○当事務所では現在20数件の交通事故案件を抱えており、いずれも、後遺障害等級に或いは過失割合に、或いは労働能力喪失率等に激しい争いのある難しい案件です。その中に脳脊髄液減少症による後遺障害を主張する案件も5件ほどあり、保険会社はその存在を認めず激しく争っています。脳脊髄液減少症による後遺障害は、現時点では、なかなか裁判実務では認められて居ないのが現状です。
○脳脊髄液減少症の場合の治療方法はブラッドパッチ療法ですが、この療法を受けても、症状がスッキリ改善する例はありません。数回受けても、僅かに改善されたと言う程度の例が多く、また殆ど改善されないと言う例もあり、交通事故による脳脊髄液減少症否定派の医者が、それみたことか、脳脊髄液減少症によるブラッドパッチ療法なんてまやかしだと厳しく糾弾するところです。
○しかし、日々、交通事故による頚椎症候群の一つとして、激しい頭痛・めまい等に苦しむ被害者の方々にとっては、少しでもこの苦しい症状を改善したいと、正に溺れる者は藁をもつかむの心境で、ブラッドパッチ療法に挑み、苦しい状況がホンの少しでも改善されれば有り難いと思うのは当然です。また交通事故で衝撃を受けた後にかような症状が現れれば、それは交通事故を原因として生じたと思うのも当然です。
○残念ながら、脳脊髄液減少症と言う病名では、なかなか交通事故による後遺障害と認めてくれない裁判実務状況にあるため、私はこの病名を強調せず、
「H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決解説2−衝撃と傷害程度内容」に記載した判決「
本件事故により脊椎髄液漏が生じたとはいえない。とはいえ,被控訴人にその主張のような症状が持続していることは確かであり,本件事故前から,被控訴人にそのような症状があったとか,それにより治療を受けていたということは認められないから,上記症状は本件事故により生じた頚椎捻挫(外傷性頚部症候群)によるものと認めるのが相当」との論理に従い、外傷性頸部症候群の一つであることを強調しています。
○ところが、平成22年3月26日NHKニュースによると、これまで頑固に交通事故による脳脊髄液減少症を脳脊髄液減少症について否定してきた
日本脳神経外傷学会が、事故の後遺症としてきわめてまれだが起きると認めたとのことです。この「極めて希」に該当する要件が重要ですが、現時点ではそのデータを入手できません。入手次第、備忘録に残したいところですが。
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脳せき髄液減少症 学会が認定
平成22年3月6日 19時20分
交通事故などの衝撃で脳の周りの髄液が漏れ出し、激しい頭痛などが起きるとされる「脳せき髄液減少症」は、これまで病気の存在自体が専門家の間で疑問視され、健康保険も適用されていませんが、専門の医師が集まる学会として初めて、日本脳神経外傷学会が、事故の後遺症としてきわめてまれだが起きると認め、今後の患者の救済に影響を与えそうです。
「脳せき髄液減少症」は、交通事故などの衝撃で脳やせき髄の周りを満たす髄液が漏れ出し、激しい頭痛やめまいなどが起きるとされるもので、患者の治療に取り組む医師の団体が10万人を超える患者がいると訴える一方、専門家の間では、軽度の事故では髄液は漏れないとして病気の存在自体が疑問視されてきました。ところが、日本脳神経外傷学会が各地の病院から患者23人のデータを取り寄せ検討したところ、4人については、▽事故から数日で激しい頭痛を感じていることや、▽画像から髄液の漏れが確認できたとして、学会として初めて事故の後遺症だと認定しました。その一方、残りの19人については、髄液が漏れているとされた部分を調べても異常がなく、別の原因が疑われるとしています。学会では、今回の結果から、患者数はこれまで言われていた10万人以上より大幅に少ないとみられるとしていますが、事故の後遺症と認められず苦しむ患者も多いなかで、健康保険の適用など今後の救済のあり方に影響を与えそうです。