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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

結婚

同居を命ずる審判申立の相当性を否認し却下した家裁審判紹介

○家を出て行った夫に対し、同居を命じる裁判を出すことができますかとの質問を受けました。「逃げた夫或いは妻に対し同居を命じる審判」で、「相手に自発的に戻る気持を持たせるには、国の力など借りず自ら相手の気持ちに訴えるしかありません。ですから、逃げた夫或いは妻に対し同居を命じる家庭裁判所の審判を求めることは、無駄というのが私の結論です。 」と述べたとおりで、無駄だから止めた方が良いですよと回答しました。

○同居についての紛争は、家事事件手続法別表第二の1で
項 事項             根拠となる法律の規定
婚姻等
一 夫婦間の協力扶助に関する処分 民法第七百五十二条

として同居の審判の申立ができます。

○同居を命じる審判の申立は仮に認められたとしても、直接強制は勿論、間接強制も認められず、現実には殆ど効果はありません。従って同居を命じる審判申立は実務では殆どないと思っていましたが、実際、同居の調停・審判申立件数は多くなく、更に同居請求審判認容例はごく僅かとのことです。

○先ず同居しての夫婦の共同生活体を維持することが困難と認められ、本件で同居を命ずる審判をすることが相当であるとは認めることはできないとして、本件申立てが却下された平成12年3月31日横浜家裁審判(第一審、家庭裁判月報52巻12号73頁)全文を紹介します。

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主   文
本件申立てを却下する。

理   由
1 申立人は相手方に対し申立人の住居での同居を求めるところ,一件記録によれば以下の事実が認められる。
(1)申立人(昭和12年5月7日生)と相手方(昭和32年11月18日生)は昭和63年6月27日に婚姻し,その間に長女栞が平成元年5月27日に生まれた。

(2)申立人夫婦は平成6年9月までは特に問題を生ずることなく同居しており,同月に相手方は数日間家を出たものの,その後は家族で旅行等もしていたが,平成10年になって8月及び12月にそれぞれ家を出た。いずれの場合にも申立人の説得で相手方は短期間のうちに住居に戻っていた。
 相手方は最終的に,平成11年2月19日,申立人の外出中にかねてから賃借していた付近のアパートに子を連れて転居し,現在まで申立人と別居している。

(3)相手方は,申立人の日頃の言動に不愉快を感じ,また相手方の友人関係に何かと干渉したりするので,子が幼稚園当時から家庭内別居の状態にあるとして,申立人とはもう同居することはできないとする。そして申立人との今後の関係についてこのまま別居でもよいし,離婚してもよいとするが,婚姻費用の給付がない場合には離婚したいとする。また,相手方は子が申立人を嫌っていることも同居することができない事由にしているが,その嫌っているとする事由自体が重大なものとは解されないし,相手方のいう申立人の言動についても,その1つ1つ自体は取立てて悪質なものではない。
 なお,申立人と相手方は,別居後も何回か子と共に外で食事をしているが,これについて相手方は,申立人との食事は楽しくないし義務的にしていたという。

(4)これに対し,申立人は婚姻の継続を望み,相手方と同居して生活することについて自信を示すが,そのためには自分も努力するが,相手方もわがままを直してもらう必要があるとし,相手方が申立人の身の回りのことは何もせず,家事もほとんどしなかったが,相手方の身勝手を我慢してきたとする。また,相手方は申立人の地位や立場を十分理解していないし,男のプライドを無視しているともいう。申立人の就労により家庭を支えているのに相手方には感謝の念がないともする。そして,子のためにも同居したいとし,もし同居することができないとしても,離婚したくないとする。


(1)夫婦は同居し,互いに協力し扶助しなければならないから,夫婦の一方が合理的な理由もなくその住居に同居しないときは,他の一方は住居に同居を求めることができる。しかし,この同居義務は夫婦の共同生活体を維持するためのものであるから,これを維持することが困難な場合は,他の一方に同居を強いることができないものと解される。また,この同居義務は強制履行になじまないから,この義務に応じない場合に婚姻費用の負担義務を免れること,又は悪意の遺棄として離婚原因になることがあるとしても,他方の任意の履行に委ねられるほかはない。

(2)これを本件についてみるに、相手方は今までも何回か家を出たことがあり,今までは申立人の説得でその度に戻っていたが,最終的に平成11年2月に子と共に家を出て別居した。そして今回は,客観的にみてその事由があるかは別として,相手方は申立人との生活を嫌って同居することをあくまでも拒否し,離婚事由があるかは別としても離婚することも考慮しており,また申立人からの婚姻費用の給付がない場合には離婚したいとしている。

 このように,本件では同居しての夫婦の共同生活体を維持することが困難と認められ,また上記の同居義務の性質からみても,本件で同居を命ずる審判をすることが相当であるとは認めることができない。 
よって主文のとおり審判する。