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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

追突事故での統合失調症発症との因果関係を認めた判例全文紹介3

○「追突事故での統合失調症発症との因果関係を認めた判例全文紹介2」の続きです。
今回は、争点に対する裁判所の判断です。




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第三 争点に対する判断
1 本件交通事故の態様及び過失相殺の有無

(1)証拠(略)により、本件交通事故の態様は、訴外丁山が、交差点を右折進行するにあたり、前方を注視して進行する注意義務を怠り、前方を進行していた原告車の動静を注視せず、訴外丁山車の右前部を原告車の左後部に追突させたものと認定することができる。被告らも、本件交通事故につき訴外丁山に前方不注視の過失があること自体は認めている。
 したがって、訴外丁山は、民法709条(人的損害については他に自動車損害賠償保障法3条)に基づき、本件交通事故により生じた原告の損害を賠償すべき責任を負担している。

(2)被告らが過失相殺事由として主張する、原告車による訴外丁山車の前方への割り込みとか、原告車の急ブレーキは、いずれも認めるに足りる証拠はない。原告車の割り込みや急ブレーキを言う証拠(略)は、そのようなことは証拠(略)では述べられていないことに照らし、採用できない。

 したがって、被追突車による道路交通法24条違反の理由のない急ブレーキがあった場合の表である別冊判例タイムズNo.16の第107表は、本件交通事故においては適用されない。
 そして、本件交通事故が起こったのは、交通頻繁な交差点を右折するときであるところ、そのようなときは車の流れは複雑で変化しやすく、ブレーキが必要となる場面が多いことは訴外丁山としても十分予想できるのであるから、本件交通事故における原告車のブレーキ(これが急ブレーキと認めるに足りないことは上記のとおり。)については、過失相殺の事由にはならない。

(3)以上により、本件においては、過失相殺は認められない。

2 本件交通事故により生じた原告の損害
(1)ア 本件交通事故と原告の人的損害との因果関係について検討するに、原告が頸椎捻挫、腰背部挫傷を受傷し、頸部重苦感、両上肢痺れ感の症状を残存したことが、本件交通事故に起因するものであることについては、証拠(略)により認められる。証拠(略)は、本件交通事故との関連性の明らかではない遊園地の乗り物との比較や作成者自らを被験者とする実験からの推論であり説得力が乏しく、採用できず、その他上記認定を妨げる証拠はない。

イ 本件交通事故と統合失調症の発症との因果関係については、原告の精神科の主治医が「交通事故というライフイベントが十分な強度のストレスとして統合失調症発症に関与した可能性がある」との意見を述べており、証拠(略)によれば、原告の精神科の主治医は、「これまで精神疾患の既往もなく、精神科受診歴もなかった。アルバイトを行っており、社会生活上大きな問題はなかったが、事故直後より不眠が出現し、連続して幻覚・妄想が短期間で出現している」との事実の根拠があって、そのような意見を述べているものであること、幻覚、妄想の内容が本件交通事故の相手方である訴外丁山やその代理人弁護士を対象とするものであり(調査嘱託の結果)、明らかに本件交通事故に関連した内容であること及びこの幻覚、妄想の内容からすれば本件交通事故とそれに関するその後の係争が原告にとって強度のストレスとなったことが認められることからすれば、本件交通事故と原告の統合失調症の発症との間にも因果関係が認められる。

 以上の当裁判所の判断に対し、自賠責保険等級認定の判断は、統合失調症による妄想や幻覚の症状が認められたのが本件交通事故から49日後であること及び本件交通事故による脳の器質的損傷が認められないことから、本件交通事故との因果関係を否定するが、前者の点については、本件交通事故とそれに関するその後の係争を統合失調症の発症に関与したストレスとみるのであるから、本件交通事故49日後というのが本件交通事故との因果関係を認めるのを妨げるほど遅い時点であるとは理解し難いし、後者の点については、原告の統合失調症はもとより非器質性のものであるから、脳の器質的損傷が認められないことは本件交通事故との因果関係を認めるのを妨げるものではなく、したがって、自賠責保険等級認定の上記判断は採用できない。

 また、自賠責保険等級認定の結論は「相当」因果関係を否定するものであるが、上記判示で認定した因果関係については、因果関係の相当性についても備えていると認められ、残るのは素因減額の問題であると判断される。

(2)各費目
(ア)入院雑費 1万2,000円(請求同額)
 1日当たりの入院雑費を1,500円とするのは相当であり、したがって、次の計算式により、上記認定額が相当と認められる。
 1,500円/日×8日=1万2,000円

(イ)付添交通宿泊費 1万7,130円(請求同額)
 入院実日数8日の入院に付き添うための諸費用として、上記認定額は相当と認められる。

(ウ)通院治療費 0円(請求7万5,420円)
 平成20年1月以降のB病院神経精神科への通院治療は、前記第二の1(2)イのとおり統合失調症につき平成19年12月26日症状固定の診断がなされた後の治療であるから、その費用は訴外丁山の賠償すべき損害と認めることはできない。

(エ)通院交通費 18万6,960円(請求22万8,000円)
 前記第二の1(2)のア(イ)、(ウ)の各通院((イ)につき97日、(ウ)につき2日)及び前記第二の1(2)のイの通院のうち平成19年12月26日症状固定以前の通院(65日)についての交通費として、1通院の交通費を1,140円として(この単価は弁論の全趣旨による。)、次の計算式により、上記認定額が認められる。
 1,140円/日×164日=18万6,960円

(オ)文書料 5万3,445円(請求同額)
 証拠(略)により上記認定額が認められる。

(カ)休業損害 132万5,199円(請求同額)
 前記第二の1(2)の入通院の状況からすれば本件交通事故後3ヶ月間を休業期間とすること、前記第二の1(4)の原告の年齢、学歴からすれば年額530万0,800円を基礎収入とすることは、いずれも相当と認められるから、次の計算式により、上記認定額が相当と認められる。
 530万0,800円÷12月×3月=132万5,199円

(キ)入通院慰謝料 200万円(請求同額)
 本件交通事故直後の8日間の入院及び平成19年12月26日統合失調症症状固定に至るまで間の実日数164日の通院状況(前記(エ)参照)から、上記認定額が相当と認められる。