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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

養育費・認知

私立大学医学部に通う子に対する父医師の扶養料額を定めた判例紹介1

○私立大学医学部に通う原審申立人が、父である原審相手方医師に対し、現在の養育費では学費等に不足が生じているとして扶養料の支払を求めた事案において、原審相手方医師は養育費のほかに一定の扶養料を分担する義務を負うべきとした上で、扶養料の分担額について、分担対象、分担割合、分担額から控除すべき額等を認定し、分担すべき扶養料を算定して支払を命じた平成29年12月15日大阪高裁決定(判時2273号38頁)を2回に分けて紹介します。


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主  文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 原審相手方は,原審申立人に対し,450万円を支払え。
3 原審相手方は,原審申立人に対し,平成30年2月から平成32年11月まで,次のとおりの金員を支払え。
 (1) 毎年2月末日限り 80万円
 (2) 毎年7月末日限り 35万円
 (3) 毎年11月末日限り 35万円
4 手続費用は,原審及び当審ともに各自の負担とする。

理  由
第1 抗告の趣旨及び理由

1 原審相手方の抗告の趣旨及び理由
 別紙1ないし3のとおり
2 原審申立人の抗告の趣旨及び理由
 別紙4ないし7のとおり

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 本件記録(原審における双方の審問における各陳述を含む。)によれば,次の事実が認められる。

(1) 当事者等
ア 原審申立人は,平成7年*月*日生の男性であり,原審相手方とC(以下「母」という。)との間の長男である。
イ 原審相手方は,昭和36年*月*日,医師である父Dと薬剤師の資格を有する母Eの間の長男として,○○で出生し,○○大学医学部に進学し,医師資格を有している。
ウ 母は,昭和40年*月*日,医師である父Fと母Gとの間の六女として出生し,薬剤師の資格を取得した。

(2) 原審相手方と母との離婚に至る経緯
ア 原審相手方は,同大学卒業後,*や*の大学の関連病院で勤務医として勤務していた。

イ 原審相手方と母は,平成5年*月*日,婚姻し,平成7年*月*日,長男である原審申立人を,平成12年*月*日,長女であるH(以下「妹」といい,原審申立人と併せて「子ら」という。)をもうけた。
 原審相手方と母は,子らと共に,*のマンション(以下「自宅」という。)で,子らと同居していた。

ウ 原審相手方と母は,平成19年頃に原審相手方の不貞が母に発覚した後も,自宅で同居を続け,その頃,原審相手方と子らとの関係は良好であった(甲40ないし42)。
 ところが,原審相手方は,平成21年*月,*で整形外科医院を開業すると同市内で生活し,自宅に戻るのは週1回程度になった。原審相手方は,平成22年になると母に離婚を申し入れ,同年*月には住民票を原審相手方の肩書住所地に移した(甲41)。

エ 原審相手方は,母に対し,平成22年*月*日,離婚条件を提案したが,子らの養育費等については,「前に話したように,H(妹),B(原審申立人)が大学卒業するまで,それぞれ50万ずつは責任を持って必ず支払います。」,「養育費用についてですが,前に学費込みだと話したと思います。…Bが本当に医者になりたいと思って医学部を受験した結果として私立にしか受からなかった時には,自分も出来るだけ応援してやりたいと思います。」と提案したほか,離婚後の母及び子らの住居等について,「持ち家が今必要なら,頭金1000万での15年間位までのローン物件…が見つかれば…こちらの銀行でローンをくみます。」,「離婚後の子供たちやC(母)の財産としてマンションを買うことを同意したわけです。」,「そちらにある僕の通帳名義内の預金とマンションが慰謝料と考えてください。」などと申し入れた(甲33,34)。

 母は,上記提案等を踏まえ,原審相手方との離婚に応じることを検討し,原審相手方は,平成23年*月*日,5000万円の住宅ローンを組んで,原審申立人の肩書住所地のマンション(以下「本件マンション」という。)を購入し,母及び子らは,同年*月*日,本件マンションに転居した(原審申立人の住民票,甲24,29,33,34)。しかし,結局,原審相手方と母との離婚協議は調わなかった。

