「
治癒しないで苦しい状態が継続している」事案でした。
○私が少し期待を持った画像所見は次の通りで、証拠として提出した報告書を紹介します。
脳MRI正常画像を探し出して、これとの比較で被害者の脳MRI画像は明らかに異常所見であることを、色々勉強して「
仙台医療センター平成19年4月17日撮影原告造影脳MRI写真抜粋。上記正常サンプル画像と比較して大脳鎌(特に9,10番)、小脳テント(13乃至15番)部分が白く変色し、硬膜造影を受けていることが判る。脳脊髄液の減少の結果、「脳実質の体積+脳脊髄液の体積+血液の体積=一定」とのMonro-Kellie(モンロー・ケリー)の法則により、それを代償すべく硬膜が肥厚、硬膜下水腫・血腫等・血管膨張の結果、硬膜造影が所見される。」と記載しました。
○しかし、判決はこの画像所見での「
脳実質の体積+脳脊髄液の体積+血液の体積=一定」とのMonro-Kellie(モンロー・ケリー)の法則により、それを代償すべく硬膜が肥厚、硬膜下水腫・血腫等・血管膨張の結果、硬膜造影が所見される。」との主張には、一切、触れることなく、その他の画像所見が、端的は「中途半端」で単に「疑い」にすぎず、特に「
起立性頭痛は,低髄液圧症候群の特徴的な症状とされていることが認められるところ,前示のとおり原告には起立性頭痛が認められ」ないことを強調して、「
原告が低髄液圧症候群を発症したことが立証されているとはいえない。」と結論づけました。殆どの脳脊髄液減少症否認判決と同様の論理です。
○お客様にとっては、交通事故に遭う前までは、何ら問題なく普通の生活をしていたものが、交通事故後、医師に脳脊髄液減少症との診断を受け、何回も厳しい硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ療法)を受けるため入院を繰り返し、それでも完治せず、頭痛、めまい、しびれ等の厳しい症状に耐えながら、交通事故による受傷以来長期間に渡り、不自由な生活の継続を余儀なくされています。然るに、厳格な診断基準を全て満たさなければ交通事故による被害とは認められないとの結論には、被害者としては、到底、納得出来ません。交通事故のせいでなければ、一体、何でこんな苦しい症状のがあるのか、裁判官様、教えて下さいとの心情です。その心情、ホントによく実感します。