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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

任意保険会社への直接請求

加害者請求権消滅時効理由での保険会社への直接請求否認判例まとめ1

○「謹告!約款6条A(3)での保険会社への直接請求訴訟に黄色信号2」で、「平成19年1月19日、共栄火災海上保険株式会社に対する訴えを第一号として、以来、交通事故に基づく損害賠償請求訴訟は、原則として、約款6条A(3)による保険会社への直接請求方式で行い、平成26年4月現在まで50数件この方式での訴えを提起してきました。」と記載していました。

○この50数件の保険会社直接請求訴訟の内第9件目と第16件目の2件のみが保険会社への直接請求自体を争われましたが、第16件目の訴えは平成22年6月8日仙台地裁判決として直接請求は認められて決着しました。ところが第9件目は傷害内容が脳脊髄液減少症の有無の難しい事件であったため審理が長引き、加害者本人の請求について、症状固定日如何によっては消滅時効期間が経過しており、この点を裁判官に指摘された保険会社は、消滅時効を援用して、これも争点の有無になりました。

○この事案は、事故が平成17年11月18日と平成18年7月3日の2件重ったことによる損害賠償請求ですが、審理途中の平成24年9月、2件の事故が競合したとして自賠責保険から14級後遺障害がなされ、同年10月に自賠責保険金が支払われており、且つ、任意保険会社に対する請求は実質加害者に対する請求と同視でき、何より、「永続した事実状態の尊重」、「権利の上に眠る者は保護せず」、「証拠の散逸」との消滅時効制度趣旨のいずれにも該当しない本件事案では、消滅時効が認められることは先ずあるまいと高をくくっていたら、なんと、消滅時効完成と認定されました。平成25年10月11日仙台地裁判決を書いた裁判官は実質より形式論理を優先したのです。

○平成25年10月11日仙台地裁判決は43頁にも及ぶ長文ですが、事案概要は以下の通りです。
・被害者Xは自動車運転中の主婦で、平成17年11月18日加害者A運転車両に追突され(第1事故)、むち打ち症受傷し治療中の平成18年7月3日加害者B運転車両に側面衝突されて(第2事故)、更にむち打ち症悪化

・Xは、むち打ち症治療のため整形外科2病院に通院を継続していたが、平成19年3月仙台医療センター脳神経外科鈴木晋介医師から「脳脊髄液減少症の疑い」の診断を受け、同年5月外傷後髄液漏と診断されて、第1回目の硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ療法)を受け、以降、同年9月、平成20年5月と合計3回硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ療法)を受けるも軽快せず

・Xは、2件の交通事故による傷害で脳脊髄液減少症発症し等級第12級に相当する後遺障害を残したとして全損害約2000万円の内約1687万円を第1事故加害者A任意保険会社三井住友に、約313万円を第2事故加害者B任意保険会社日新に請求する訴えを平成21年5月に提起(判決認定症状固定時期平成19年2月3日としても、この時点で加害者本人に対する消滅時効は完成せず)

・第1事故と第2事故の寄与割合は前者80,後者20と主張

・平成24年9月、第1事故と第2事故競合によって等級第14級の後遺障害が発症したと認定され、第1事故自賠責保険会社三井住友、第2事故自賠責保険会社共栄火災から各75万円ずつ合計150万円受領、前記損害額はこの自賠責保険金受領後の金額

・被告三井住友は、答弁段階から保険会社に対する直接請求自体を厳しく争い、原告Xと被告三井住友直接請求可否論争が発生、被告日新は、当初は、直接請求について特に争わず応訴


○同判決でまとめた争点は以下の通りです。
・本件各事故を原因とする低髄液圧症候群の発症の有無
・後遺障害及び症状固定日
・第2事故後の症状につき本件各事故の寄与割合
・損害額
・任意保険の直接請求権を行使する期限が経過したか否か
・任意保険の直接請求権に関する他の条件充足の有無


○同判決の各争点毎の判断結論は以下の通りです。
・本件各事故を原因とする低髄液圧症候群の発症の有無
判決は、医療記録を精査して、事実関係を詳細に認定した上で、低髄液圧症候群の診断基準も詳細に検討して、「原告が本件各事故により低髄液圧症候群を発症したと認めることはできない。」と結論づけました。

・後遺障害及び症状固定日
自賠法施行令別表第二の第14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に相当し、症状固定時期は平成19年2月3日

・第2事故後の症状につき本件各事故の寄与割合
第1事故が80%,第2事故が20%と認めるのが相当

・損害額
後遺障害等級第14級を前提として第1事故分が金497万6900円、第2事故分が金16万9878円(いずれも自賠責保険金充当後で遅延損害金含まず)

・任意保険の直接請求権を行使する期限が経過したか否か
症状固定日平成19年2月3日から3年を経過した時点で消滅時効完成し、被告三井住友・被告日新のいずれも遅くても第1審終結までに消滅時効を援用しているので原告は請求権を行使できない

・任意保険の直接請求権に関する他の条件充足の有無
判断は不要として判断せず