交通事故による傷害が元でうつ病となり自殺した場合
○交通事故の被害者が、重篤な後遺障害が残るなどして、うつ病に罹患して自殺した場合、加害運転者等に対し、死亡による損害賠償を請求することができるかどうかについて、否定説(最二判S50.10.3、東京高判S51.2.25など)と、肯定説(最一判S63.4.21、東京高判H5.5.31など)が対立していましたが、最高裁平成5年9月9日判決(判時1477号42頁)が交通事故と被害者の自殺との間に因果関係を認めた上、自殺についての被害者の心因的要因の寄与により損害賠償額を減額するという法理を打ち出し一応の決着を見ました。
○この最高裁判決概要は、「交通事故により受傷した被害者が自殺した場合において、その傷害が身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかつたとしても、右事故の態様が加害者の一方的過失によるものであつて被害者に大きな精神的衝撃を与え、その衝撃が長い年月にわたつて残るようなものであつたこと、その後の補償交渉が円滑に進行しなかつたことなどが原因となつて、被害者が、災害神経症状態に陥り、その状態から抜け出せないままうつ病になり、その改善をみないまま自殺に至つたなど判示の事実関係の下では、右事故と被害者の自殺との間に相当因果関係がある」となってます。
○この判決で注目すべきは「その傷害が身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかつたとしても」と言う点です。重大な器質的障害がなくても、事故の態様、補償交渉の難航等と精神疾患であるうつ病との因果関係が認められればそのうつ病による自殺は事故と因果関係が認められるものですが、正にケースバイケースとなります。
○名古屋高裁平成18年4月7日判決(判例時報1936号84頁)では、平成12年11月11日、交通事故に遭い、頸髄損傷の重傷を負い、平成14年5月14日、自賠責後遺障害等級3級3号に該当する後遺障害を残して症状が固定したが、不眠、頭痛が続き、同年12月6日、自殺を図って死亡した被害者の遺族が加害運転者に対し、被害者の自殺は交通事故に起因するとして損害賠償請求をしましたが、被害者自身の要因の寄与割合は5割として5割減額した損害賠償額が認められました。
○被害者自身の要因としては、頸椎症性頸髄症に起因する脊柱管狭窄、比較的軽度の外力でも脊髄損傷に至ることもあり得ること、また、その他糖尿病等の諸要因、主治医から手術を再三勧めらていた狭心症など交通事故以外の原因での病気があったようです。判決はこれらの病気の自殺への寄与度を丁寧に考察していますが、代理人弁護士も医学的観点からの主張が大変だったと思われます。