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交通事故重要判例

H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決全文紹介2

「H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決全文紹介1」の続きです。今回は、 「争点(1)被控訴人が本件事故により受傷したかどうか。特に,被控訴人に外傷性脊椎髄液漏,低髄液症候群の症状があるかどうか,これがあるとして,それは本件事故によるものであるか。」即ち「追突による衝撃の程度」、「追突による傷害の程度」についての裁判所の判断です。ポイント部分に下線を引きました。

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第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 本件事故の状況
 証拠(甲8,乙2,原審での被控訴人,控訴人gのほか,各項の末尾に掲記した証拠)によると,以下の事実が認められる。
ア 本件事故直後,被控訴人と控訴人gは,事故の有無,程度について言い争いとなり,2人で最寄りの派出所に行き,被控訴人において,控訴人車両に追突されたとして,本件事故の届出をした。(甲1)

イ その後,平成15年2月13日,本件事故現場で,被控訴人と控訴人gが立ち会って実況見分が行われた。その実況見分調書には,両車両が衝突したこと,両車両はそのままの位置で停止したことなどが記載されている。(乙1)

ウ 本件事故について,被控訴人は,衝突により,被控訴人車両が前に押し出されて,両車両の間隔が40センチメートル程度開いた状態で停止したが,被控訴人も後ろから上半身を押される感じで,身体が前後に振られたなどと陳述する。これに対し,控訴人gは,被控訴人車両が赤信号で停止したのに続いて,その2.4メートル程度後ろに控訴人車両を停車させたが,レシートを見ているうち,足がブレーキペダルから外れて控訴人車両が前進し始めたので,慌ててブレーキを踏んだところ,被控訴人車両に追突する間際で停止したなどと主張していたが,その後,追突したことは認めるに至った。

(2) 本件事故による衝撃の程度及びそれによる被控訴人の受傷の可能性
ア 本件事故については目撃者もなく,上記のような両当事者の対立する供述等があるのみであるから,本件事故による衝撃の程度を確実に認定することは甚だ困難である。

イ ただ,本件事故は,被控訴人車両に続いて,その2.4メートル程度後ろに一旦停止した控訴人車両が,控訴人gの足がブレーキペダルから外れたため再び前進し始め,これに気付いた同控訴人において慌ててブレーキをかけたものの,及ばず追突したというものであることからすれば,控訴人車両の初速度は極めて低速であり,また,追突までに進行した距離もたかだか2.4メートル程度ということになるから,控訴人車両の追突時のスピードも低速であったと見てよい。

したがって,控訴人車両の追突時の運動エネルギー(衝突力)もかなり小さかったものということができる。また,控訴人車両のバンパーが弾力性のあるものであることを考慮に入れても,同バンパーに衝突の痕跡がなく,被控訴人車両の後部バンパーの疵も比較的軽微であることも,本件事故による衝撃がそれ程大きくなかったことを裏付けるものである。

ウ もっとも,被控訴人はサイドブレーキを引いていなかったというのであるから,いきなり追突されれば,それがそれ程大きな力ではなくても,その弾みでブレーキペダルから足が外れ,車両が前に押し出されるということは十分あり得るものといわなければならない。そうであれば,被控訴人がそれなりの衝撃を受け,それにより頚部等に傷害を負うということも考えられることである。
 したがって,本件事故による衝撃の程度が小さいから人体に被害が及ぶことはないとする控訴人らの主張は,採用の限りではない。

(3) 本件事故後の被控訴人の受診状況と診断結果
ア 証拠(甲4,8,113,原審での被控訴人,及び各項の末尾に掲記)によると,以下の事実が認められる。
(ア) 被控訴人は,本件事故の翌日である平成15年2月9日に首や背中の痛みが現れ,その翌日である同月10日に痛みが猛烈に激しくなったとして,i病院の救急外来を受診した。
 被控訴人は,土曜(8日)の夜から左肩が痛い,停車中に追突された,シートベルトはしていた,吐き気はないなどと説明し,首,背中が痛いと訴え,頚椎捻挫,左肩打撲及び胸部打撲と診断された。
 その後,同年3月17日まで,同病院に通院し,同年2月13日には,約7日間の安静加療を要すると思われるとの診断がされたが,神経学的所見は認められず,頚部MRI所見でも器質的異常は確認されなかった。
 しかし,被控訴人には,不定愁訴が多く見られたため,対症的にリハビリ加療が続けられた。
 (甲71,73,乙14(各証))

(イ) 被控訴人は,同年3月24日から,自宅に近いj医院に通院するようになり,頚椎捻挫と診断されたが,n医師は,被控訴人に検査で異常はないものの,後頚部痛に加えて下肢がビリビリし,吐き気や両眼のチカチカ感があるところから,低髄液圧症候群の可能性が考えられるとして,同年4月10日に,k病院のl医師に紹介状を書いた(甲74ないし76,80,乙19)。

(ウ) 被控訴人は,同年4月16日に,k病院を受診し,本件事故からの経緯や自分の多様な痛みその他の症状を説明し,l医師の勧めで,脳MRIを受診したところ,その画像で脳沈下の可能性があると診断され,脊椎髄液漏の疑いがあるとして,入院してRI脳槽造影を行うことになった。同年6月2日に入院し,同月3,4日に同造影が実施されたが,その結果,注入したアイソトープが早期に膀胱に到達し,腰椎レベルでもやもやした画像が出,さらに24時間後のアイソトープの残量が著しく少ないこと(なお,この点は,その後の同検査の結果と大きく相違する。)が判明し,l医師は,これらの所見から,被控訴人を脊椎髄液漏と診断した。被控訴人に対しては,その治療としてブラッドパッチ療法が試みられた(ただし,被控訴人に,その際,造影剤による副作用が出たため,途中で中止された。)が,症状はあまり改善しなかった。

 その後,被控訴人は,同年7月11日に,気分不良などを訴えて,同病院に再度入院した。さらに同年12月1日に3回目の入院をしたが,その際,被控訴人は,体のむくみや尿が出ないことを訴えており,RI脳槽造影などを行ったところ,脊椎髄液漏の所見は見出せず,脳MRIでも病的所見はなかった。ただ,l医師は,これは髄液漏がないのではなく,検出が難しい,胸椎,頚椎レベルでの漏れだしの可能性はあると考え,被控訴人に「すべてが”水もれ”のためではなく,頚椎捻挫の一部ですぐ症状がとれるわけではない」と説明した。この際は,ブラッドパッチ療法(前同様,途中で中止)や別の治療が試みられたりししたものの,はかばかしくなかった。

 また,被控訴人は,平成16年7月14日から,同病院に4回目の入院をしたが,この際のRI脳槽造影などでも異常な所見はなく,ブラッドパッチ療法を実施したものの,被控訴人が足や耳の痛みを訴えたためやはり途中で中止した。
 (甲3,17,78,乙17,22,28,当審証人l)。

(エ) 一方,被控訴人は,平成15年8月25日から,頚椎の専門医であるm医院に通院している(甲11,弁論の全趣旨)。
 被控訴人は,これ以外にも,m医院の紹介によりoカイロプラクティック,及びpカイロプラティックに通院した他,漢方の治療を受けるためq病院に通院し,他にも,自分の判断や人に勧められてr鍼灸院,s治療院などに通院し,現在も通院治療を継続している(乙25,弁論の全趣旨)。

イ 以上の受診状況及び診断結果並びに追突事故の場合の通例(経験則)に照らせば,被控訴人が本件事故により頚椎捻挫ないしは外傷性頚部症候群の傷害を負ったことが認められる。控訴人らはこの点をも極力否定するが,同主張は採用できない。