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「交通事故と胸郭出口症候群」に胸郭出口症候群の概要を記載しましたが、この胸郭出口症候群と交通事故の因果関係を認めた判例を紹介します。
・平成19年12月18日東京地裁(
自動車保険ジャーナル・第1743号、平成16年(ワ)第20541号損害賠償請求事件)
@歩行横断中の36歳女子がタクシーに衝突され、頸椎捻挫等から胸郭出口症候群が発症したとする事案につき、検査方法の1つであるライトテストでは左手が陽性、事故後発症等の医学所見等から、原告の胸郭出口症候群の「疾患は、本件事故によって生じた」と因果関係を認めた。
A原告の胸郭出口症候群による「利き腕である左手」の倦怠感を12級12号で認定、和裁専門学校を卒業も、収入金額の関係で派遣社員として給仕の仕事をしている原告の収入をセンサス女子全年齢平均の8割とし、10年間14%の労働能力喪失により後遺障害逸失利益を認定した。
B原告は、胸郭出口症候群を発症する人に多く見られるなで肩体型であるが、これを素因、既往症として「認めるに足りる証拠はない」とした。
・平成17年8月30日名古屋地裁(
自動車保険ジャーナル・第1623号、平成13年(ワ)第5236号 損害賠償請求事件)
@原付自転車を運転中、一時停止道路から進入した乗用車と衝突、転倒し、約4年後RSD(CPRS)等で右上肢全廃5級6号等併合4級を残したとする23歳男子大学生につき、鑑定医の鑑定、主治医の診断等「右上肢はかなりの範囲で使用可能であることが認められる」等から睡眠時検査等RSD(CPRS)発症の主張は「証拠が不十分で」「認めるに足りる証拠はない」とした。
A原告に胸郭出口症候群の発症は認められ、「他覚的所見あり」として、原告の右上肢は12級12号と認定した。
B障害者枠で就労後、一般就労の就職も決まっており、就労すればうつ傾向等は10年後には、「改善される蓋然性が高い」と10年間14%の労働能力喪失を認めた。
・平成4年6月18日大阪地裁(交民集25巻3号693頁、昭和63年(ワ)第3736号損害賠償反訴請求事件)
外傷性頸椎症、腰部捻挫、両上肢不全麻痺及び胸郭出口症候群等の傷害で12級12号相当の後遺障害を残す45歳男子、タクシー運転手兼アルバイト収入を得る者の事案で、センサス男子同年齢平均を基礎に22年間14%の喪失率で逸失利益を認めた。
・平成16年12月21日東京地裁(交民集37巻6号1695頁、平成14年(ワ)第19417号損害賠償請求事件)
@青信号の横断歩道を横断中の原告自転車と普通貨物車が衝突した事案につき、先行トラックの陰で対面信号が見えないにもかかわらず交差点に進入、信号が赤であることに気付いた後も被告車両を走行させ、原告自転車の発見が遅れた被告の過失は重大であるが、被告車両を認識していた原告がその動静を注視していれば、事故は避けられたと原告に5%の過失相殺を適用した。
A外傷性胸郭出口症候群を発症、症状固定後も週に1度の神経ブロック注射が必要との診断を受けた原告の将来の治療につき、事故の補償問題からくる心理的負荷等の影響も考えられ、治療を長期的に継続することの必要性・相当性に関する医師の確たる所見も提出されてないこと等を考慮し、症状固定から約3年の治療を事故と相当因果関係があると認めた。
B12級10号外傷性胸郭出口症候群を残した症状固定時25歳女子大学生の後遺障害逸失利益につき、原告の神経症状については心因的な影響があると、労働能力喪失率14%、喪失期間15年で算定した。
C事故に遭ったため2年留年した症状固定時25歳女子大学生に、就職遅延による損害をセンサス女性大卒20〜24歳の平均年収を基礎収入として2年分604万円を認めた。
D12級10号外傷性胸郭出口症候群の後遺障害のため、2階から1階に転居する必要性が生じたことにつき、従前より賃料の高いアパートを借り、部屋が広くなり、その利益を享受している一方、新たなアパートの賃料も低額で6社に見積りしたうちの最も安いアパートを借りていること等考慮し、賃料差額の7割を相当因果関係のある損害と認めた。