オ そこで,原審相手方は,母に対し,平成23年,離婚を求める調停を申し立て(京都家庭裁判所同年(家イ)第*号),平成24年*月*日,原審申立人(当時17歳)及び妹(当時12歳)の親権者をいずれも母と定めて離婚する旨の調停が成立した(甲1,以下「本件離婚」という。)。その調停条項では,子らの養育費及び本件マンションについて,概要,次のとおりの定めがある。
(ア) 原審相手方は,母に対し,子らの養育費として,平成24年*月から同人らがそれぞれ大学(医学部を含む。)を卒業するまでの間,1人につき毎月25万円を各月末日限り支払う。
(イ) 原審相手方は,母に対し,子らの養育費(一時金)として,それぞれ500万円(合計1000万円)を,平成24年*月末日限り支払う。
(ウ) 原審相手方は,子らが私立大学の医学部に進学することを希望する場合は,同人らが直接原審相手方に対しその旨を伝え,その入学金等上記(ア)及び(イ)の養育費で不足する額の負担につき,当該子らと別途協議する(以下「本件協議条項」という。)。
(エ) 原審相手方は,母に対し,本件離婚に伴う財産分与として,本件マンションの持分2分の1を分与し,平成24年*月*日(本件離婚日)付け財産分与を原因とする所有権一部移転登記手続をする。
 原審相手方は,母に対し,母が引き続き本件マンションに居住することを認め,本件マンションの住宅ローンを引き続き責任をもって支払い,本件マンションの原審相手方の共有持分を将来的に原審申立人に譲渡することを約束する。母は,本件マンションの管理費,共益費及び固定資産税等を負担する。

(3) 本件離婚から本件に至るまでの経過
ア 原審相手方は,本件離婚後も,子らとの交流を続け,良好な関係を維持していた。
 原審申立人は,本件離婚当時,*高校3年生であり,平成25年*月の卒業後医学部への進学を考え,原審相手方に進路について相談したことがあった。原審相手方も,本件離婚当時,原審申立人が医学部へ進学するのであれば応援したい,その場合,国公立大学か,私立大学であれば負担の少ないI大学やJ大学がよいとの意向を示した(甲4)。

 原審申立人は,同年には,センター試験の結果が思わしくなかったため,*工学部しか受験せず,不合格となった。原審申立人は,*高校を卒業後,浪人して医学部に絞って受験勉強を続けることにした。

イ 原審相手方は,本件離婚から7か月後の平成25年*月*日,K(昭和44年*月*日生,以下「再婚妻」という。)と再婚した。原審相手方は,再婚すると,子らとの交流を拒否するようになり,平成25年*月*日には,京都家庭裁判所に対し,養育費の減額を求める調停を申し立てた(甲2,9,40,41)。

 原審申立人(一浪中)は,上記調停のことを聞かされると,原審相手方に電話をし,養育費を減額せずに援助してほしい,翌春には医学部を受験するつもりである,国公立が第一希望だが,私立大学も受験するつもりである,私立大学に進学することになった場合には援助してほしいなどと述べた。これに対し,原審相手方は,こっちにはこっちの事情があると述べて早々に電話を切った。他方で,原審相手方は,母から送られてくる学費等の明細から,原審申立人の生活状況については概ね認識していた。

ウ 原審申立人は,一浪中の大学受験(平成26年)では国公立及び私立大学の各医学部を受験したが,いずれも不合格となった。
 原審申立人は,浪人2年目(平成27年)には,私立大学への進学も真剣に考えるようになり,公立及び私立大学の各医学部を受験し,L大学の医学部(以下「本件医学部」という。)にのみ合格した。原審申立人は,母との相談の上,原審相手方との約束があるから何とかなると言われて本件医学部に入学した。

エ 前記イの養育費減額の調停は,平成26年*月*日,審判手続に移行し,平成27年*月*日,大阪高等裁判所において,標準的算定方式に基づく検討結果等を踏まえ,原審相手方の減額請求の申立てを却下する旨の決定(以下「大阪高裁決定」という。)がされた(同裁判所同年(ラ)第40号,甲9,22,23)。

 母は,その間,平成26年,原審相手方が子らと面会交流することを求める審判を申し立て,平成27年,同審判事件は調停に付された(京都家庭裁判所福知山支部同年(家イ)第*号等)が,原審相手方は,再婚妻との新たな家庭を守りたいとの気持ちと母への不信感を理由に妹との交流に応じなかったため,妹に係る上記調停は不成立となった。(甲41,42)

 また,母は,平成27年*月,原審相手方に対し,原審申立人が奨学金を受けるために,原審申立人を原審相手方の扶養から外してほしいと依頼したが,原審相手方は,これにも応じなかった(甲50,乙7)。

