○「
高齢者死亡事故の自賠責支払基準による保険金額例」でご説明したとおり、普通の年金生活をしている70歳を超えた高齢者の死亡事故の場合、自賠責保険金は1000万円台止まりで2000万円に達することは先ずありません。
○その理由は先ず逸失利益について就労可能年数が55歳未満の場合67歳との差額の期間、55歳以上平均余命の2分の1の期間とされており、70歳を超えると就労可能年数は7年以下と短くなり、更に70歳を超えた方の殆どは年金暮らしで収入が低く、逸失利益算定基準となる金額が低くなり、55歳以下の方に比較すると逸失利益が遙かに小さくなるからです。
○次に自賠責保険の慰謝料基準が、死亡者本人に350万円、慰謝料請求が出来る父母、配偶者、子が一人しかいない場合は550万円で合計900万円にしかなりません。これに対し、裁判例を基準にして算定する日弁連青本20訂版では
一家の支柱の場合 2600〜3000万円
支柱に準ずる場合 2300〜2600万円
その他の場合 2000〜2400万円
となっており2倍以上の差があります。
○死亡慰謝料についての近時の裁判例は高齢者でも高額化傾向があり、81歳の無職女性で本人に2000万円、息子に350万円の合計2350万円を認めた例(岡山地判平成12.4.6)、76歳男性で本人に2000万円妻200万円、子3人に計201万円の合計2401万円を認めた例(名古屋地判平成17.1.14)、91歳女性で2300万円を認めた例(大阪地判平成16.5.17)等があり自賠責保険基準とは顕著な差を示しています。
○このように70歳以上の高齢者の自賠責保険での死亡保険金は、逸失利益と特に慰謝料金額が裁判基準と比較して著しく低額であるため裁判となった場合に認められる金額より相当少なく殆どの場合1000万円台に留まっており、死亡保険金支払限度額3000万円に達しません。
○「
高齢者死亡事故の自賠責支払基準による保険金額例」でのAさんの遺族に支払われる自賠責保険金は合計1841万円でしたが、任意保険会社はこれに100万円程度色づけをした切りの良い金額の2000万円程度を提案してくるのが普通です。高齢者死亡事故の場合任意保険会社は殆ど自賠責保険金でまかない自社からの支払を最小限に止めようとするからです。
○ですから任意保険会社としては先ず自賠責保険も支払を強制される判決を得ない限り自賠責保険金額を大幅に上回る支払案は出しませんので裁判基準に従った適正な損害賠償金額を取得するためには訴えを提起せざるを得なくなります。