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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

面会交流・監護等

夫の面会拒否について1回30万円に減額した東京高裁決定全文紹介

○「夫の面会拒否に1回100万円の支払を認めた東京家裁決定全文紹介」の続きで、民事執行法172条1項により、間接強制の方法として、未成年者と面会交流を命じ、夫が面会を履行しないときは、妻に対し、不履行1回につき100万円の割合による金員の支払を命じた平成28年10月4日東京家裁決定(判例時報2323号135頁)の抗告審平成29年2月8日東京高裁決定(TKC)全文を紹介します。

○以下の報道が出ていましたが、判決全文の公開が待たれていました。

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面会交流 拒否1回100万円「あまりに過大」30万円に
毎日新聞2017年2月11日 01時00分(最終更新 2月11日 02時19分)


東京家裁決定は「1回の拒否に100万円の制裁金」

 別居している長女との月1回の面会交流が裁判で認められたのに長女と同居する夫が応じないとして、妻が1回の拒否につき100万円の制裁金の支払いを夫に命じるよう求めた裁判で、東京高裁は8日付で、請求を認めた東京家裁決定(昨年10月)を変更し、1回30万円に減額する決定を出した。川神裕裁判長は「100万円はあまりに過大で相当ではない」と指摘した。

 妻は取り決めを守らない親に裁判所が制裁金の支払いを命じる「間接強制」を申し立てた。同様のケースでは拒否1回につき5万~10万円程度が多く、家裁決定は異例の高額だとして注目された。

 高裁決定は「小額の支払いを命じるだけでは面会交流は困難」と家裁の判断を支持する一方、金額について「(面会拒否を続けた)夫の態度を考慮すると理由がないものではないが、相当ではない」と判断した。

 高裁決定などによると、夫妻は離婚裁判中で2011年から別居。東京家裁が15年に妻と長女の月1回の面会を認めて確定したが、夫は面会に応じなかった。100万円の間接強制を認める家裁決定後、妻と長女は5年ぶりに面会した。【伊藤直孝】


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主   文
1 原決定を次のとおり変更する。
(1)東京高等裁判所平成■年(ラ)第■号面会交流審判に対する抗告事件(原審:東京家庭裁判所平成■年(家)第■面会交流申立事件)の執行力ある決定正本に基づき,抗告人は,相手方に対し,別紙のとおり,未成年者との面会交流をさせなければならない。
(2)抗告人が,原決定の送達日以降,前項の義務を履行しないときは,抗告人は,相手方に対し,不履行1回につき30万円の割合による金員を支払え。
2 抗告費用は各自の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由等

 抗告の趣旨及び理由は,別紙執行抗告申立書,抗告理由書,平成28年11月24日付け準備書面及び平成29年1月25日付け準備書面(いずれも写し)各記載のとおりであり,これに対する相手方の意見は,別紙平成28年12月28日付け主張書面及び平成29年2月2日付け主張書面(いずれも写し)各記載のとおりである。

第2 事案の概要等
1 抗告人は,当庁平成■年(ラ)第■号面会交流審判に対する抗告事件において,相手方に対し,別紙記載のとおり相手方と未成年者とが面会交流することを認めなければならない旨命じられた。
 本件は,相手方が,抗告人が上記義務を履行しないとして,抗告人に対する間接強制の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。

2 原決定が,抗告人に対し,相手方に対し別紙記載のとおり未成年者と面会交流させなければならないこと,抗告人が原決定の送達日以降上記義務を履行しないときは,相手方に対し不履行1回につき100万円の割合による金員を支払うことを命じたところ,抗告人が,これを不服として本件抗告をした。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 認定事実は,次のとおり訂正するほかは,原決定の「理由」欄の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原決定2頁19行目の「したが」を「した(以下,この審判を「面会交流審判」という。)が」と改める。
(2)原決定2頁25行目から3頁3行目までを次のとおり改める。
「(8)原審は,平成28年10月4日,原決定をした。
(9)原決定の後,平成28年11月6日,同年12月4日及び平成29年1月2日に相手方と未成年者との面会交流が行われた。」
(3)原決定3頁4行目の「(9)」を「(10)」と改める。

2 判断
(1)前記1の認定事実並びに抗告人の原審及び当審における主張によれば,抗告人は,平成23年9月12日から原決定に至るまで5年以上(相手方が未成年者との面会交流を求めて調停の申立てをしてからでも4年以上)にわたり相手方と未成年者との面会交流を認めず,その間に確定決定により別紙のとおり相手方と未成年者とが面会交流することを認めなければならない旨命じられたにもかかわらず(以下,この義務を「本件義務」という。),その後も原決定に至るまで任意の履行をせず,原決定後は履行をしたものの,原決定による間接強制の下で履行したものであって,なお抗告人が任意に履行することを期待することが困難な状況にあることが認められるから,本件義務の履行を間接強制の方法によって確実に実現させる必要がある。

 そして,一件記録によれば,相手方との面会交流を拒否する未成年者の意向には抗告人の影響が相当程度及んでいることが認められるから,抗告人は自ら積極的にその言動を改善し,未成年者に適切な働き掛けを行って,相手方と未成年者との面会交流を実現すべきであるが,従前の経緯や抗告人の原審及び当審における主張からすると,抗告人に対し少額の間接強制金の支払を命ずるだけではそれが困難であると解されること,抗告人が年額2640万円の収入を得ていること,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件における間接強制金を不履行1回につき30万円と定めるのが相当である(原決定は,本件における間接強制金を不履行1回につき100万円と定めたが,相手方の原決定前の不履行の態様等に照らして,そのような判断にも理由のないものではないものの,その金額は,上記事情を考慮しても余りにも過大であり相当でない。)。

