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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

交通事故での胸郭出口症候群等を認めた名古屋地裁判決紹介2




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2 争点
(1)本件事故による原告の傷害及び後遺障害
ア 原告の主張
 原告は,本件事故により外傷性頚椎症及び外傷性腰椎症の傷害を受け,平成16年6月30日から平成17年12月30日までBクリニックに通院し(通院実日数151日),平成18年2月27日から平成18年3月6日までC病院に通院し(通院実日数2日),平成18年6月22日から同月23日までDクリニックに検査入院し,平成18年7月31日から平成19年9月6日までDクリニックに通院した(実通院日数3日)。
 原告の症状固定日は平成17年12月30日であり,後遺障害は次の(ア)ないし(ウ)のとおりである。
 原告の後遺障害については,「頚椎XP,MRI:C5/6前方すべり,同部で左外側型の椎間板の重出,椎間板の左低信号化−,腰椎XP,MR I:L3/4前方すべり,L3/4,L4/5で椎間板の膨隆がありL4/5にはhigh intensity zoneが認められ,外傷性と思われる」 と診断書(甲21)に記裁されているように,頚椎や腰椎のレントゲン写真やMRI検査による所見で前方すべりという他覚所見が認められている。原告は,本件事故の受傷により,後遺障害として椎間板の膨隆を生じ,すべり症を発症したものである。また,胸郭出口症候群についても,Dクリニックで脳血管撮影を施行し,両側とも上肢拳上にて左鎖骨下動脈は70%の狭窄,右は50%の狭窄であり,この事実は他覚的に明白である(甲23〜26)。

(ア)胸郭出口症候群
後頭部頚部痛,頚・両肩・両上腕・両手指の痺れ,絞扼感(鎖骨の上方が鷲掴みされたような硬直感),血行障害による耳閉塞感

(イ) 腰椎分離すべり症 腰痛,両足の薄れ

(ウ) 排尿障害(神経因性膀胱)
原告は,これらの後遺障害のため,倦怠感が強く,物事に集中することができず,自動車の運転40〜50分しかできなくなり,日常生活に支障を来し,就業する仕事の種類も制限される状態にある。
原告は,排尿障害からくる頻尿に悩まされ,おおむね1時間に1回くらいの割合で排尿をしなければならない。日中8回以上の排尿がある。
上記後遺障害の等級は,(ア)(イ),がいずれも12級,(ウ)が11級であり,併合して10級の後遺障害である。

イ 被告の主張
 原告が本件事故により傷害を受けたことは認めるが,治療経過については争う。原告は,頚椎椎間板ヘルニア,前方すべり症,後方すべり症による脊柱管狭窄と診断されているが,これらは原告の既往症であると考えられ,原告主張の治療経過には,そのような傷病に関する治療も含まれている。原告の後遺障害については争う。本件事故により神経因性膀胱の後遺障害を負ったとの主張は争う。原告の排尿障害は,Bクリニックの終診時である平成19年3月3日には消失とされている(乙5)。原告は,当初,後遺障害非該当と判断され,異議申立ての結果,「他覚所見はないものの,症状の訴えの一貫性が認められる」として後遺障害等級14級が認められたものである(乙1)。

(2)本件事故による原告の損害
ア 原告の主張
(ア)治療費 149万0745円
 a Bクリニック 142万2160円
b C病院 9835円
 c Dクリニック 5万8750円

(イ)通院交通費 8万2470円

(ウ)休業損害 24万8819円
 休業日数は10.5日である。直近3か月の給与は合計213万2730円であるから,1日の収入は2万3697円である。休業損害は2万3697円×10.5=24万8819円である。

(エ)後遺障害逸失利益 1825万7068円
 後遺障害等級は併合10級であり,労働能力喪失率は27%である。
 就労可能年数は平均余命の半分の11年(ライプニッツ係数は8.3064)である。事故当時の年収は814万0563円なので,後遺障害逸失利益は,814万0563円×27%×8.3064=1825万7068円である。なお,原告には,本件事故前に既往症はない(甲2〜20の各枝番1)。

(オ)傷害慰謝料 200万円
  通院期間549日,通院実日数150日であり,傷害慰謝料は200万円が相当である。

(カ)後遺障害慰謝料 570万円
後遺障害等級は10級なので,後遺障害慰謝料は570万円が相当である。

(キ)弁護士費用 250万円

(ク)既払い額 225万4630円

(ケ)既払い額を控除した残額は2793万4472円である(実際には,2802万4472円となるが,違算の上,より小さい額を主張し,請求しているものと解される。)。

イ 被告の主張
(ア)原告の主張(ア)の治療費のうち,aのBクリニックの142万2160円は認め,b,cは争う。これらは,症状固定後の通院にかかるものであり,本件事故と相当因果関係を欠く。

(イ)同(イ)の通院交通費は認める。

(ウ)同(ウ)の休業損害は争う。原告が有給休暇を消費したのは0.5日分だけであり,残りの10日は疾病休暇という特別休暇扱いである(乙2)。そうすると,休業による損害は0.5日分ということになるから,213万2730円÷90日×0.5日=1万1848円とすべきである。

(エ)同(ウ)の後遺障害逸失利益は争う。障害が10級であるとの主張は争う。本件事故は、原告車後部のバンパーがわずかに凹損した程度の軽微な追突事故であり,原告の後遺障害が他覚所見のない頚椎捻挫であることからすれば,労働能力喪失期間は3年とすべきである。また,後遺障害等級14級の労働能力喪失率は5%とされるべきである。原告は,症状固定時に自主退職していることから,現実の収入を基礎年収とすることは相当ではなく,賃金センサスを用い,男性労働者の平均年収を基礎収入とすべきである。そうすると,後遺障害逸失利益は,555万4600円×5%× 2.7232=75万6314円となる。

(オ)同(オ)の傷害慰謝料は125万2000円の限度で認め,その余は争う。

(カ)同(カ)の後遺障害慰謝料は110万円とすべきである。

(キ)同(キ)の弁護士費用は争う。

(ク)同(ク)の既払い額は認める(被告の付保共済からの150万4630円,自賠責保険からの75万円の合計226万4630円)。

(ケ)同(ケ)の残額は争う。

(コ)原告には,頚椎椎間板ヘルニア,前方すべり症等の既往症があったと考えられるところ,原告の本件事故による後遺障害については,事故の受傷とともに,上記既往症もその原因となって発生したものというべきである。そうすると,原告の損害額を算定するにあたっては,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用し,素因減額がされるべきである。