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「H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決解説3−損害額の認定」に続いて、裁判所の判断について、便宜上、H17.2.22福岡地裁行橋支部脳脊髄液減少症初認容判決を認容判決、H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決を否定判決と呼んで説明します。今回は休業損害について検討します。
○原告は、一審の認容判決では
オ 休業損害 560万6,640円
原告は、本件事故の前、母親の看病をしていたものである。
本件事故以前、母親の看病をしていたところ、平成15年2月9日から平成16年9月15日までは仕事もできない状態であったので、この間の休業補償が相当である
と主張していましたが、認容判決では、僅か金35万4767円しか認められませんでした。
認容判決での休業損害認定の理由は、
証拠(甲8、原告本人)によると、原告は、大学を卒業し、平成10年4月から半年ほど就労したが、母の看病をするため、仕事を辞め、それからは、自宅で一日中母親の面倒を見ながら家事に従事する生活を続けていたこと、本件事故により、原告は、母の看病がほとんどできなくなったこと、母親は平成15年4月2日に死亡したことが認められる。
以上によると、原告は、母が死亡するまでの間、母親と同居して家事労働に従事していたことが認められるが、上記事実によると、本件事故により、その労働能力の70%の制約があったと認められるから、平成15年の賃金センサス女子労働者全年齢平均の年間賃金額である349万0300円を基礎とし、平成15年2月9日から同年4月2日まで、35万4767円を、休業損害として認める。
なお、原告の母が死亡した以降については、原告が、他人のために家事に従事していたことを認める証拠がないから、休業損害は認められない。
と、事故日の翌日2月9日から同居の母死亡日4月2日まで53日間の平成15年の賃金センサス女子労働者全年齢平均の年間賃金額の70%相当額を休業損害と認定し、母死去後の休業損害は「他人のために家事に従事していたことを認める証拠がない」としてゼロ査定でした。
○これに対し、二審では、
(オ) 休業損害 559万4042円
と主張し、
否定判決では、
(5) 休業損害
ア 証拠(甲8,原審での被控訴人)によると,被控訴人(生年月日省略)は,大学を卒業して平成10年4月から半年ほど就労したが,母親の介護をするため,仕事を辞め,それからは,自宅で一日中母親の面倒を見ながら家事に従事する生活を続けていたこと,本件事故により,被控訴人は,母親の世話がほとんどできなくなったこと,母親は平成15年4月2日に死亡したこと,被控訴人はその後も就職していないこと,以上の事実が認められる。
イ 上記のとおり,被控訴人は,本件事故に遭うまでの間,母親の介護をしながら家事労働に従事していたのであり,以前は就職していたことでもあるから,母親が死亡してその介護から解放されるならば,改めて就労する意思と能力はあったものであって,上記休業期間においても就労する蓋然性はあったものということができる。しかるに,本件事故を機に,それが不可能になったというのであるから,その間の休業損害が発生していることになる。
ところで,被控訴人は,上記事実によると,母親の生存中は,本件事故により,母親の介護など家事労働の労働能力の50%の制約があったと考えるべきであり,その後の期間は昨今の就職事情から短期間に適当な就職先が確保できたかは疑問もあるので,その期間の休業損害については,平均賃金の70%の範囲で,これを損害と認めるのが相当である。その計算の基礎に,平成15年の賃金センサス女子労働者全年齢平均の年間賃金額である349万0300円を用いて算出すると,平成15年2月9日から母親が死亡した同年4月2日までの53日分が25万3405円(円未満切り捨て,以下同じ),その後の分が356万1061円(1年と167日分)で,合計381万4466円となる。
と認定しています。
平成15年の賃金センサス女子労働者全年齢平均の年間賃金額を算定基準として、実母同居中の53日間については50%相当額、実母死去後も1年と167日分(約17ヶ月分)について70%相当額を休業損害として認め、認定額は一審認容判決の10倍以上の381万4466円に膨れ上がりました。この母死去後の約17ヶ月分もの長期間休業損害を認定してくれたのは、平均賃金の70%としても被害者にとっては有り難い認定です。通算入院期間が3ヶ月強ありますが、なかなかこれほど長期の休業損害期間を認定してくれませんので、これは被害者側にとっては使える判例です。