 なお,そもそも抗告人は確定決定に基づき本件義務を履行しなければならないものであるし,仮に抗告人の本件義務が今後再び履行されず,その不履行が続くようであれば,民事執行法172条2項により間接強制金が増額変更される可能性があるから,抗告人は,それらのことも念頭に置いて,本件義務を履行しなければならない。

(2)ところで,抗告人は,間接強制が認められるためにはその義務が債務者の意向のみによって履行できる義務であることが必要であるところ,■歳になった未成年者が相手方との面会交流を拒絶する意思を明確に示している以上,抗告人が自己の意向のみによって本件義務を履行することは不可能であるから,本件申立ては却下されるべきであると主張する。

 しかしながら,子の面会交流に係る審判又は審判に代わる決定(以下「審判等」という。)は子の心情等を踏まえた上でされているから,監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判等がされた場合,子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは,これをもって,上記審判等がされた時とは異なる状況が生じたといえるときは上記審判等に係る面会交流を禁止し,又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ることなどは格別,上記審判等に基づく間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではないところ(最高裁平成24年(許)第48号同25年3月28日第一小法廷決定・民集67巻3号864頁参照),本件において,確定決定時と異なる状況が生じていることを認めるに足りる資料はない。

 そして,一件記録によれば,面会交流審判も確定決定も,抗告人に対して作為義務を課すのが相当か否かが問題とされた中で,未成年者の意向を踏まえつつも抗告人に対して作為義務を課したことが認められるのであって,抗告人の上記主張は,結局は面会交流審判及び確定決定の結論を論難するものにすぎず,その主張する事情は本件申立てを却下すべき事情に当たるとは認められない。
 したがって,抗告人の上記主張は採用することができない。

(3)また,抗告人は,〔1〕平成28年11月6日に行われた面会交流の際,相手方は未成年者の引渡場所に不貞相手と疑われる男性を同行したが,そのような行為は未成年者の福祉に反するし,上記面会交流の際,相手方は少なくとも3人程度の第三者が居住している相手方の肩書住所地の自宅で面会交流を行ったが,面会交流に抗告人の全く知らない第三者が関与することは,相手方が従前連れ去り等を敢行した事実を考え合わせると許されるべきではないから,間接強制は認められるべきではない,〔2〕原決定後に行われた相手方との面会交流により未成年者に体調不良等の悪影響が出ているから,間接強制は認められるべきではないと主張する。

 しかしながら,上記〔1〕については,相手方が未成年者の引渡場所に同行した男性が相手方の不貞相手であることを認めるに足りる資料はないし,そのことが直ちに未成年者の福祉に反するということもできず,第三者が住む相手方の自宅で面会交流をしたからといって,相手方による未成年者の連れ去りのおそれがあるということもできない。上記〔2〕についても,原決定後に行われた相手方との面会交流により未成年者に体調不良等の悪影響が出たことを認めるに足りる的確な資料はない。

 また,そもそも,未成年者の福祉に反するような新たな事情が生じたというのであれば,抗告人は面会交流を禁止し又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てることによって対応するべきであるから,抗告人が主張する上記事情は本件申立てを却下すべき事情に当たるとは認められない。
 したがって,抗告人の上記各主張は採用することができない。

(4)他方,相手方は,原決定が不履行1回につき100万円の間接強制金を定めたからこそ相手方と未成年者との面会交流が実現したのであり,原決定がなければ面会交流は実現しなかったから、上記間接強制金は相当であり,原決定は維持されるべきであると主張するが,上記間接強制金が余りにも過大であり相当でないことは前記説示のとおりであり,不履行1回につき30万円の間接強制金では抗告人による本件義務の履行が期待できないと直ちに認めるべき事情はないから,抗告人の上記主張は採用することができない。

3 以上によれば,抗告人に対し,相手方に対し別紙記載のとおり未成年者と面会交流させなければならないこと,抗告人が原決定の送達日以降本件義務を履行しないときは,相手方に対し不履行1回につき30万円の割合による金員を支払うことを命ずるのが相当であるので,これと一部結論を異にする原決定を上記のとおり変更することとして,主文のとおり決定する。 

平成29年2月8日 東京高等裁判所第17民事部 裁判長裁判官 川神裕 裁判官 伊藤繁 裁判官 森剛

(別紙)
1 月1回 第1日曜日 午前11時から午後4時まで
2 抗告人は,1の面会交流開始時間に,■駅の改札口において,抗告人又は抗告人の指示を受けた第三者をして相手方に未成年者を引き渡す。
3 相手方は,1の面会交流終了時間に,■駅の改札口において,抗告人又は抗告人から事前に通知を受けた抗告人の指示する第三者に対し未成年者を引き渡す。
4 当事者や未成年者の病気や未成年者の学校行事等やむを得ない事情により,上記日程を変更する必要が生じたときは,上記事情が生じた当事者が他方当事者に対し,速やかにその理由と共にその旨を電子メールによって通知し,相手方及び抗告人は,未成年者の福祉を考慮して代替日を決める。
以上