○いわゆるむち打ち症は、交通事故での追突事故での発症例が典型ですが、事故直後は大したことがなく、病院にも行かなかったが、翌日或いは数日後から徐々に頸部等の痛みがひどくなってきたという交通事故被害者の方が,結構、多くおられます。ところが,保険会社側では、
むち打ち症に対する誤解のひとつに「後になって症状(後遺症)が出るので怖い」などというのがあります。
医師の中にもそのように言う人もいますが、受傷後相当期間たっての症状発現は、医学的に考えられず、他の事故以外の原因を疑うのが合理的だと思われます。
外傷は、受傷直後に症状が現れるのが特徴であり、それはせいぜい3日位までで、受傷後長期間を経て頑固な症状が出ることはありえません。
と主張し、事故後1週間後に発症した場合などは,事故とは無関係と主張します。
○ところが、実際、多くの交通事故患者を診ている鍼灸院、整骨院等臨床医療実務家からは、事故直後は何ともなかったが、数日後から症状がひどくなってきたとの例は多いとの声があります。例えば、
痛み緩和教室疼元庠舎(とうげんしょうしゃ)の
理学療法士岸川正昭氏は、
事故当日は「なんともなかった」とか「ちょっと気になる程度で大した痛みではなかった」などと訴える方が多いですね。事故より1〜2週間が経過していく中で、日を追うごとに痛みが増強して病院受診されるという経過のようですね。
と述べ、その原因と対策について、
この様に1〜2週間の時間経過に伴う痛み増強には、頚部・肩甲骨周囲筋の深部の小さな損傷が基点となっています。小さな損傷による痛みで反射が亢進し、筋スパズム(筋肉が一部分血流不全などによって硬くなった状態)を起こした結果の痛み増強が多いようです。炎症ではなくスパズムが痛みの原因です。
この場合は筋スパズムの軽減が第一になってきますが、小さい損傷(圧迫痛のある場所)が筋肉内には存在していますから、一旦スパズムを軽減しても日常生活を送る以上は精神的・身体的疲労が原因となり反射は亢進しやすい状況です。一旦軽減された痛みは再発されやすい状況であることには違いありません。痛みは突然消えることはなく、日々ゆっくりと少しずつ軽減していくという経過が多くみられます。
初期はスパズム軽減に重点をおき、その後は筋肉の耐久性向上を中心とした運動に重点をおいたサポートに転換していくことが大切です。
と素人にも判りやすく解説しています。この説明は、
心療整形外科との表題でブログを開設されている
加茂淳整形外科医の説明にも通じます。
○いわゆるむち打ち症について、事故当日は、殆ど症状が出なくても、翌日以降から様々な症状が出現することが数多く報告されていることは公知の事実であり、まして経験豊かな整形外科医等医療専門家であれば熟知していることは、いわばむち打ち損傷に関係する当事者にとっては、常識であると私自身は確信して居ますが、保険会社側は上記の通り否定しています。
○むち打ち治療協会の代表を務め数多くのむち打ち症患者を診察・診断してきた柔道整復師柳澤正和著「
むち打ち症のつらい症状は専門家と一緒に治す!」11頁には「
しかも、むち打ち症は、軽い事故であれば受傷直後は自覚症状がなかったり、検査でも異常が認められないことが多いにもかかわらず、2〜3日あるいはそれ以上経ってから症状が現れ、痛みがだんだん強くなっていくケースが少なくありません。やがて、……」と端的に記載しています。
○この著作は、平成22年8月16日初版第1刷でいわば最新のデータですが、相当古いデータでも、平成元年12月初版新日本法規発行「現代民事裁判の課題G交通損害労働災害」622頁以下掲載当時美唄市立病院外科部長浅井登美彦医師著論文「むち打ち症患者の診療の実情と問題点」に「2 症状 桐田氏(「臨床整形外科」1968年第3巻289頁)には「
頸部挫傷の受傷より発症までの期間は、6時間以内22%、24時間以内73%、3日以内85%、1週間以内92%であるという。」との記載があります。これによれば15%の患者が4日以降に症状を発症させ、8%(約10人に1人)が1週間経過後に症状を発症させていることが明らかです。
○また整形・災害外科2009年2月発行Vol.52bQの139頁小谷善久医師論文「外傷性頚部症候群の病態解析に関するmultidisciplinary approach」には、「
臨床上、頚部痛が受傷後遅れて発現することはよく知られているが、211名の追突事故被害者の調査からは受傷直後の発現が28%程度であることが報告されている。」と記述されています。
これらのデータから上記保険会社側の主張は、医学的根拠に欠けていると思うのですが、決して譲りません。