オ 原審申立人は,原審相手方のこれまでの対応や母から聞いた上記面会交流事件の状況から,本件医学部への進学を決めた時点(平成27年春)では原審相手方に速やかに連絡することができずにいた。そして,原審申立人は,同年*月,相手方に対し,手紙で「知っているとは思うけど,(同年)4月からL医大に通っています。入学手続きの際や,入学後も学費の事やその他色々考えることがあったから,すぐに連絡できなかったです。母親からは,不足する学費等の話し合いは自分から直接言わないといけない約束になっていると聞きました。1度話をする事は出来ないですか?」と申し入れたり,原審相手方に電話して本件医学部の学費についての協議を求めた。

 これに対し,原審相手方は,原審申立人の申入れ等が母の差し金だと考えて憤り,母に対し,同年*月*日頃,「医学部をいくなら,国公立か,学費の少ない私立に(I医大やJ大学など)受験するようすすめました。それを2浪までさせて,L医大に入学させたのは,あなた(母)ではないですか。」などと母を責める手紙を送り,原審申立人に対しても,同年*月*日頃,手紙で,本件離婚時の養育費や本件マンションの取得費用の負担等を理由に養育費以上の金銭的負担を拒否し,直接会って話したいが,母の心ない言動により子らに会えなくて残念だ,今後は原審相手方に連絡しないでほしいなどと返答した。(甲2ないし5)

 原審相手方は,前項の面会交流調停不成立後の平成28年*月*日,京都家庭裁判所福知山支部から,妹からの連絡に応じること等を命じる審判を受けた(同裁判所同年(家)第*号)が,その後も,子らとの交流に応じていない(甲40,42)。

カ 原審申立人は,原審相手方に対し,平成28年*月*日,原審申立人の本件医学部進学後の学費等を扶養として支払うことを求める審判を申し立て(本件申立て),同審判事件は調停に付されたが,同調停は平成29年*月*日に不成立となり終了した。
 原審相手方は,同年*月*日の原審第1回審判手続の審問において,本件離婚時点における原審申立人の大学の学費等に関しては,将来私立大学の医学部への進学を希望する可能性があり,原審相手方の納得のいく私立大学であれば援助したいと考えていた旨述べた(原審相手方審問8項,9項)。

(4) 原審申立人の生活状況
ア 原審申立人は,本件離婚後も,母及び妹とともに本件マンション(住宅ローンについては,原審相手方が平成25年*月*日頃に完済済み)に,無償で居住し,本件医学部進学後,本件マンションから電車で通学している。原審申立人は,現在3回生であり,週3回程度の家庭教師等のアルバイトで月額8万8000円程度を得ている。

 本件医学部の学納金は卒業までの6年間で合計3141万円である。学納金を納付する際には,併せて医学部PA会費,学友会費の負担が必要である。そのため,原審申立人が本件医学部を卒業するまでの6年間の学納金等の総額は約3200万円となる見込みである。また,その納付時期及び額は,分割の場合,第1期(3月)の納付額が年額の半分程度,第2期(8月)及び第3期(12月)がほぼ同額(年額の約4分の1程度)である(甲6,7,18)。これまでの学納金等(3年生の1期分までで合計1443万5000円)は,原審相手方からの養育費の振込先の預金等から納入されている。(甲6,11,18,42)

イ 母は,本件離婚当時は稼働していなかったが,本件離婚後,薬剤師としてパートでの稼働するようになった。母は,パート勤務を辞めた時期もあったが,原審申立人が本件医学部に進学した平成27年*月頃以降,薬剤師としてパートでの稼働を再開し,平成28年*月以降は正社員として稼働している。(甲8,13,22,32,42)
母の平成28年の年収(給与収入)は,526万5125円(内39万2000円は同年1月から3月までのパートの収入)である(甲13)。

ウ 妹は,現在,*高校2年生である(甲20)。

(5) 原審相手方の生活状況
ア 原審相手方は,本件離婚後も引き続き整形外科医院を経営している(甲26,27,乙1)。
 原審相手方の本件離婚の年(平成24年)の収入は,給与収入が512万2670円,事業所得が3558万2556円,雑所得が30万9728円であり,平成28年の収入は,給与収入が587万6620円,事業所得が4851万1327円,雑所得が66万7133円である(甲26,乙1。なお,上記の事業所得の算定に当たっては,本件離婚当時にはなかった専従者給与額900万円が考慮されている。)。

イ 再婚妻は,相手方の医院の手伝いをすることがあるものの実質的には専業主婦である。原審相手方と再婚妻との間に子はない。