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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

交通事故による脳脊髄液減少症を認めた名古屋高裁判決紹介3

○「交通事故による脳脊髄液減少症を認めた名古屋高裁判決紹介2」を続けます。
 ここで判決は、被害者が外傷性の脳脊髄液減少症に罹患したことを認定した理由を説明しています。その理由は、被害者が、
@交通事故で頭部及び腰部を地面に強打させ重大な傷害を受け
A本件事故の直後から、一貫して頭痛を訴え、特にその頭痛は起立時に増強することを訴えていたこと、
B受傷後約2年8か月後に熱海病院を受診するまでは、このような頭痛が治まることはなく、頭痛のほか、頚部痛、目眩、耳鳴り、記憶力低下、気力低下、倦怠、不眠等の症状が持続していたこと、
C熱海病院において3回にわたるブラッドパッチ治療等を受け、その度毎に頭痛等の症状が明らかに軽減し、最終的には頭痛やその他の症状もなくなって完治していること、
D熱海病院の篠永医師は、RI脳槽シンチグラフィー、MRミエログラフィー、造影脳MRI検査等の画像検査に基づき、髄液漏出所見が見られることなどを確認し、第1回ブラッドパッチ治療終了後、髄液漏出像が消失し、髄液漏出所見に改善があったと判断したこと
等を上げています。
 ポイントは、事故による傷害の重大性、起立性頭痛等の症状の一貫性、ブラッドパッチ療法の奏功、RI脳槽シンチグラフィー等検査結果の明瞭性と思われ、なかなかハードルが高いなと言う印象です。


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3 控訴人の外傷性脳脊髄液減少症について
(1)上記認定事実によれば、本件事故は,普通乗用自動車である被控訴人車が相当の高速度で歩行者である控訴人に後方から衝突し、控訴人を約7mも跳ね飛ばして、頭部及び腰部を地面に強打させたという重大な交通事故であり、控訴人の受傷状況も大変に重篤なものであって、このことは、当事者に争いのない外傷の内容及び程度や、入通院の状況からも明かであること、現に、控訴人は、既往症がないにもかかわらず、本件事故の直後から、一貫して頭痛を訴え、特にその頭痛は起立時に増強することを訴えていたこと、受傷後約2年8か月後に熱海病院を受診するまでは、このような頭痛が治まることはなく、頭痛のほか、頚部痛、目眩、耳鳴り、記憶力低下、気力低下、倦怠、不眠等の症状が持続していたこと、しかし、熱海病院において3回にわたるブラッドパッチ治療等を受け、その度毎に頭痛等の症状が明らかに軽減し、最終的には頭痛やその他の症状もなくなって完治していること、熱海病院の篠永医師は、RI脳槽シンチグラフィー、MRミエログラフィー、造影脳MRI検査等の画像検査に基づき、髄液漏出所見が見られることなどを確認し、第1回ブラッドパッチ治療終了後、髄液漏出像が消失し、髄液漏出所見に改善があったと判断したことが認められ、以上を総合すれば、控訴人は、本件事故より外傷性脳脊髄液減少症となり、熱海病院の診察によってこれが完治したものと推認するのが相当である。

 なお、当審の終盤においてなされた控訴人による完治の主張は、その当否の見極めに時間を要したと思われることや、特段の訴訟遅延をもたらすものでもないから、時機に後れたものとはいえない。

(2)被控訴人は、整形外科医である中尾清孝医師(以下「中尾医師」という。)が東京海上日動メディカルサービス株式会社からの依頼を受けて作成した意見書(乙3,4)等に依拠して、脳脊髄液減少症は、篠永医師らの勤務する熱海病院等、ごく特定の医療機関が診断するにすぎない疾患であり、髄腔にピンホールが生じて、髄液の漏出により髄液圧が下がるとのメカニズムが想定されているものの、その病態について医学的に全くコンセンサスが得られていないこと、控訴人に対しては、ブラッドパッチ治療が何度も行われているが、その症状の推移は一進一退を繰り返しており、仮に、脳脊髄液減少症の病態が硬膜ピンホールであるとすると、○○○治療で改善しないことの合理的な説明がつかないこと、控訴人は、平成21年12月18日、篠永医師から、脳脊髄液減少症は完治したと言われたにも拘わらず、その後も頭痛などの症状が続いていたこと、控訴人のMRIの画像等に照らしても、RIの膀胱集積、腰椎での漏出像は一般の健常者に見られる程度のものにすぎず、自賠責保険の後遺障害認定においても、髄液の漏出を示す明かな所見は認められないとされていること(甲274)、篠永医師自身、画像診断やRIシンチグラフィー上、誰が見ても明らかに脳脊髄液減少症であると診断される例は少なく、むしろグレーゾーンは広いとするが、同医師はそのようなものも脳脊髄液減少症例に含めることがあり、診断率は高くなると述べていることからすると、同医師が客観的所見上控訴人に髄液の漏出が認められたと言うのは極めて疑問であること、国際頭痛分類による低髄液圧性頭痛の診断基準のうち、硬膜外血液パッチ後72時間以内に頭痛が消失するという基準を満たしていないこと等を縷々指摘して、控訴人の外傷性脳脊髄液減少症を否定し、仮に、控訴人の症状が完治したとすれば、平成17年1月に症状固定した14級の後遺障害が約5年程度の平成22年初旬ころには、逸失利益の算定をする必要もないほどに軽快ないし全快したというにすぎない旨主張する。

 また、被控訴人は、仮に、控訴人が脳脊髄液減少症に罹患していたとしても、その診断が篠永医師に下されたのが本件事故後約2年8か月程度経過した時期であること、いきみ、咳き込み、しりもちなど、日常普通におきる事象によっても脳脊髄液の減少は生じ得るとされていることに照らすと、当該脳脊髄液減少症と本件事故との間の因果関係を肯定することはできない旨主張する。