○平成18年8月24日更新情報「仙台開催中
人体の不思議展と司法解剖立会思い出1」の続編です。30年近く前の記憶ですので不正確であることをお断りした上で解剖の様子を記述します。
○アイスピックで胸をひと突きされた遺体の解剖は、先ず身体の表面の外傷の有無を丹念に調べて外傷としては胸の乳首の脇に僅か直径5o程度の赤い斑点があることを確認し身体各部を写真撮影しました。
○その上で腹部から胸部にメスが入ります。メスの切れ味の良さに感嘆しましたが、胸部の左右の肋骨が集まる胸骨体の下部から上部にかけては大きなハサミで切り裂き、更に左右の肋骨の身体の横部分を切り裂いて左右の肋骨を取り出して胸部を開けると肺や心臓の周辺に大量の血溜まりがありました。
○アイスピックが心臓に到達して心臓の端部分を僅かに損傷しそこから大量の出血があり、これが肺を圧迫して死に至ったことが判りました。表面上は僅か5o程度の赤い斑点も内部では心臓を損傷し、それが死因となっていたもので、解剖しないと判らないものでした。
○解剖作業は数時間かけて行われ、解剖執刀医はまるでマグロを捌くが如く人間の身体の各種臓器を手際よく切り離し、胃は内容物を取り出して重さを計るなどして、小腸、大腸等内臓の状況を全てチェックし、琺瑯の大きなバットに置き、更に必要臓器はホルマリン容器に入れ、胸や腹の体腔部分は空になりました。
○更に頭蓋骨も眉部分当たりから上の部分をヘルメットを脱ぐようにスッポリ切り抜いて、脳を取り出し重さを量る等チェックしてホルマリン容器に入れます。全ての臓器のチェックと記録が終わると、保管不要な臓器は無造作に空になった体腔部分に戻されます。
○臓器の一部が保管されて戻されないため不足した部分には丸めた新聞紙をいれて身体の形状を整えた上で開いた頸部から股間までの皮膚を縫合します。また開いた頭部も脳を取り出して空になった部分にも丸めた新聞紙をいれて形状を整えた上で外した頭蓋骨をスッポリかぶせて皮膚を縫合します。これで外形上は解剖前と殆ど変わらない元の状態に復元しました。
○熟練した解剖執刀医の手際の良さに感心しながら見ていましたが、一番閉口したのは強烈な匂いでした。内臓を切り開いたとき強烈な腐敗臭が解剖室全体に充満しますが、時間の経過に連れて臭覚が麻痺して腐敗臭にも慣れて来ました。しかし爪の間に腐敗臭が染み込み、解剖立会後しばらく匂いが残ったのには閉口しました。
○「
人体の不思議展」
全192頁の公式ガイドブックを購入して写真となった各人体標本を見ていますが、先にお薦めした人体解剖学参考書の
「人体解剖ビジュアル」に掲載されたイラストによる解剖図より、遙かにリアルで迫力があります。「
人体の不思議展」は実際の人体を使っているので当然のことですが、今後は
「人体解剖ビジュアル」と「
人体の不思議展」公式ガイドブックを併用して解剖学の基礎を勉強していこうと思った次第です。