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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

聴覚障害者の交通事故による”手話”能力減少

○自賠責保険後遺障害等級には、言語機能障害の等級は記載されています。重い順に以下の通りです。
第3級第3号;言語の機能を廃したもの
第4級第2号;咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
第6級第2号;咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
第9級第6号;咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
第10級第3号;咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの

言語機能障害とは次の4種の音のうち2種の発音不能のものを「著しい障害」、1種の発音不能のものを「障害」と言います。
a口唇音(ま・ぱ・ば・わ行音、ふ)
b歯舌音(な・た・だ・ら・さ・ざ行音、しゅ、し、じゅ)
c口蓋音(か・が・や行音、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)
d喉頭音(は行音)

○普通の人は声をコミュニケーション手段としますが、重い聴覚障害の方は、声を聞き取れないため手話をコミュニケーション手段とします。私も聴覚障害者ですが、幸い、補聴器で軽度難聴者程度に回復して普通の会話は可能なため手話は利用しておらず、現時点では手話は全く使えません。ただみやぎ難聴協会の役員をしており、役員会では手話も飛び交い、手話の必要性は感じているところです。障害者の私は団体役員には原則ならないのですが、難聴協会だけは「何しろ障害者なものですから」と言う言い訳がきかず、やむを得ずやっております。

○Aさんは、交通事故による右肋骨骨折等の傷害で1年8ヶ月入通院して右肩関節機能障害等で併合11級の後遺障害認定を受けました。Aさんは聴覚障害者でコミュニケーション手段は、手話であったところ、肩や手の運動障害等により手話による言語能力が著しく減退し、前記言語機能障害で言えば、第6級2号に該当すると主張して総額2622万円の損害賠償請求をしました。

○これに対し平成21年11月25日名古屋地裁判決(判例時報2071号71頁)は、Aさんの手話は
@分かりにくくなったと言われる
A単語に表現できにくいものがある
B1時間ほど手話をすると疲れが出てくる
などから第10級の機能障害まではいかないが、第12級程度の14%程度失われたとは認められるとしました。自賠責保険後遺障害等級表にはない、手話の不自由について後遺障害を認めた点は評価できます。

○しかし肝心の損害賠償金額については、手話能力の減少に12級を認めておきながら、併合11級の等級には変わりはないと判断し、休業損害、逸失利益等総額1221万円しか認めてくれませんでした。Aさんの自賠責保険認定後遺障害は、右肩関節機能障害(12級6号)、右鎖骨変形傷害(12級5号)、左手関節神経障害(14級)の併合11級でしたが、更に手話能力の減少での12級後遺障害を認めながら、加重を認めないのは、9〜13級が複数ある場合、最も重い等級を1級繰り上げるとの自賠責保険基準に従ったものと思われます。しかし自賠責基準はあくまで自賠責基準でしかなく司法判断を拘束するものではありません。もう少し柔軟に考えて頂けないものかと思った次第です。