○昭和49年に示談代行サービス付き自動車保険が発売になりましたが、日弁連と損保協会との間でこの保険発売と引換に交通事故裁定委員会の設立も合意され、昭和49年2月27日、委員長加藤一郎東京大学教授、裁定委員に須藤静一日弁連センター専任副会長、長谷部茂吉元東京地裁所長が就任して、交通事故裁定委員会が業務を開始しました。
○この裁定委員会は昭和53年3月15日
財団法人交通事故紛争処理センター(紛セ)に引き継がれましたが、その業務内容は概ね以下の通りです。
・交通事故の被害者、加害者、保険会社の申立に応じて1名の嘱託弁護士が先ず相談に応じます。
・利用者は予め予約が必要で、私が
財団法人交通事故紛争処理センターの嘱託弁護士をしていた平成2年当時も予約から相談まで2ヶ月、3ヶ月先がざらで相当混んでいました。
・相談時間は1期日1時間です。
・第1回期日では、相談者が被害者の場合、嘱託弁護士は被害者に対し請求額積算方法等アドバイスして、本人の請求内容を確認し、これを加害者側保険会社に送付して第2回期日に回答を持参するよう要請します。
・第2回期日には加害者側保険会社の回答を聞き、被害者・加害者側保険会社の主張が出そろった段階で嘱託弁護士は主張の不明点等を双方に確認した上、中立・公正な立場で斡旋案を出し、第3回期日までの検討を双方に要請します。
・この斡旋で示談が成立したときは嘱託弁護士が示談書を作成し当事者双方と立会人嘱託弁護士が署名押印して示談書を完成させ一件落着となります。
・斡旋による合意ができない場合、当事者のどちらかの申立があれば事件は審査に付されます。
・審査では3名以上の審査員の合議によって賠償金額を定め、被害者側が審査を受諾すると保険会社はこれに従う義務があり、被害者側が受諾しない場合は審査は不調打ち切りになります。
○以上のように紛セでの斡旋は早くて3〜5期日で結論が出て訴訟よりはずっと早く事件を解決でき、且つ、利用料金は全くかからず訴訟に比較して簡易・迅速な交通事故紛争解決手続になっており、その利用者は多く、私が嘱託弁護士として在籍していた平成2年から6年までの4年間も紛セ仙台支部は大いに繁盛していました。
○私は2期4年間紛セの嘱託弁護士をしてその間400件程度の交通事故事件を処理し、又定期的に紛セでの事例研究会に参加し、これらによって交通事故事件に関心を持ちその深さ、広さ、難しさも体感できました。しかし、示談代行付き保険発売によって交通事故事件の多くは弁護士への相談・依頼が閉ざされ、その結果交通事故事件に関心のない弁護士も増えました。
○たまに弁護士に交通事故事件相談があっても安易に本人による紛セ利用を薦める例も多くなり、益々弁護士の交通事故事件関与が小さくなっている事情を知り、弁護士への交通事故事件回帰の必要性も実感しました。