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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

結婚

同居を命ずる審判申立の相当性を認めて同居命令をした高裁決定紹介

○「同居を命ずる審判申立の相当性を否認し却下した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審平成12年5月22日東京高裁決定(判時1730号30頁、判タ1092号263頁)全文を紹介します。

○同決定では、民法752条は、夫婦の同居は、夫婦共同生活における本質的な義務であり、夫婦関係の実を挙げるために欠くことのできないものであるから、同居を拒否する正当な事由がない限り、夫婦の一方は他の一方に対し、同居の審判を求めることができるととして、本件では別居期間も長期に及んでなく、抗告人と相手方の婚姻関係は回復できない程度に破綻しているともいえないことなどから、相手方において抗告人の肩書住所で抗告人と同居することを拒否する正当な事由があるとは認められないとして、原審を取り消し、同居することを命じました。

○妻(被抗告人)が11歳の子供を連れて別居したことに対し、夫(抗告人)が、同居を求め第一審平成12年3月31日横浜家裁審判家庭裁判月報52巻12号73頁)では却下されていたものが、抗告審決定では同居が命じられました。しかし、妻は「抗告人(夫)と別居しているのは、同居していると不愉快なことが多いからである。不愉快なことというのは、抗告人(夫)が時と場所を考えずに身勝手な発言をしたり、被抗告人の友人関係について何かと干渉したりすることなどである。10年間の結婚生活の中で、何回となく抗告人(夫)に申し入れたが、抗告人(夫)が自己を省みることはなかった。」と主張しています。

○夫に対し、このように感じている妻が、同居命令が出たからと言って素直に同居に応じるとは到底思えません。決定では「被抗告人(妻)は、抗告人(夫)の求める同居に応じた上で、当事者双方が、これまでの自分本位な考えや態度を改め、相手方の心情を思いやりながら協力していくよう努めるべきである。」としていますが、「当事者双方が、これまでの自分本位な考えや態度を改め、相手方の心情を思いやりながら協力」するとは到底思えません。

○この同居命令は、抗告人(夫)には、現実には無理な同居実現の期待を与え、被抗告人(妻)には、国から命令を受けるとの余計なプレッシャーを与えるだけのものです。「逃げられたらお終い」とハッキリ抗告人(夫)に告げた方が、抗告人のためだと思うのですが。

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主   文
1 原審判を取り消す。
2 被抗告人は、抗告人の肩書住所において抗告人と同居せよ。

理   由
第1 本件申立ての趣旨及び理由

 抗告人の本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告申立書」(写し)に記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
 当裁判所は、本件全資料を検討した結果、被抗告人に対し、抗告人の肩書住所地において抗告人と同居するよう命じるのを相当と判断する。その理由は、以下のとおりである。
 本件記録によれば、以下の事実を認めることができる。
1
(1) 抗告人(昭和12年5月7日生)と被抗告人(昭和32年11月18日生)は、昭和63年6月27日に婚姻し、平成元年5月27日に長女春子(以下「春子」という。)をもうけた。

(2) 抗告人と被抗告人は、平成6年9月に被抗告人が数日間家出をしたことを除けば、外面的には平成9年まで特に大きな問題もなく、抗告人の肩書住所で同居していた。しかし、被抗告人は、抗告人の言動(時と場所を考えないで発言すること、被抗告人の友人関係にまで干渉することなど)を嫌悪し、抗告入の身の回りの世話をしようとせず、次第に家庭内で抗告人と会話をしないようになり、時には別居や家出をほのめかすこともあった。

 これに対し、抗告人は、わがままで自己中心的な被抗告人の態度に不満を抱いたが、家庭を崩壊させないため、苦情や不満が出される都度、旅行や実家への帰省をさせるなどして被抗告人をなだめてきた。また、被抗告人は、平成10年にも、8月と12月の2回にわたり数日間家出をしたが、抗告人は、8月の家出の時には、同居を継続する条件として被抗告人に300万円を交付して帰宅させた。

(3) 被抗告人は、平成11年2月19日、春子を連れて抗告人の肩書住所から徒歩10分程度の場所にあるアパート(被抗告人の肩書住所)に転居し、以後今日まで抗告人と別居しているが、抗告人は、被抗告人に対し、生活費として、同年5月までは月額19万円を、同年6月以降は月額10万円(同年9月には、被抗告人の求めに応じ、5万円を追加して支払った。)を送金している。

2 同居に関する抗告人と被抗告人の意見は、概ね以下のとおりである。
(1) 抗告人

ア 婚姻を継続し、被抗告人及び春子と同居したい。春子のためには、少なくとも義務教育が終了するまでは夫婦が同居する必要がある。

イ 被抗告人は、わがままで、自分の思うとおりに生きたいと考えており、抗告人と一緒では自分の望む生活ができないと思って家出したものである。また、被抗告人は、家事をほとんどせず、抗告人の額や腕を引っ掻くなどの暴行を加えて傷を負わせたこともあるし、抗告人の地位や立場を十分理解しようとしない。それに対し、抗告人はこれまで、できる限り被抗告人の言い分を聞き、身勝手な言動を我慢し、経済的にも余裕を与えてきたと思っている。

ウ 抗告人は、今後、自分を抑えてやっていきたいと思っているが、被抗告人も子供のためにわがままをやめなければならない。お互いが自分本位な考えを改めることが必要である。

