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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

判例紹介

平成16年11月18日 最高裁判決(男女関係解消と慰謝料)1

判例 平成16年11月18日 第一小法廷判決 平成15年(受)第1943号 損害賠償請求事件
要旨:
婚姻外の男女の関係を一方的に解消したことにつき不法行為責任が否定された事例
内容:  件名 損害賠償請求事件 (最高裁判所 平成15年(受)第1943号 平成16年11月18日 第一小法廷判決 破棄自判)
原審 東京高等裁判所 (平成15年(ネ)第583号)

主    文
       原判決のうち上告人敗訴部分を破棄する。
       前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         
理    由
 上告人の上告受理申立て理由5及び6について
 1 原審が適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人と被上告人とは,被上告人が大学4年生であった昭和60年11月に結婚相談所を通じて知り合い,その1か月後には婚約し,翌年3月に入籍の予定であったが,同月ころ,婚約を解消した。上告人と被上告人は,上記婚約を解消するに際し,結婚する旨の報告をしていた関係者に対し,連名で婚約を解消する旨の書状を発送したが,その書状には,「お互いにとって大切な人であることにはかわりはないため,スープの冷めないぐらいの近距離に住み,特別の他人として,親交を深めることに決めました」との記載がある。

 (2) 上告人は,昭和61年4月15日ころ,東京都a区内の被上告人の家の近くに引っ越して来て,双方が互いの家を行き来するようになった。そして,平成2年4月に上告人が東京都b市の自宅に転居してからも,上告人が被上告人宅に泊まって被上告人宅から出勤するということもあった。もっとも,上告人と被上告人とは,その住居は飽くまでも別々であって同居をしたことはなく,合鍵を持ち合うことも,上告人が被上告人宅に泊まったときに一緒に食事をすることもなく,また,生計も全く別で,それぞれが自己の生計の維持管理をしており,共有する財産もなかった

 (3) 被上告人は出産には消極的であったが,上告人が子供を持つことを強く望んだため,両者の間で,上告人が出産に関する費用及び子供の養育について全面的に責任を持つという約束をした上で,被上告人は,平成元年6月6日,上告人との間の長女を出産した。上告人と被上告人は,長女の出産に際しては,子供が法律上不利益を受けることがないようにとの配慮等から,その出生の日に婚姻の届出をし,同年9月26日に協議離婚の届出をした。また,被上告人は,上記の約束に基づき,妊娠及び出産の際の通院費,医療関係費及び雑費等を上告人に請求して受領したほか,上告人の親から出産費用等として約650万円を受け取った。
 上記の約束に基づき,長女は,出生後,静岡県c市内に住んでいた上告人の母に引き取られ,その下で養育され,被上告人がその養育にかかわることはなかった。その後,長女は,上告人の母と共に東京都b市内に転居し,上告人の母と2人で暮らしている。

 (4) 被上告人は,平成5年2月10日,上告人との間の長男を出産した。長男の出産は,一卵性双生児の一方が出産後間もなく死亡するという異常出産で,被上告人自身も一時的に危篤状態に陥り,2か月間入院した。その出産に先立ち,被上告人が,生まれてくる子供の養育の負担により自分の仕事が犠牲にならないようにするため,子供の養育の放棄を要望したことから,上告人と被上告人とは,平成4年11月17日,被上告人及びその家族が出産後の子供の養育についての労力的,経済的な負担等の一切の負担を免れることを上告人は保障すること,被上告人は上告人が決定する子供の養育内容について一切異議を申し立てないこと等の取決めを行い,その取決めを記載した書面に公証人役場において公証人の確定日付を受けた。また,被上告人は,長男の出産の際にも,上告人から相当額の出産費用等を受け取っており,両者は,長女の場合と同様の配慮から,長男の出生の届出をした日(平成5年2月19日)に婚姻の届出をし,同月23日に協議離婚の届出をした。
 長男は,上記取決めに基づき,上告人に引き取られたが,上告人の判断で施設に預けられた。長男は,その施設において養育され,被上告人がその養育にかかわることは全くなかった。その後,後記のとおり,上告人がAと婚姻したことにより,長男は,平成14年3月,上告人らの下に引き取られた。

 (5) 長男の出産の前後において,上告人と被上告人との関係が悪化し,上告人の被上告人に対する暴力行為や,上告人による被上告人宅の玄関ドアの損壊などがあり,出産後,両者は半年間ほど絶交状態にあったが,その後,関係が修復し,上告人が被上告人の原稿の校正を行ったり,被上告人の研究分野に関する資料を送付したり,一緒に旅行をするなどしていた。また,被上告人は,平成8年ころからd大学教育学部の助教授として勤務するようになったが,上告人は,被上告人がd市内にアパートを借りるに当たって連帯保証人となったり,被上告人が同大学で「ジェンダー論」の講義をするに際し,被上告人の求めに応じ,講義資料として自己の戸籍謄本を提供したり,学生にメッセージを寄せるなどの協力をした。

 (6) Aは,大学の通信教育で学びながら,上告人の勤務する百貨店でアルバイトをしていたが,平成12年ころ,上告人と知り合い,思いを寄せるようになった。Aは,上記アルバイトを辞め,別の会社に勤めた後も,上告人との交際を続けた。Aは,平成13年4月30日,上告人宅を訪れ,上告人と話合いをし,上告人と被上告人との間に2人の子供がいることを理解した上で,上告人との結婚を決意した。

 (7) 上告人と被上告人とは,同年5月の連休に,一緒に京都旅行に行くことにしていたが,上告人がこれをキャンセルし,被上告人は1人で旅行に出かけた。同月2日,上告人は,京都旅行から東京に帰ってきた被上告人に対し,東京駅において,今後は今までのような関係を持つことはできない旨等を記載した手紙を手渡すとともに,他の女性と結婚する旨を告げ,被上告人との関係を解消した

 (8) 上告人とAは,同年7月18日,婚姻の届出をした。
 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,上告人が突然かつ一方的に両者の間の「パートナーシップ関係」の解消を通告し,Aと婚姻したことが不法行為に当たると主張して,これによって被上告人が被った精神的損害の賠償を求める事案である。