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不倫問題

同居理由に婚姻破綻否認し不貞行為第三者に50万円支払命じた判例紹介

○原告妻が、被告と原告の夫Aとの間で不貞関係があったため、原告とAとの婚姻関係が破綻したとして、被告に対し、不法行為による損害賠償440万円を請求した事案において、被告がAとの間で不貞関係をもったことが認められ、また、Aの暴力や借金問題があったことは認められるが、原告とAとの同居関係は続いていたことから、婚姻関係が破綻したとはいえず、婚姻関係が破綻したのは、Aが原告から別居した後のことであり、被告の不貞行為もその一因と認められるとして、慰謝料50万円の限度で原告の請求を認容した平成23年3月22日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)全文を紹介します。

○不貞行為第三者への慰謝料請求では、間男・間女側から必ず婚姻破綻後の不貞行為であり免責されるとの主張が出されます。しかし、同居している場合の婚姻破綻認定はホントに難しく、同居している場合は、金額は下げてもゼロとする判例はなかなか見つけられません。

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主  文
1 被告は,原告に対し,金55万円及びこれに対する平成20年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを8分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨

(1) 被告は,原告に対し,金440万円及びこれに対する平成20年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,被告が原告の夫との間で不貞関係があったため,原告と夫との婚姻関係が破綻したとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料400万円及び弁護士費用相当損害金40万円並びにこれらに対する不法行為後の日である平成20年7月3日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

1 争いのない事実等
(1) 原告(昭和53年○月○日生)とA(以下「A」という。)とは,平成17年6月2日に婚姻した。
 原告とAとの間に,長女B(平成18年○月○日生)をもうけた。(甲1)

(2) 平成19年9月27日,原告は,Aを相手方として,夫婦関係調整(離婚)調停を東京家庭裁判所に申し立てた。(甲3)

(3) 平成20年4月17日,上記調停事件について,次の内容を含む調停が成立した。(甲3)
ア 原告とAとは調停離婚する。
イ 長女Bの親権者を原告と定める。
ウ Aは,原告に対し,Bの養育費として,平成20年5月から同人が満20歳に達する日の属する月まで,1か月5万円を支払う。
エ Aは,原告に対し,本件離婚に伴う解決金として金200万円を,平成20年5月から平成24年6月まで1か月4万円ずつ分割して支払う。

(4) 平成20年6月30日,原告代理人弁護士は,被告に対し,内容証明郵便で,Aとの不貞行為により家庭を破壊したとして,慰謝料400万円を請求し,同郵便は同年7月2日被告に到達した。(甲4の1と2)

2 争点
(1) 被告は,Aと不貞関係をもったか,その結果,原告とAとの婚姻関係を破綻させたか。

(原告の主張)
ア Aは,a社に勤務しており,被告は,職場の同僚である。
イ 被告は,平成19年5月7日から8日にかけて,及び,同月9日から10日にかけて,Aとの間で,不貞関係をもった。
ウ 平成19年6月10日,Aは,不貞の事実を,原告に認めた。
エ Aは,平成19年4月以降ほとんど原告の自宅に帰ることはなくなっていたところ,同年6月,原告から自宅に帰らないようにとの通告を受け,それを了承し,帰宅しなくなった。
オ 原告は,Aの不貞により,婚姻生活を続けることは不可能であり,子への影響も考え,離婚を決意し,夫婦関係調整調停申立をし,Aと離婚した。

(被告の主張)
ア 認める。
イ 否認ないし不知。
 Aに性的関係を強要されたのであるから,被告に故意過失はない。
 平成18年3月には,Aの暴力や借金問題のため,既に,婚姻関係は破綻していた。
ウ 否認ないし不知。
エ 不知。
オ 不貞が被告との不貞であれば否認し,調停が成立して離婚したことは認め,その余は不知。

(2) 不貞行為及び婚姻関係の破綻により,原告は,精神的苦痛を被ったか,その損害額はいくらが相当か。
(原告の主張)
ア 不貞行為及び婚姻関係の破綻により,原告は計り知れない精神的苦痛を受けた。
イ 原告の精神的苦痛を慰謝するには,慰謝料額は400万円を下らない。
ウ 弁護士費用相当損害額は慰謝料の1割相当40万円が相当である。

(被告の主張)
ア 否認する。
イ 争う。
 離婚調停事件において,原告は,Aから,解決金200万円の支払いを受けることになっている。これには慰謝料額も含まれるから,斟酌されるべきである。
ウ 争う。