エ 春子は、抗告人の前では、抗告人を嫌だとか不愉快だとか言っていないが、仮にそのように言っているとすれば、それは被抗告人の影響でそのように言っているのだと思う。被抗告人は、抗告人が春子に対し、親を馬鹿にするようなことを言ってはいけないと注意すると、その傍らで春子に向かって抗告人を無視するよう言うなど、家庭を崩壊させるような言動を採っている。

(2) 被抗告人
ア 抗告人との同居には断固として応じない。離婚でも別居でもどちらでもよいが、抗告人の社会的な立場もあるだろうから、籍だけでも入っていた方がよければ別居でかまわない。しかし、実質的に夫婦として生活することはできないし、抗告人が生活費を渡さないというなら離婚する。

イ 春子が幼稚園のころから家庭内別居の状態になった。食事は用意したが、相手方の衣類の洗濯はしなかったし、最低限度のこと以外は会話をしなかった。家庭内別居の状態になった決定的な原因は、婚姻当初からの抗告人の身勝手な言動である。

ウ 抗告人と別居しているのは、同居していると不愉快なことが多いからである。不愉快なことというのは、抗告人が時と場所を考えずに身勝手な発言をしたり、被抗告人の友人関係について何かと干渉したりすることなどである。10年間の結婚生活の中で、何回となく抗告人に申し入れたが、抗告人が自己を省みることはなかった。

エ 抗告人は、春子にも高圧的な態度で接していた。春子は、そのような抗告人を嫌い、家を出よう、抗告人と一緒にいると具合が悪くなると言ったことから、別居に踏み切った。調停期間中、調停委員の勧めもあって親子3人で何度か食事をしたが、春子はもう抗告人と食事をするのは嫌だと言っており、現在は食事の誘いも断っている。抗告人との食事を楽しいとは全く思っていない。

3 以上の認定を踏まえて検討するに民法752条は、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないと規定しているところ、夫婦の同居は、夫婦共同生活における本質的な義務であり、夫婦関係の実を挙げるために欠くことのできないものであるから、同居を拒否する正当な事由がない限り、夫婦の一方は他の一方に対し、同居の審判を求めることができると解すべきである。

 これを本件についてみるに、被抗告人は、婚姻後、抗告人の言動を嫌悪していたものであり、現時点において抗告人と同居する意思はない旨を明言しているところ、抗告人において自己の言動を反省し、被抗告人の心情を理解しようとする姿勢が欠けていたことは明らかであり、結局、そのことが被抗告人の家出、別居の大きな原因であったということができる。

 しかし、抗告人の側に暴力等の非行は全くなく、被抗告人が嫌悪する抗告人の身勝手な言動というのは抽象的であり、具体的なエピソードとして被抗告人が指摘する点も、個別的に見れば夫婦関係に深刻な影響を生じさせるようなものとは認め難いし、抗告人において是正することも不可能なことではない。

 また、抗告人は、旅行や帰省に関する被抗告人の希望を聞き入れるなど、自分なりに家庭を崩壊させないよう努めてきており、同居中はもちろん、別居後も被抗告人に生活費を送金しているものであり、被抗告人も、生活費が送金されている現状においては、離婚まで求める考えはない旨を述べているし、抗告人の肩書住所の近くに居住し、調停委員の勧めに従って食事を共にするなど、抗告人を避けようとしてはいない。

 さらに、被抗告人は、春子が高圧的な態度で接する抗告人を嫌っていることを別居の理由として挙げているが、このような事情は通常の親子関係においても数多く見受けられることであり、家族が同居する上でそれほど重視すべきものとは思われない。

 以上の認定に加え、別居期間がそれほど長期に及んでいないことも考慮すると、抗告人と被抗告人の婚姻関係は、いまだ回復することができない程度に破綻しているということはできないし、被抗告人が抗告人の肩書住所で抗告人と同居することの障害となるような顕著な事情を見いだすこともできない。抗告人の言動が被抗告人や春子に不快感と嫌悪感を与え、抗告人においてそのことを改めようとしなかったことが、別居の大きな原因になっていることは否定できないが、それ以上に、夫婦は互いに協力し扶助するという姿勢を放棄し、自分本位に振る舞ってきた被抗告人の態度が、今日の事態を招いたといわざるを得ない。

 以上によれば、被抗告人において抗告人の肩書住所で抗告人と同居することを拒否する正当な事由があると認めることはできないから、抗告人は、被抗告人に対し、同居の審判を求めることができると解するのが相当である。したがって、被抗告人は、抗告人の求める同居に応じた上で、当事者双方が、これまでの自分本位な考えや態度を改め、相手方の心情を思いやりながら協力していくよう努めるべきである。

第3 結論
 よって、被抗告人に対し同居の審判を求める抗告人の申立ては理由があるから、これを却下した原審判を取り消すべきであるところ、事案の性質、審理の状況にかんがみると、当裁判所は、みずから事件について審判に代わる裁判をするのが相当であると認めるので、家事審判規則19条2項の規定に基づき、被抗告人に対し、抗告人の肩書住所において抗告人と同居するよう命じることとして、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官・塩崎勤、裁判官・小林正、裁判官・萩原秀紀)

別紙 即時抗告申立書〈省略〉