○「
逸失利益算定における労働能力喪失期間の男女差に注意」の続きです。
弁護士の交通事故訴訟実務で最も使われているのが、財団法人
日弁連交通事故相談センター作成「交通事故損害額算定基準−実務運用と解説−」(最新版は昭和24年2月発行23訂版、いわゆる青本)と、財団法人
日弁連交通事故相談センター東京支部作成「交通事故損害額算定基準」(最新版は2013(昭和25年)版、いわゆる赤本)です。
青本は本部、赤本は東京支部作成ですが、いずれも
日弁連交通事故相談センターの委員が執筆しており、顔ぶれを見ると相当部分が重なっています。青本作成は本部で全国の弁護士が作成に拘わるとの建前のため専門委員会第二部会委員として、愛知、広島、福岡、仙台、札幌、香川の各高裁管内弁護士会からも1名ずつ参加しています。但し、青本執筆委員は、東京三会の会員のみで地方会からは参加していません。
○肝腎の青本、赤本の中身ですが、解説内容、取り上げている判例等余り変わりはないように感じます。慰謝料基準金額が、青本は多少幅をもって記載しているのに対し、赤本は固定金額です。例えば後遺症等級第1級の慰謝料は、青本では2700〜3100万円、赤本では2800万円と記述されています。実際裁判例は、当然、ケースバイケースで幅がありますので、この慰謝料金額に関しては、青本の方が参考になります。
○問題の逸失利益算定における労働能力喪失期間の男女差ですが、青本・赤本いずれにも、以下の通り、特に注意的な解説はなされていません。
青本23訂版101頁
「
4 労働能力喪失期間の認定
@ 四肢切断のような欠損傷害については、就労可能年限(通常は67歳、高齢者の場合は平均余命の2分の1の年数)まで喪失期間を認める判決例が多い。 」
赤本2013年版77頁
「
(3)労働能力喪失期間
@(省略)
A労働能力喪失期間の終期は、原則として67歳とする。
症状固定時の年齢が67歳を超える者については、原則として簡易生命表(本誌上巻354頁参照)の平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とする。」
○この年齢が高い方の場合の労働能力喪失期間については、自賠責保険の別表のように
「
(1)54才未満の者は、67才から被害者の年令を控除した年数とした。
(2)54才以上の者は、平均余命年数の1/2とし、端数は切上げた。 」
とズバリ、54歳を境に平均余命の2分の1になると明記した方が親切に感じます。
但し、自賠責保険別表U-1の「就労可能年数とライプニッツ係数表」は、平均余命に差のある男女を区別しない数字で記載されています。自賠責保険金算定基準としては、やむを得ないかも知れませんが、より具体的・個別的事情も加味して具体的に妥当な損害賠償額認定を求める司法判断においては、54歳以上の平均余命2分の1の基準は、男女を分けて正確に記載すべきでしょう。
○この労働能力喪失期間の算出については、ついつい、青本・赤本に参考資料として掲載されている自賠責保険別表U-1の「就労可能年数とライプニッツ係数表」の数字をそのまま使用してしまうことがあります。この表の数字は、54歳以上の男子に関しては1年程度有利に記載されていますが、54歳以上の女子に関しては1〜2年不利にカウントされています。男子に関しては知らないふりをして、この表の数字をそのまま使用しても構いませんが、女子に関しては、シッカリ、平均余命の2分1を計算し直して算出する注意が必要です。