第3 争点に対する判断
1 上記争いのない事実等に,甲1ないし3,4の1と2,5の1と2,6ないし8,乙2,原告本人,被告本人,及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1) 原告(昭和53年○月○日生)とA(A)とは,平成17年6月2日に婚姻した。
 原告とAとの間に,長女B(平成18年○月○日生)をもうけた。(甲1)
(2) 平成17年7月,Aが,結婚前から約300万円の借金を負っていることが判明した。さらに,Aが,結婚前に,公共料金・税金・家賃・駐車場費用を滞納していることが発覚した。(甲8)
(3) 平成18年5月,Aは,株式会社aに入社した。(甲8)
(4) 平成18年7月ころから,Aは,不審な行動について原告から問いつめられると,原告に対し,暴言や暴力で応じるようになった。(甲8)
(5) 平成18年9月,Aは,原告に対し,とっくみあいのけんか状態となり,その際,原告の首を絞めるという行為までした。(甲8)
(6) 平成19年2月,Aは,借入するための書類を取り寄せ,このことを知ったAの父親に注意された。(甲8)
(7) 平成19年5月7日,Aは,被告と待ち合わせをし,丸の内線にて中野新橋駅で下車し,焼肉屋で夕食を共にし,午後10時半過ぎころに,被告と,東京都中野区〈以下省略〉の当時の被告の自宅マンションに入った。翌日午前8時半過ぎころ,Aは,被告と共に,被告の自宅マンションから出てきた。その後同乗したタクシー内で,Aと被告とは親しげにしている様子が写っていた。(甲6)
(8) 平成19年5月10日午前8時半ころ,Aは,被告とともに,被告自宅マンションから出てきた。(甲6)
(9) 平成19年5月14日ころ,b探偵事務所は,原告に対し,A及び被告についての尾行調査につき,調査結果報告書を提出した。(甲6)
(10) 平成19年5月22日,Aは,原告に対し,小遣いのほかに追加して金銭を交付するように要求しバッグを取ろうとした際,原告の唇及びまぶたに挫創をあごに打撲傷を負わせ,原告に精神的に大きな打撃を与えた。(甲8)
(11) 平成19年6月,Aは,原告から自宅に帰らないようにとの通告を受け,それを了承し,帰宅しなくなった。以後別居状態であった。(甲8)
(12) 平成19年9月27日,原告は,Aを相手方として,夫婦関係調整(離婚)調停を東京家庭裁判所に申し立てた。(甲3)
(13) 平成20年4月17日,上記調停事件について,次の内容を含む調停が成立した。(甲3)
ア 原告とAとは調停離婚する。
イ 長女Bの親権者を原告と定める。
ウ Aは,原告に対し,Bの養育費として,平成20年5月から同人が満20歳に達する日の属する月まで,1か月5万円を支払う。
エ Aは,原告に対し,本件離婚に伴う解決金として金200万円を,平成20年5月から平成24年6月まで1か月4万円ずつ分割して支払う。
(14) 平成20年6月30日,原告代理人弁護士は,被告に対し,内容証明郵便で,Aとの不貞行為により家庭を破壊したとして,慰謝料400万円を請求し,同郵便は同年7月2日被告に到達した。(甲4の1と2)

2 被告は,Aと不貞関係をもったか,その結果,原告とAとの婚姻関係を破綻させたか(争点(1))について。
(1) 上記認定事実によれば,被告が平成19年5月7日から8日にかけて及び同月9日から10日にかけてAとの間で不貞関係をもったことが認められる。
 被告は,Aに性的関係を強要されたのであるから被告に故意過失はないと主張し,被告本人の陳述書及び供述にはこれに沿う部分があるが,これを裏付ける証拠はなく,上記認定事実に照らし不自然であるから採用の限りでない。そのほか,被告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。

(2) また,被告は,平成18年3月にはAの暴力や借金問題のため既に婚姻関係は破綻していたと主張し,被告本人の陳述書及び供述にはこれに沿う部分がある。
 たしかに,上記認定事実によれば,平成17年7月Aが結婚前から約300万円の借金を負っていることが判明し,さらに,Aが,結婚前に,公共料金・税金・家賃・駐車場費用を滞納していることが発覚したことがあり,平成18年3月までには,Aの借金問題で夫婦間にギクシャクしたものがあり,次いで,平成18年7月ころからAが不審な行動について原告から問いつめられると原告に対し暴言や暴力で応じるようになり,平成18年9月Aが原告に対しとっくみあいのけんか状態となるなどAの暴力が問題となったことが認められるが,同居関係は続いており婚姻関係が破綻したとはいえず,そのほか,被告の不貞行為以前に婚姻関係が破綻したことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はない。
 平成19年5月ころまでに,Aの借金問題や暴力のために夫婦関係がかなり危うい関係にあったことは認められるものの,同居生活は続いており,婚姻関係が破綻したのは,その後Aが原告から別居した後のことであり,被告の不貞行為もその一因と認められる。


(3) したがって,被告には不貞行為の不法行為が認められる。

3 不貞行為及び婚姻関係の破綻により,原告は,精神的苦痛を被ったか,その損害額はいくらが相当か(争点(2))について。
(1) 上記認定事実によれば,不貞行為及び婚姻関係の破綻により原告が精神的苦痛を被ったことが認められる。

(2) 上記認定事実によれば,婚姻関係破綻の主たる原因はAの借金問題や暴力にあり,原告の不満が累積し,不貞行為についての調査報告書がもたらされたころには原告とAの婚姻関係はかなり危うい状況にあったこと,そのほか上記認定事実及び諸般の事情を総合考慮すると,原告の精神的損害を慰謝するには50万円が相当である。
 弁護士費用相当損害金はその1割である5万円が相当である。


(3) したがって,被告は,原告に対し,慰謝料50万円及び弁護士費用相当損害金並びにこれらに対する不貞の不法行為後の日である平成20年7月3日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うべきものである。

4 よって,原告の請求は主文の限度で理由があるからこの限度で認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判官 熊谷光喜)