「
平成20年1月10日横浜地方裁判所低髄液圧症候群認定判決4」の続きです。
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イ 上記認定のとおり、同被告が、@本件事故後、髄液減少症の典型的症状とされる激しい起立性頭痛(立位で頭痛が生じ、臥位で改善する頭痛)、めまいの症状を訴えるとともに聴力低下も認められ、頭部MRIの検査結果において髄液漏れを疑わせる所見が見られたことや副作用の強い副腎皮質ホルモンプレドニンを服用しても上記症状の改善が見られなかったことから、髄液減少症の診断を受けたこと、A平成17年5月13日、髄液減少症の治療に最も広く用いられており、症状を改善させる可能性が高いといわれるブラッドパッチ療法を受けたところ、加療後数時間で頭痛が消失し、その後の経過も良好であり、同年7月末日には治ゆの診断を受けたことからすれば、同被告は本件事故後に髄液減少症にり患したものと認定できる(証拠略)。
また、上記認定のとおり、
@同被告は、本件事故の際、頭部右側を打って一瞬意識を失い、本件事故直後、頭部から首、腰にかけての部位や肩の痛み等を訴え、本件事故の3日後に受診したD病院においても頭痛を訴えて「頭部挫傷」の診断を受け、同病院の診療録中本件事故の8日後である平成16年3月1日の欄には「眼の奥が痛い」との記載があること、
Aその後は、首、腰、右上肢、右下肢の痛みの方が強かったものの、多少の頭痛はあり、E整形外科の診療録中同年7月6日の欄には「右眼のうらが痛い」との記載が見られ、同月29日には丁山医師から眼科併診を勧められたこと、
B同年8月ころから特に頭痛が強くなり、平成16年9月8日付け作成の「病状の経過・治療の内容および今後の見通し」には同年8月21日現在における同被告の主訴の内容として「右眼の奥が痛い。」と記載されていることに照らすと、同被告の頭痛は、当初は首、腰、右上肢、右下肢の痛みよりは軽かったものの、程度の差はあれど本件事故直後から続いており、しかも、上記各記載内容に照らすと、頭痛の性質も、一貫して右眼の奥ないしうらが痛むというものであったことが認められる。そして、
C同被告には、本件事故前には、上記のような激しい頭痛等の症状はなかったこと、
D同被告は、本件事故後、仕事や通院等の際には専属の運転手に付き添われ、自宅においては車いすを用いるなどして安静を保っており(被告甲野太郎)、上記症状を生じさせるような出来事が生じたと認めるに足りる証拠はないこと
に照らすと、同被告の髄液減少症と本件事故との相当因果関係も認められるというべきである。
ウ なお、確かに、同被告において髄液減少症の症状が顕著になったのは本件事故後約半年が経過した平成16年8月であるが、同被告のように髄液の漏れる孔が小さい場合には半年から1年後に発症するケースも一般的であること、髄液が漏れ始めた当初は、体内で代償でき、現状維持し得るものの、徐々に上記代償による対応ができなくなり、発症すること(証拠略)に照らすと、上記の点は前記認定を揺るがすものではない。
また、(証拠略)には、低髄液圧症侯群は軽度の外傷により発生する可能性は十分にあり、それ以外のふだんの日常生活においても十分発症するといえる旨記載されているが、前述のとおり、同被告には、本件事故前には、本件事故後に生じた症状はなかったこと、本件事故後、髄液減少症の症状を生じさせるような出来事が生じたと認めるに足りる証拠はないことからすれば、上記記載も前記認定を揺るがすものではない。
エ 別紙1の治療費151万8,140円が本件事故と相当因果関係を有することについては、当事者間に争いがなく、上記認定及び証拠(略)によれば・別紙2の治療費95万9,145円も本件事故と相当因果関係を有するものと認められ、合計247万7,285円につき、本件事故との相当因果関係が認められる。
(2) 交通費(争点(2))について
上記(1)において認定した事実、証拠(略)によれば、被告甲野太郎は、平成16年12月1日から平成17年4月26日にかけて通院交通費15万4,300円を費やしたことが認められ、これら全額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
(3) 休業損害(争点(3))について
ア 証拠(略)によれば、(ア)被告甲野太郎は、18歳のころから、会社の委託を受けて個人の顧客に高級布団を販売する仕事に従事しており、同被告を通じて高級布団を購入した者の多くは常連客となっていること、(イ)同被告の具体的な仕事内容は、主として常連客に電話を掛けて面談の約束を取りつけ、その後にパンフレットやサンプルを持参して顧客を訪問し、高級布団の購入を薦め、成約に至らせるというものであること、(ウ)同被告の顧客は、三重県、愛知県、静岡県、千葉県等広域にわたり、同被告は、自ら自動車を運転して顧客宅等へ赴き、上記のような営業活動を行っていたこと、(エ)同被告は、平成11年ころから、経費控除前の売上高を実績よりも低い年間約600万円としていわゆる白色申告をしていたことが認められ、上記事実によれば、同被告の休業損害の算定に当たり、基礎収入は、賃金センサス平成16年度第1巻第1表産業計男性労働者学歴計平均年収542万7,000円をもって相当と認める。
イ 上記(1)及びアにおいて認定した事実、証拠(略)によれば、(ア)被告甲野太郎は、本件事故による受傷により、営業活動に不可欠な自動車の運転ができなくなったため、委託元の会社がつけた運転手に付き添われつつ仕事をすることになったものの、本件事故後、平成16年2月中から同年4月にかけてはほとんど稼働できず、実際の売上高も前年等に比してかなり低いものにとどまったこと、(イ)同被告は、同年5月ころから同年7月上旬ころは時的に体調が回復して稼働できるようになり、その時期は売上高も1か月当たり1,500万円を超えていたこと、(ウ)同被告は、同年8月以降は、激しい頭痛等により再び稼働に支障を来すようになり、売上高も大幅に下落し、同年10月4日以降は全く稼働できなくなったこと、(エ)同被告は、遅くとも平成17年6月11日には再度稼働し始め、当時はいまだかなり疲れが残る状態であったものの、同年7月末には治ゆの診断を受け、本件事故前とほぼ同様に稼働するようになったこと、(オ)同被告は、本件事故前は、月曜日から土曜日まで毎日午前7時ころから午後8時ころまで稼働し、1日に三、四軒の顧客を訪問していたところ、本件事故後は、おしなべて、一、二日おきに休み、顧客訪問も一日当たり1軒程度しかできなくなったことが認められる。
以上の事実に照らすと、原告の主張する休業期間の労働能力について、平成16年2月22日から2か月間は平均して80%の喪失、その後3か月間は労働能力の喪失が見られず、次の2か月間は50%の喪失、同年10月から8か月間(平成17年5月まで)は100%の喪失と認める。したがって、休業損害は、下記計算式により、479万3,850円となる。
(計算式)(542万7,000円
12か月)×(0.8×2か月+0.5×2か月+8か月)=479万3,850円