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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

後遺障害認定後減収がない場合の逸失利益に関する判例1

○保険会社との交通事故損害賠償請求交渉で、良く争いになる事項として、表記「後遺障害認定後減収がない場合の逸失利益」の評価があります。例えば労働能力喪失率が14%と評価される後遺障害等級12級が認定されても、その被害者が、公務員であったり、堅実な企業に勤務して給料の減額が無い場合、保険会社は、一般的には、等級に従った朗読能力喪失を前提とした逸失利益は認めず、極端な場合は、自賠責保険後遺障害保険金(12級で224万円)の範囲内の金額を提案し、或いは労働能力喪失率を更に低く認定し、さらに労働能力喪失期間を短縮するなどして、少しでも提案金額を少なくしようとします。

○「後遺障害認定されるも減収がない場合の逸失利益」については、対保険会社との訴え提起前示談交渉段階では、後遺障害等級に定められた労働能力喪失率で且つ67歳までの稼働期間全体での逸失利益による示談成立はまず不可能と考えて良いでしょう。例えば年収500万円の人が40歳で後遺障害第12級に認定された場合、その労働能力喪失率14%での40歳以降稼働期間27年ライプニッツ係数14.643となり、逸失利益は年収500万円×労働能力喪失率0.14×14.643=約1025万円となりますが、現実に給料の減額が無い場合、保険会社は例えば12級後遺障害保険金224万円程度しか逸失利益を認めないことが殆どです。

○その理由は、昭和56年12月22日最高裁判決が、「本件にあっては原判決も認めるように被上告人には本件事故後も全く収入の減少はなく、近い将来に収入減少の生じる蓋然性も全く認められない。このような場合にまで損害の発生を認めることは民法第709条の趣旨を逸脱するものである。(中略)仮りに、労働能力の減少のみで損害ありと考えるとしても、一般的抽象的に労働能力の喪失を考えるべきでなく、当該被害者の具体的職務内容、後遺症の内容等よりみて、後遺症が収入の減少につながる蓋然性が高い場合にのみ逸失利益を認めるべきである。」と断じたからです。しかし、この「当該被害者の具体的職務内容、後遺症の内容等よりみて、後遺症が収入の減少につながる蓋然性が高い場合にのみ逸失利益を認めるべき」との論理は、全く不十分・不合理と思われますが、その後の下級審判例は、減収がない場合でも、相当の逸失利益を認める判例が結構出ています。

○その一つとして平成22年7月2日名古屋地裁判決(判例時報2094号87頁)を紹介します。この事案は、交通事故による傷害で後遺障害等級第11級7号を認定された国税調査官が労働能力喪失率20%、喪失期間を残稼働期間全体の36年として合計約2447万円の逸失利益の請求をしたところ、保険会社側は収入について現実の減収がないとのことで喪失率14%で喪失期間5年程度であると主張したものです。

○これについて裁判所は、労働能力喪失率は保険会社側主張14%としながら、喪失期間について、後遺障害と認定された脊柱奇形障害に伴う腰痛等で集中力を欠き能率が落ちて同僚らと比較し相当の残業を強いられ、現実の減収がないのは、本人の努力によるところが大きく、将来の昇級・昇格に影響が出る可能性が否定できず、就労期間全体の逸失利益を認めるべきとして、約1713万円の逸失利益を認めました。この判例での注目点としては、国税調査官の定年が60歳であるのに67歳までの稼働期間を認めた点もあります。この判例の外にも現実の減収のない場合で逸失利益を認めた判例は結構あり、私の備忘録として残していきます。